10 いつかオリンピックを
これにて完結です!読んでいただきどうもありがとうございました!
次の朝、昨日と同じメニューだったけれど朝食を作ってみんなで食べた。午後に出発するということだったので、お昼用には残っていたベーコンを厚めに切って焼いてトマトと一緒に挟んだサンドイッチをたくさん作っておいた。
その後。ここには次の隊が来るということだったけどいつかはわからないからお鍋やお皿をしっかり洗って拭いていると、
「エリカ殿」
「あ、アレクさん」
アレクさんは私からお鍋を受け取って高い棚にしまってくれた。
「あ、ありがとうございます。訓練はいいんですか?」
「…大丈夫だ。その、お昼も作ってくれたのか」
「はい、これなら最後の片付けも慌ただしくないので」
「…」
「…」
ちょっと気まずくなっていたら
「昨日の話だが、やはり急だったな。エリカ殿の立場につけ込むような感じだったし…」
とアレクさんが話し始めた。
「でも、他の世界から来たとなれば隠し通せはしないから話題にもなるし、いろいろなところが放っては置かない。エリカ殿の意にそぐわないこともおきるかもしれない。それは俺は…嫌だと思ったんだ。エリカ殿には元気に笑っていてほしい、と思う。それを守るのが俺だったら、嬉しい、そう思った。その、モーガンの言う通り、最初から俺は、その…エリカ殿が輝いて見えたから」
最初って…あの林の中で会ったあの時か、と思い出してちょっと照れる。私は焦っていたのに、アレクさんはそんな余裕があったんだ。
「…余裕なんてなかったからな」
「え?」
私、口に出してた?
「ああ、出ていた。今も」
「あ…それは、すみません…」
は、恥ずかしい。でもアレクさんはニコッと笑っただけだった。
アレクさんて、本当にいい人なんだなと思った。隊員のみんなからもあんなに慕われてるし。だから私は昨日の夜から考えていたことを伝えた。
自分はもうこの世界で生きていくしかないのかもしれないけれど戻る方法は探したいこと、ここに来てからアレクさんと隊員のみんなに助けてもらえて幸運だったこと、そのアレクさんとモーガンさんのアドバイスなら受け入れたいと思っていること。
「じゃ、じゃあ…」
「はい、しばらくはモーガンさんのご実家にお世話になって、その後はアレクさんのところでお願いします。こ、婚約の話もこ、込みで…。で、でも、もし自分一人で生きていけそうだと思えたら、その時は返事が変わるかもしれません…そんな不確定なのでもいいでしょうか」
「いいっ!いいともっ!でも、本当に?」
「はい、こんな素性のわからない私を受け入れてくださって、どうもありがとうございます。お礼を言うのはこちらです」
「や…」
「「「やった〜!!!」」」
「お、お前たち?」
戸口や窓でみんなが笑顔でガッツポーズをしていた。
「エリカ殿!隊長をよろしくお願いします!」
「本当に隊長はいい人なんで!」
「モーガンの店にみんなで行きますから!」
嬉しそうなみんなを見ていたら、私の決断は間違っていないなと思えた。
「準備期間に隊長を見限ったら、俺が次の候補でお願いしますね」
モーガンさんが手をあげてそう言うと
「絶対にそうはさせないから大丈夫だ!」
とアレクさんが私を背に隠した。
「「「ヒュ〜〜〜!!!」」」
私は多分顔真っ赤だ。
*****
午前中は最後の競技としてリレーをした。トラックはないから直線で折り返しリレーだったけど白熱した。
みんなは走り込みの訓練をこれまで以上に真面目にしようと思ったようだったし、作戦を立てることで技の練習をするだけではわからないそれぞれの良さや考え方の癖が見えるとなんだか得意げだった。
戻ってからもまたやってみたいなと話すみんなを見ながら一緒にサンドイッチを食べ、最後のお皿を洗ってしまい、部屋の片付けをし、荷物をまとめて、後は帰るだけだ。うん、野外教室って感じだね。
外に出ると井戸でそれぞれの水筒…竹みたいな植物を使ったものだった!…に水を入れて、戸締まりをして隊列を組み、出発する。
みんな私とアレクさんが話せるようにと気をつかってくれたのだろう、モーガンさんが先頭で私達は後ろの方、でも最後方はロニーさんがちょっと離れて着いてきてくれている。麓のむらまで1時間くらい、その後は馬で移動するのだそうだ。すごい!
「アレクさん、私、世界中の人のためになることとか無理だと思うんですけど」
「うん?」
「でもこうしてアレクさんの隊のみなさんが元気に頑張れるように応援はできると思うんです」
「…うん」
みんなの歩みを遅らせないよう地面を見ながら一歩一歩一生懸命進む。
「街に戻っても、こうして時々みなさんと会ってもいいですか?運動会はもっといろんな競技があるし、応援合戦もしてほしいし。リレーはバトンパスもあるんでもっと作戦とか練習とかしがいがありますよ。そうだ、魔法使い?の皆さんともお会いしてみたいです」
「ああ、魔法使いの奴らも喜ぶと思う。何か教えてやってくれ」
「はい。そしていつか他の隊の皆さんもいらっしゃるのなら、一緒に大勢で運動会をしてみたいです。ううん、オリンピックだってできるかも」
「オリンピック…最初に言っていたな」
「はい、私の世界にはいろんなスポーツがあって、オリンピックっていう運動会のもーっと大きな大会があったんです。それこそ国内だけでなく、世界中のアスリートが集まって競い合う。どのスポーツも、きっとみなさんだったらすぐに上手になると思います。私がルールを知っている競技はそんなに多くはないんですけど」
楽しみだな、と思いながらアレクさんを見上げる。アレクさんは目を細めて私を見ている。
「本当のことを言えばまだこの状況に納得はできていないし、前の世界への未練もあります。でもここにいる限りはできることを一生懸命やりたい。みなさんを見ていて思ったんですけど、やっぱり私は大勢で何かに全力で取り組む人をサポートしたいし、そういう姿を見ると幸せなんです。そして…」
そこにアレクさんが一緒にいてくれたら頑張れそうだし、嬉しい…かな、と思う。
「それは光栄だ。俺も一生懸命なあなたをそばで見ていたいよ」
「っ!?」
「…あー、あのな、今朝も思ったけど、エリカ殿、自分が思ったこと時々口にしてること気付いていない?」
「えーっ?ほ、本当ですか?」
「ああ。これまでずっと」
「そ、そんな…例えば…?」
「最初に会った時から。ほら、俺を見て、捕まえられる?って」
「そんな最初から?でっでも私が話せるってわかったのお水を飲んで…」
「いや、あの後しばらく話さなかったから、何か理由があって黙ってるのかと」
「ほ、他には?」
「みんなが指示を聞くように俺が力を貸してくれたとか、握手した時に対等でいいとか…」
「そんなに?」
「うん、ただ、口に出してるのわかってないなと思う時は何度もあった」
「それは…その…」
恥ずかしい!変なこと言ってなかったかな。
「あと…俺は背が高いとか、旗持ったらステキとか、かっ、可愛いとか、カッコよ?とか…」
「っ!」
変なこと言ってたし!見上げるとアレクさんの顔が真っ赤だ。
「…俺だって、そんな嫌われてるとか何も思われてないとかはっきりわかってたら、急に、こ、婚約とか言い出したりしない。もっと時間をかけるさ…まあ身の安全があるから強引なところは許してほしいんだが」
「そ、そうでしたか…」
「でも、騎馬戦の後、全力でやれば、結果はどうであれ自分たちの力になる。勝てば次もって自信とやる気が湧くし、悔しければもう一度と自分たちを奮い立たせる力になるって言ってた、あれが…一緒にやっていきたいって思った一番の理由だ」
「そんなに…長いのよく覚えてますね」
「っ、か、感服したからな。こんな別の世界ってのに急に来て、不安だろうに、何もわからないうちに俺達と一緒にワーワーやって、それでそんなことが考えられるなんて…なんて強くて…素敵なんだろうと、思った」
「〜〜〜っ」
「でも、そんな変わった服装でヒョコヒョコ歩き回るから心配だった」
「変わった服装?」
「ああ、街に着いたらすぐに何か買うから着替えたほうがいい。その…目立つから」
え、と思って顔をあげると前を歩いていたみんながパッと目を逸らす。あ、これ、ずっと聞いてましたね?
「ええと、普通の人は…どんな?」
「…女性は長めのスカートで、その、腕を出したりはそういったデザインのドレス以外はしない。髪も長いことが多いな」
「髪…短いですか」
「まあ、普通よりは?」
はっきりしないアレクさんの言葉に、みんなが
「隊長、はっきり言っても大丈夫だと思いますよ〜」
「そうそう、エリカ殿はだいぶワイルドだって」
「わ、ワイルド?」
「ばっ!失礼なことを言うな!!」
「いや、そうじゃなかったら俺等だってもっとノボセてますよ」
「そうですよ、第一そんな薄着でいたら、普通もっと目がいくって言うか」
「でもそんな目で見たら隊長に即刻ヤラれそうではありましたよね〜」
「見た目のことなんて言うもんじゃないから黙ってましたけど」
「でも、元気そうで、見てるとこっちまでいい気分になりますよね〜」
あ、それはありがとう…でもワイルド?
「でも、まぁ、なぁ〜」
「うん、隊長には女神に見えてるみたいだから」
「「っっ!!」」
「それが一番ですよ」
けなされているのか褒められているのか…でもアレクさんは赤くなっていて可愛いし、みんなもニコニコしている。きっとこの後街に着いたらいやでも他の人を目にするし、今教えてもらっておいて良かったんだと思う。
「こんなに可愛いのに…」
とブツブツ言うアレクさんにはちょっと困るけど。
「あ、村が見えてきたぞ、もうひと頑張りだ!」
モーガンさんが先頭から大きな声で教えてくれた。みんな、オーっと返す。
「アレクさん、私、とっても楽しみです」
「ああ、俺もだ」
みんなについて私も元気に歩き続けた。
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この後、街に行った私は生活を整えながら、アレクさんの隊をはじめいろんな隊に競技を教えて運動会を開くことができた。
魔法使いの皆さんにも応援団でスモークや花火をあげてもらうだけでなく、身体に当たったら光る仕組みを作ってもらってフェンシングみたいな競技もできるようにした。
何よりいろいろと相談して回数を重ねるうちに、開会式・閉会式は彼らのお陰ですごいことになった。彼らも嬉しそうだったから良かった。
他のスポーツも普及してきたけどきちんと弾むボールを作るのがなかなか大変で、バスケやバレーができるようになるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
その分ムカデ競争や大縄跳び、8の字跳び、荷物運びリレーや玉入れなど、みんなでできる競技をいっぱい教えてルールも自分たちで改良してもらった。
身体能力が必要なガチ競技だけでなく笑える競技もたくさんあって、子どもたちが集まる場所でも教えるようになって、みんなが運動会を楽しんでくれるようになった。このままいけば、いつか本当にオリンピックが開けるかも、とちょっとだけ本気で期待している。
でも、その話はまたいつか。
目にとめていただき、本当にありがとうございました。
だいぶ前のものですが、読み返すとだいぶ好きな話です。いかがでしたでしょうか?
いつか続きを書いてみたいなと思う登場人物たちです。




