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9 いきなりの申し込み?

やっと恋愛ものになりました。

 夕食はシュクメルリのような牛乳を使ってガーリックをきかせたシチューもどきを大鍋で作ってパンとトマトサラダと一緒に出した。


 ご飯があればよかったけれど、こういう場合物語では後々までご飯は出てこなかったような…。いつか手に入るのだろうか。


 昨日のおにぎりは好評だったから、どこかで見かけたら教えてくれる人がいるかもしれないな、と思ったところで昼間のモーガンさんとの話を思い出す。彼の家は食堂だと言っていなかったか。これは彼の家族がお米を知っているというフラグでは?と楽しみにしながら夕食の片付けをした。


 誰もいないのを確かめて、お湯を沸かして身体を拭いて、外の井戸のところで頭もザブザブ洗った。お湯を運ぶのが大変だったけど、髪が短くて良かったと思った。服も洗って部屋に干し、着替えて、いよいよモーガンさんと相談だ。


「で、隊長はなぜここに…」


「俺がいちゃダメなのか?」


「いえ、そういうわけでは…」


「エリカ殿はこの世界のことを知らないのだから、不利な条件で物事が決まらないように立ち会わせてもらう」


「それはいいですけど…俺、エリカ殿を騙しそうに見えますか?」


「え、私、そんなふうには思ってませんよ?」


「…隊長として同席する」


 なぜか食堂でのモーガンさんとの話し合いの場にアレクさんがいて、でも理由はもっともなので一緒に話を聞いてもらうことにした。


「では、お昼のマヨネーズ、それと、さっきの白い…えーと」


「シュクメルリ風シチューですか?」


「はい、それ、です。あれの作り方をうちの食堂に教えてほしいんだ。代金はそれを使ったメニューの売上の1割、でどうだろうか」


「1割…」


「例えばお昼のサンドイッチ、あれをうちの店で出したら多分600ガルだ。1食出たらエリカ殿に60ガルが入る」


「ガル…」


「白いやつは単品で出す場合と何かとセットで出す場合があると思うけど、単品なら800ガル、セットなら1200ガルくらいだと思う」


「…えーと…」


 

 サンドイッチの値段からして、多分1円1ガルくらい?な気がするけど、どうだろうか。これってモーガンさんのお店がどの層をお客さんとしているのかによってや、1ヶ月の売上によって考えなくてはならない条件なのでは…と思っていたら、


「俺達、軍人の若い者の一月の収入は大体23万から28万ガルだ。住むところは寮といって独身者が住むところと家族持ちが住む場所があって、家賃は俺達はほとんどかからないが…普通の人向けの部屋の家賃の相場はいろいろだ。エリカ殿が安全に住もうと思ったら…街場なら7万ガルくらいは考えたほうがいい」


とアレクさんが補足してくれた。うん、これは1円1ガルだと思っていいね?


「ああ、そうか…説明が足りなかった。ごめん。今の条件だったら、おそらく毎月4万から5万ガルくらいの支払いになると思うんだけど…そうか、ちょっと少ないか」


 モーガンさんが少しばかり申し訳無さそうな顔をする。確かにそう多くはないが…


「あの、モーガンさんの家、お店、の近くには私が住めるような部屋はありますか?」


そうたずねるとモーガンさんは


「え?部屋?うちの近所に?それはあるけど。なんならうちの店の上だって部屋は貸してる。狭いけどね」


と答えた。なんてステキな話だろうか!


「じゃ、じゃあ、今の条件で、お昼か夜のどちらかはモーガンさんのお店で作らせてもらうのではどうでしょうか。お店が混んでいない時に、材料を分けてもらって。もしそこで私が作ったもののうち、ご両親が気に入ったものがあったらそれもお店で出してもらって構いません。そして、図々しいのは承知ですが、良ければお部屋を貸していただく相談もさせてもらえたら嬉しいです!もちろんお家賃を聞いてからですけど」


「えっ?うちに?で、料理も見せてくれるの?」


「ええ、無理でしょうか?」


「そんな好条件で…?」


「っエリカ殿、それは」


アレクさんが慌てて話に入る。


「だって、この世界で私は何かしら仕事をしながら生活しなくてはならないでしょう?それには食費がかかります。食材は物価によって変わるでしょうし、それなら絶対に1食分の食材が確保できていることは私にとってありがたいのです。一人で食材を全部準備するのは使い切るのも含めて大変だし割高だし。


 その上で4万ガル弱が入るなら、その他最低で14万ガル程度の仕事を見つけられれば家賃で7万、光熱費なんかで4万、衣類や嗜好品…本とか高いですかね?そういうので2万、1日に食費が1・2食分はかかるとして月2万強…貯金やイザという時用で2万弱…あ、この世界も1ヶ月って30日ですか?相場もこれで合ってるのかな、あっ税金って…って、あれ?」


 二人がじっと私を見ているので何か変なことを言ってしまったかと思ったのだが、アレクさんが


「この短時間でその生活費の見積もりと計算ができるなら、1ヶ月の収入は20万ガルを見ても大丈夫だ」


と笑って言ったのでホッとした。でも


「でもなあ、モーガンの実家か…もちろんあの辺りはいいところだが…」


 アレクさんが思案顔になったので、家賃が高い場所なのかな、と思ったが、


「あー…隊長はアレですか、俺が近くにいたら、エリカ殿に言い寄りそうで心配ですか?」


とモーガンさんが言ったことでアレクさんの様子が変わった。


「っ!な、お前、何を!」


「まあ、あの料理の腕を見たらうちの親は絶対にものにしろって俺をけしかけますね〜。実際エリカ殿はこの2日間一緒に過ごしただけでも性格も含めてステキな人だってわかったし、そうだ、もし嫌でなければ俺、この場でエリカ殿、あなたに…」


「ちょっと待てっ!それなら俺だって」


 モーガンさんが話を遮ったアレクさんを見てニヤニヤしている。


「…俺だって、なんですか?」


「…いや、その…だな…」


 あれ?私を見て赤くなっているアレクさんを見てドキッとする。え、何?


「あー、エリカ殿はどうですか?隊長のことどう思います?」


「え、ど、どうって…」


「嫌い、じゃあないですよね?二人三脚の時、脚結んでも平気そうだったし。それに隊長のこと褒めてたし。嫌いなタイプならアレはないと思ってもいいですか?」


「あ、えーと…ほ、褒めてたかな?」


「まあ、エリカ殿はそんな気なかったかもしれませんが、隊長なんて女嫌いで社交が必要な時でも女性とダンスもしないのに、膝ポンポンされても腰に手ぇ回されても嫌がってなかったんで、俺等としては、これはって」


 そ、そうなの?と焦る私を見ながらモーガンさんが笑顔で続ける。


「大体、最初っからエリカ殿が泣いてるのに鬱陶しがってなかったし、コップの水飲ませてあげた時だってわざわざ自分で飲んで見せたりして、あんな隊長初めてみましたよ。もう、一目惚れに決まってんでしょ!」


「っっ…!」


 アレクさんがさらに赤くなった。


「そ、そんなこと急に言われても…」


焦る私にモーガンさんは


「いや、いいんです。急に失礼なもっていきかたしてすみません。隊長のこと意識してもらえるだけでも、って思っちゃって。発破かけないとホント隊長が動かなそうなんで、俺が代表でエリカ殿に近づいて牽制する役を引き受けました。俺等みんな隊長の気持ちに気づいていましたから、なぁ、みんな?」


 え?と思ったらドヤドヤと食堂にみんなが入ってきて


「当然!あんな隊長見たことなかったです!」


「並んで足首結んでもらってる時のニヤケ顔!」


「二人で手ぇ握ってた時もありましたよね!」


「…いやあれは契約の握手でだな…」


「女性にあんな笑顔見せるとか!」


「モーガンとエリカ殿が話してる時は不機嫌で」


「なあ!」「おお!」


アレクさん、もしかしてみんなからヘタレ認定…?


「…お前ら〜…さっさと寝ろ!」


「わー!!」


 子どもみたいにみんなは食堂から出ていったけど、最後にロニーさんが戸口で振り向き、


「エリカ殿、隊長は最高にイイ男ですよ!」


と手を振ってくれた。


「ということで、良かったら隊長とのこと本気で考えてみてください。…で、さっきの店の話ですけど、俺としてはできれば本気でお願いしたいんです」


 モーガンさんが相変わらずの笑顔で、さらっとすごいことと自分の実家の話を始めた。切替すごい。モーガンさんも仕事できる人なんだろうな。


「部屋を貸すのは近所の相場に合わせて5万5千ガルです。安いのは単純に狭いですからね。でも共同ですが風呂もあるしオススメです。食事を作るための場所と食材は俺が親を説得します。絶対にうんと言わせますから。


 作った料理のうち、お店に出したいものについては相談させてもらいますが、取り分を1割切ることはさせません。モノによってはもっと多くすることも検討します、ってとこでどうでしょうか?」


「ええと…」


「お前のとこなら安全だしいいだろう。エリカ殿、モーガンの親御さんたちもいい人たちだ。しばらくこの世界に慣れるために住むには丁度いいと思う」


 アレクさんが助言してくれた。自分の意見を言いたいところだけれど、状況がわからないのでそれは仕方がないので諦める。


「そうですか、では…」


「でも、しばらく、だ。俺が家の準備を整えたら、そっちに来てほしい」


「え?」


「それから、仕事を探す時は俺を連れて行ってほしい。心配だから」


「はい?」


 来てほしいって言った?家に?あれ、これはさっきの話の続きになってる?


「隊長〜大事なことを言わずにそれはダメですよ。ねえ、エリカ殿?」


「え、あの…」


 モーガンさんとアレクさんを交互に見ていると、アレクさんが意を決したように立ち上がった。そして私の前まで来て跪くと、


「エリカ殿、会ったばかりのあなたにこんなことを言うなんて節操がないと思われるかもしれないが、俺と…その…一緒になることを前提に付き合ってほしい。俺は女性に対してこれまで興味がなかったのだが、あなたのことを知りたいとも思ったし、あなたにも俺のことを知ってほしいと思った。こんなことは初めてで、う、うまく言えないが…あなたを大切にしたいと思う。これは本気だ」


 そう言って私の手を取った。ヒェー!


「あ、あのぅ…」


 優しくて真面目で、正直爽やかでカッコいいとも思っていたけれど、これは急すぎて…しかも前の世界の男性と違いすぎる!もうどうしていいのかわからなくなってしまった、が、


「エリカ殿、隊長は本当にいい人です。こんな感じですけどいいところの出だし。そしてこれまで女性と浮いた話は一度もありません。エリカ殿はこれから街に戻ったら、どこか他の世界から来た人として『ジャック』みたいに騒ぎに巻き込まれると思いますけど、隊長と一緒ならなんとかなりますよ。絶対に守ってくれます。なんせ俺等の隊長ですから。いろいろ考えたいのはわかりますが、ここで婚約だけしてった方がエリカ殿のためにもなりますよ?」


「え?」


 そうモーガンさんに言われてアレクさんの顔を見た。アレクさんは、ちょっと困った顔で


「うん、とりあえず俺と婚約していると言えば、無理に城や軍に一人で連れて行かれることはなくなると思う。弱みにつけこむようで申し訳ないが、エリカ殿の安全のためにも、俺のこの気持ちを利用してほしい」


と言った。


 そうか、私はここでアレクさんたちと会って無事に2日間を過ごしたけど、もしこれが別の人、別の場所だったら…そう考えたらゾッとした。そうだ、昨日の朝にみんなに会った時はどうなるのか怖くて泣いてしまったのだった。だけどアレクさんが、そしてアレクさんの隊の人たちが親切にしてくれたから、なんとか笑っていられたんだ。


「…アレクさん、モーガンさん、ありがとう…ございます」


 二人は私の気持ちを汲んでくれたのだろう、お礼なんていい、美味しい料理が食べられて良かった、運動会は楽しかった、と慰めてくれた。私はまた泣いてしまった。

お読みくださり、どうもありがとうございます!

1ガル=1円。1ヶ月は30日、1週間は7日、1日は24時間。この世界と同じです。

エリカ鈍い。あと1話で完結です!

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