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11、帝星

 帝国主星――。


 その首都上空は宇宙から見るとまるでエメラルドでできた膜が広がっているように見える。フィリス皇家に伝わる特徴的な美しい緑の瞳に敬意を表した絶対の防護壁。

 その膜の中の帝国宮殿の一室に集まった皇帝と家臣たち。

 皆沈痛な面持ちで次々と入る報告に頭を悩ませていた。

「ゴルザ宙域艦隊やられました!」

「希少鉱石の採れるメルフィス星が敵の手に・・・」

「リュクサと連絡とれません!離反した可能性が高いそうです!」

 次々と塗り替えられていく帝国領土。その被害は大きくなるばかり。

 様々な対策が立てられたが、どれも決定的な解決策にはならず、いたずらに損失がひろがるばかりだった。

 そんな中、やっと一つの希望の光となる報が入った。

「陛下、姿を消したワーゼル艦長の艦から通信が」

「ワーゼル?」

 平凡ということで有名な現皇帝はその名を聞いてすぐに思い当たらない。

「亜空間に入る直前に敵襲撃にあって行方が分からなくなっていた艦です」

 帝国の宰相が耳元でつぶやく。

「なんと!亜空間に飛ばされたと聞いたが、生きておったか!」

「はい、しかも新しい生存可能環境惑星を発見、その中に敵機を見ることのできる者を見つけたと」

「な、なんと!敵機を見るだと!?それはまことか?」

「はい」

 どよめきの起こる会議室。

「それはよかった。これで一安心じゃな」

 と平凡皇帝は上機嫌になった。

「父上」

 と声をあげたのは金の軽く波打つ髪に緑の瞳の少年。それは帝国の次の皇帝となる皇太子。皇帝に似ず、非凡ということで有名だ。

「おお、シャルセか。どうした」

 居並ぶ帝国諸将をものともせず、皇帝の前に立つ。

「僕にワーゼル艦を迎えに行かせてください」

 優雅な一礼をして皇帝に奏上する。

「なんと・・・。しかしわざわざお前が行かなくても・・・」

 才気煥発な息子を前に皇帝はいつも気おくれしたような感じになる。

「いえ、あれは帝国勝利の鍵を握っています。一刻も早くそれを使ってレゲスを叩く必要があります。僕の艦ならば迅速にその任務を遂行できます。どうか僕にお任せを」

 胸にたくさんの勲章をつけた帝国の高級将校たちが何か言いたそうにじりじりといているが、

「ああ、うん」

 息子に甘い皇帝はその意見を簡単に受けれる。

 このように父親は凡愚であったが息子のシャルセは天才と名高い。が、まだ14の少年。

 しかし帝国艦隊大将の位を既に持ち、過去2回戦闘をしたが、どちらもほぼ無傷で敵を殲滅していた。

 皇子は側近に向かって号令する。

「迅速にワーゼル艦の位置を把握せよ!帝国の名をかけて探し出せ!」

「はっ」

 皇子の側近たちがすぐに礼をして退出していく。

 その様子を見送って、

「では、僕はすぐに出発致します」

「そんなに急がなくてもいいのではないか?」

 息子のかわいい皇帝は、いつも皇子が戦争に出るのを嫌がった。

「陛下、今は危急の時なのです。必ず帰ってきます故、どうか心配なさらないで下さい」

「ああ、うん・・・」

 そうして退出の礼をして部屋を出ていく皇子。


(だからレグスなど早く潰しておけばよかったものを・・・)

 心の中で舌打ちをしながら宮殿の廊下を足早に歩く。

 父である現皇帝は平凡さゆえに事なかれを望み、何でも家臣まかせにして帝国の端にまで目が行き届かなくなった。

 戦争の少ないよい治世だともてはやす人々もいたが、おかげで底に澱んだ滓がたまってしまった。

 あの父皇帝からなぜこんな非凡な息子ができたのか、遺伝子の不思議だが、今の時代には天の配剤としかいいようがなかった。

「件の『敵が見える者』は殿下とそう年の違わない少女だそうですよ」

 皇子の側近がそっとささやく。

「ほぉ、女か・・・」

 皇子は年に似合わない不敵な笑みを浮かべた。

「殿下にはお似合いかと」

「ふふ、そうか。救国の少女を手に入れたなら、国民は喜ぶだろうか」

「はい、きっと・・・」

 皇子の緑の瞳の奥で様々な計算がおこなわれる。「救国の少女」、これを政治的に利用しない手はない。さらに自分のものにしてしまえばその効果はさらに上がるだろう。

 帝国では異星人との交配を禁じていない、むしろ積極的に奨励している。

 勝利の女神として手元に置けたなら・・・。

 皇子はまだ見ぬ少女の面影を思い浮かべながら自身の持つ戦艦へと急いだ。

   

 

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