料理長は精神を擦り減らす 下
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
さて今日は気合を入れなければならない。
久しぶりの緊張感、師匠のテストを受ける時より緊張している自分がいた。
当たり前だ。相手は美食と言われる程のモノを、常日頃から気楽に食べている方なのだ。
それが、明らかに拙い料理を駆使し、そんな相手に歓迎の料理を作らなければならない。
”異世界の方が料理人だった方がまだマシかもしれん…… ”
一般人という事が或る意味ネックとなる。
普段があのとんでもなく旨い料理なのだ。
つまりアレが普通。料理人ならばこの世界の料理水準を理解してくれるかもしれない。
だが一般人にそれを理解するのは難しい。
「ハァ~…… 参ったな」
かなり逃げ腰ではあるが、やるだけやらなくてはならない。
今日は人生で一番の最悪な日であり、転機となる日だろう。
「料理長、おはようございます。」
ガイの顔色も悪い。私の顔も同じだ。
お互いの顔を見てため息をつき、今日は頑張って行こうと励まし合う。
「料理長、今日は新作なしでお互い得意料理で行きましょうね」
「もちろんだ。それしか戦える武器がない」
胃が途轍もなくシクシクと痛み、早く今日一日が終わる事を願う。
「朝ご飯食べれそうにありません……… 」
私なんか今すぐ部屋に帰り、今まで溜めた料理ノートと睨めっこしたい気分だ。
もう今日は部下に全てを任せ、夜の晩餐メニューにかかりっきりになりたい。
こんな時上司になると面倒だなぁとつくづく思うのだ。
それはガイも同じだろう。
調理場にいる一番使えそうな部下を見ながら考えている。
「料理長、今日はお互いお役御免になりませんか?新人気分で集中させて頂きたいです」
「ああ……… それは私もだ。アイツに任せよう、多分大丈夫だろう」
当日になり、かなり精神的に追い込まれている自分がいた。
普段通り料理をして過ごすつもりでいたが、全くダメだった。
”ヤレヤレ……… 新人時代に逆戻りした様な気分だ。”
ガイは部下に状況を説明し、料理長と二人で奥の部屋に籠る事を伝えている。
遠目から驚いた顔をしている部下達、そこまでする来賓客に興味を惹かれている。
明日になれば嫌でもわかるだろう。
そして早く明日になって欲しいと願う自分に、ハァ~と深呼吸し気合を入れるのだった。
とにかく今から旨い料理を作らなければならない。
決戦は夜の晩餐だった。
****************
結果からいえば惨敗だった。
それも異世界の子供によるダメ出し、料理そのモノもだがメニュー構成と心遣いの在り方など多岐に渡るダメ出しだった。
それ以外でも料理に対する受け手(食べる側)にもダメ出し。
ダメな理由もわかり易く説明され、諭される。
とにかく凄いの一言に尽きる。
”異世界の子供は賢者並に知性があるのか?!”
とにかく私はその会場で、もう何が何だか訳が分からない気持ちだった。
食材は沢山の人の手を通して目の前にあり、料理人はそんな食材を無駄にしない様、食べて貰える努力をしなければならないと、異世界から子供は言う。
その子供の叔父だと言う男性は、何も語らずただ静かに考え込む様に食べている。
とにかく居心地があまり良くないので、ガイが言うには私の顔は強張り睨んだ様な状態だった。
最終的には子供のショウタが料理を教えてくれる事になる。
ショウタは8歳。驚きはするが、あの知性ある話を聞いた後ではだから?と思う自分がいた。
ショウタが言うには、食材に捨てる所はないと考える事が大切なのだと言う。
「とにかく使える物は何でも使うんだよ。食材だけじゃなく魔法も使って、毒あるなしわかるでしょう?それこそ調理法とか判らないの?」
それを一緒に聞いていた騎士団長の息子クリスが「確かに…… 」と呟く。
「騎士の中にいる鑑定スキル持ちが、魔物が苦手や弱点を判断する事があると聞いた。それなら料理人には、ココが美味とか鮮度状態とかいろいろ判りそうだよな」
第二王子のアンドレ殿下が言い出した。
私は鑑定というスキルを持っていない。
だがガイはあるのだから、今までどうだったのだろうか?
私がガイに振り向けば、驚いた顔をし茫然として呟く。
「騎士がそこまでできると言うのなら、もしかして出来るのか?」
命のやり取りをする騎士の切迫した状態で判ると言う鑑定内容、思考を柔軟に判断しているのだろう。
料理人は緊迫した状況にない分、思い込みでここまでしか無理と留めていた可能性がある。
「それにね。血はすぐ腐るし臭うよ。だから鮮度や味に拘るなら血を抜かなきゃね。これも魔法とかで出来ないの?できないなら別の方法はあるけどどう?」
思いつくのはクリーンという身体を清潔にする魔法だ。
戦闘中の血の汚れなど、この魔法で綺麗にしてしまう。
”それに魔法はイメージだと言うなら、もしかして……… ”
固定観念とは恐ろしいモノだ。やってみないと判らないがやる価値はありそうだ。
「骨とか野菜の皮とかいいモノ持っているんだよ。骨は身体を支えているし、野菜の皮は外敵から守っているでしょ?」
ショウタの話を聞いて、つまりその辺りにいい栄養分があるという事だ!と思い至る。
そうだ!骨の周辺の肉は特に味がいい。
野菜だって皮を薄く向くのは、少しでも旨味を残すためだ!
「だからそれらを綺麗に洗って、水で何時間も煮込んでいると凄く美味しいスープが取れるんだよ。クタクタに煮込むと素材もクタクタになるし、スープを取った後のカスは肥料に使えるよ。土に入れて美味しい野菜を作って貰うんだ。こういうのリサイクルって言うんだよ♪」
賢者と言えて妙だ。何という知識量と合理性なんだ?!
殿下達も唖然とした顔を曝している。
8歳とは一体?異世界とはどういう所なのだろうか??
最終的にいろんな話を聞くと、全てなるほどという納得する話だった。
一つ一つ検証して行けば当たり前の事、だが魔法がある為その検証を怠るこの世界の者達。
かといえば妙に生真面目に考え、変な拗れ方をしている。
しかしショウタ達は自由だ。
いつの間にやら話の内容が変わっている。
「明日はカレーを作るんだな。楽しみだ♪」
「野外で食べた事がないから楽しみですわ。それに私にも料理できるかしら♪」
「ジュリ姉、料理は出来た方がいいよ。好きな男性を落とすには胃袋からって言うからね」
「それは一体どういう意味かしら?」
「美味しい料理を作れる女性に男性は弱く惚れ易いって意味だよ。やっぱり食って大事でしょ?」
「なるほど!旨い料理を作られれば離れられん。」
「ですね。確かに死活問題です」
男性の落とし方の話とか、8歳なんだよな?
だがそれは私も言える事、昨日食べた料理をまた食べたいと必死でいる。
「それは男性だけではございませんわ。私はショウタと結婚したいですわ。美味しい料理が食べられるでしょう♪」
「私もですわ。確かに死活問題ですわ」
姫様達までうんうんと頷き、納得している。
つまり誰も旨い料理の前に降参の白旗をあげるという事だった。
そうなると何故私は未だ独身なんだ?
思わずガイを見ると、憐れむ様な目で見て指と指をあてている。
つまりそれ以前の出会いがなければならないという訳だろうか?
その後ショウタは料理人になるつもりがなく、子供を産む手助けをする治癒師になるのが夢だと言うことを知る。
それを勿体ないと思うのか、偉いと思うのかは人それぞれ。
ただ食とは人の健康を左右させる、大切な物だと教わる。
「例えばね。妊娠したら女性は赤ちゃんの分まで栄養を取らなきゃいけないんだよ。それなら赤ちゃんの為に必要なモノって何かな?」
昔からよくいろんな言い伝えは聞くが、皆眉唾物と取り合っていないのが常だった。
それこそ魔法だよりで、体調が悪いと治癒師に癒しの魔法を貰う。
「血を作り肉体を作らなきゃならないんだ。今までと同じ食事でいいと思う?」
今まで妊娠した後の食事を文献通りに作るか、上の指示通りに食事を作っていた自分。
”今までの話を聞けば、それではダメだとわかるな”
同じ家の者同士でも魔力が低い子が生まれたり、または異常に身体が弱く生まれたりする理由は、その辺も関係するのだろう。
「女性が出産後元気に健康になる為にも、しっかりとした食事と体調管理が必要なんだよ。例えば出産後出血が止まらず亡くなるとか、塩の取り過ぎで子供の発育に影響するし、女性にも悪影響を及ぼす事があるんだ。むくみとかその典型だけど判るかな?」
むくみだと?!塩の取り過ぎが原因だったのか!!
むくみが原因で妊娠中の女性が歩く事が出来なくなり、その後の出産は大変だとよく話を聞く。
そしてそういう方は亡くなられ、死産される場合も多かった。
「他にもお酒とか子供の脳や成長に影響するから気を付けてね。僕の世界ではお酒は20歳からって言われてるよ」
殿下達とアラン殿が、酒を急いで吐きに向い立ち上がって走っていく。
それを白い目で見る女性達。
「今更なのですわ。」
「もう飲んだ物は仕方ないのに、情けないです」
男性はどうしても女性に比べ、酒の摂取量が多かったりする。
それに身長の高さは男性にとって死活問題だ。
どうか許してやって欲しいと思いながら、メモを必死に取る私がいた。
横にはいつの間にか数名のメイドがいて、コチラと同じくメモを取っている。
確かに妊娠出産に関わっていく人達だ。
この者達もいずれ妊娠し出産する事もあるだろう。
ショウタが言うには、異世界に「医食同源」と言う言葉があるそうだ。
身体を作り精神にも影響する食事。
今ほど自分の仕事がどれだけ責任重大な仕事なのか、改めて考えさせられる言葉だった。
****************
「無事終わって良かったですね」
今は調理場でショウタに教わった事をいろいろとやっている。
骨を洗い割り、野菜の皮なども洗い、薬扱いの生姜や薬草を一緒に煮込んでみる。
火は残り火をそのまま使い、燃え尽きるまでそのままにしておく。
「ほとんど今まで私達が捨てていたモノですね。」
「そうだな」
これで料理が変わると言うが、どうなのだろうか?
そして保管庫から肉を取り出し、試しにクリーンをかけてみる。
イメージでは血管にある血を取り除く感じで………
初めての事なので魔力量も何気に使ったが、火を起こす魔力と大して変わらない。
その肉を切り、筋になる部分に刃を入れる。
そして焼いて軽く塩を振る。
確かにこの時点で香りが違うし、フライパンに血の滲み汁が出ない。
「料理長、試しにこれ使ってみませんか?」
ショウタが言う様に薬草扱いのニンニクを、香辛料みたいに油でいため肉を焼く。
やはり肉の焼かれた匂いがかなり違う様だ。
おそるおそる塩のみで焼いた肉を食べてみると………
「……… 旨い」
柔らかく肉の旨味を感じるし、臭くもない。
「料理長……… ニンニクは肉に必要です!」
二人で互いの肉を交換し、食べてみる。
確かにニンニク有りだ。もしや薬草は料理に使うべきなのだろうか………
「医食同源」この言葉を考えれば有りだ。
ガイはニンニクをジッと眺めて、鑑定している。
「料理長、このニンニクは妊娠女性に良い様です。疲労回復もあります。ただ食べすぎ注意と」
「料理の仕方はどうだ?」
「生だとすり潰したり刻んだりがいい様です。水は栄養が流れるから油がおススメとあります」
つまり鑑定で食材に関して調べ、いろんな料理を試す事ができる。
「俺今まで、何で毒とか鮮度以外見てなかったのだろう。」
しょんぼりとしているガイは、その後も他の肉を鑑定にかける。
丸々一頭の吊るされた肉では、寄生虫でいたんだ部分と旨いという内臓部分を発見したと言う。
なので急いで血抜きをし丸々一頭分を処理する。
旨いという内臓部分を取り出し、どんな料理がいいか鑑定にかける。
「炒め料理や煮込みだそうです。ただ血の匂いが強いのと、用心の為薬草と併合した方が効果が良いとあります。なんでこんな事までわかるんだろう?いやそう願った俺が原因か。」
いろんな意味で、更にショックを受けているガイ。
そして私は………
”この牛の内臓、牛乳に漬けたらどうなるんだ?”
ショウタが牛乳に漬けると、肉の臭みが取れると言っていた。
牛と牛なら相性もいいだろう。
未知なる料理に、探究心がワクワクとしていた。
朝食に、この牛乳に漬けた内臓をニンニクや牛乳と油などを使い、ペースト状にしたモノを出す。
内臓その物の形状だと、食べ難いだろうと思いしたのだが、異世界でも同様の料理があるそうだ。
もちろん皆に旨いと絶賛され、料理人としての名誉を挽回する事となる。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




