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第十話 ダンジョン弁当


 桜堤さくらづつみダンジョン第八層。

 かなり広い階層だ。

 観光客はいない。ここから先はダンジョン探索者として採取物で利益を上げたいガチ勢と、企業や団体の支援を受けたエンタープライズ勢ばかりになる。とくに企業系のパーティーというかチームは大人数編成で、どんな許可を取って持ち込んだのか、スタン効果のある最新式の電気槍エレスピアなどで武装している。

 間違っても子供は来ない階層だからはななは悪目立ちする。ギョッとした様子で二度見されることもある。子供型の魔物じゃないからな。

 ほぼ真っ暗なので普通の探索者なら明かりが必須だ。


「お花咲いてるかも」

「この感じはヘビフヨウ(ナイトフラワー)かな。匂いに気を付けて」


 闇に咲く花、と聞けば詩情を感じる人もいるかもしれないが、ライトに照らされていきなり現れる大輪の花は不気味だ。鞭のような長い根の端にピンク色の花が付いている。見た目で植物と思い込んでいると、素早い鞭に絡め捕られてしまう。そして甘ったるい香りで見当識を失わせる。ヤバいクスリ系みたいな魔物だ。


「見えたよー」


 分岐した通路の一つを抜けると、ヘビフヨウの群生する岩窟があった。甘い匂いが強烈だ。普通の視力だと光源がなければ何も見えないはずだが〈明視サイト〉スキルのお陰でほぼ全容が見渡せる。


「こんなにかよ」


 二十匹以上の群れだった。無数の鞭がざわざわと蠢いている。絡め捕られて虫の息のゴブリンも見える。魔物同士が争うのは珍しいが、縄張りを侵されればその限りではないようだ。


 ピキーンという張り詰めた響きと共に天井全体に光膜が広がり、そこから強烈な光条ビームが雨となって降り注ぐ。

 眩い輝きの中で融けるように消えていくヘビフヨウ。

 全ての魔物が消えると岩窟に漂っていた匂いも消える。ちまちま倒して群れが興奮状態になると通路にまで匂いが押し寄せるので範囲攻撃で一掃した。彼我の位置がハッキリしていないと危険な攻撃スキルだ。


「終わったよ。他にはいないね」

「おとうさん。いざめっせよ〈光芒らいとん〉って言わなきゃダメだよー」

「やだよ恥ずかしい」

「これからコラボ技ふやすのに。声出しカクニンがだいじだよ」

「勘弁して」


 コアスキル〈光芒ライトン〉は光操作。光を生み出し操ってあれこれするスキルだ。照明光から高出力レーザービームまで。便利系スキルだが目立つので控え目に使っている。もちろん技名を叫ぶ必要などない。


「迷子じゃないはずだけどな」


 はなながトングで魔石を拾う間にマップを確認。ビニールコートされた紙製の地図だ。入り口前の売店でも買える。電子機器で閲覧する3Dマップは観光客用で、探索者は両方を使い分けている。

 この経路でヘビフヨウの群生は珍しいはず。経験の浅い探索者が不用意に踏み込むと危険だろう。


「二十六個あったよー」

「お疲れはなな。ありがとう。次の部屋で休憩しよう」


 カーブの多い通路から広めの岩室へ。ここは床も壁も滑らかで人工的な雰囲気がある。四つの通路と繋がる空間だ。奥に探索者のグループがいる。床置きのランプを八人で囲んで座っている。お互いの背面を警戒する配置だ。

 俺が手を挙げて挨拶すると向こうも返す。距離があるので声は出さない。大声は魔物を呼んでしまうこともあるし、お疲れの場合もある。


「ちょっと早いけどお弁当食べようか」

「ダンジョンデラックスだね」


 手持ち式ランプを置いてヘッドガードを消灯し、並んで腰を下ろす。バックパックから『さくらづつみダンジョン弁当DX』を出す。

 入り口の屋台で買った名物弁当だ。炊き込みご飯と鶏の唐揚げ、煮物、漬物がセットになった、どうと言うこともない弁当だ。それが飯盒はんごうを模したプラスチック容器に入っているだけ。なぜか鮮やかな迷彩模様がプリントされているが、それが似合う環境はこのダンジョンにはないはず。ダンジョン内での栄養バランスを考えた調理法との売り文句だが、ダンジョン探索だからと言って特別な栄養が必要な訳もないのだ。とりあえずネタとして一回食べてみようなノリである。もちろんちょっとお高い。

 ウェットティッシュで手を拭いて弁当を開ける。


「おいしいよ」

「意外と美味いな。舐めてたよ」


 ダンジョンの閉塞感の中では単純な味付けが美味しい。満腹にならないボリューム(上げ底容器)なのはダンジョン活動に支障のないようにとの配慮だろう。きっと。


「ごちそうさま」

「ごちそうさま。よく食べたね」


 はななも完食。容器と包装ビニールもきちんとまとめて持ち帰る。水のペットボトルもバックパックに戻し背負い直す。重さは少し減ったかな。


 桜堤ダンジョンに潜るようになって残念に思うことがある。

 それは〈空間スペース〉スキルを取らなかったことだ。

〈空間〉はご存じアイテムボックスなどと同様に、異空間に物品を収納できるスキルだ。ポーターを雇えるような資金力がなければ装備食料は自分で運ぶことになる。探索を進めれば水や食料は減っていくが、魔石などの採取物は増えていく。帰り道になると結構重いのだ。

 うちの庭先に初めてダンジョンが現れ、それを踏破してダンジョンコアを手にした時、取得できるスキルの候補に〈空間〉があった。けれど自分たちの安全ばかり考えていたので〈治癒ヒール〉を選んだ。ダンジョン探索で怪我をしてもその場で治せるのだから有難いスキルだが、ここまでのところほとんど出番がないのだ。

 そしてその後は、ダンジョンコアのスキルに〈空間〉が出てこない。


 重複して候補になるスキルもあるから、再出を期待している。まさか初回特典だった?


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