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賭けを見守っていたら未来が拓けた アランの婚約者4

「学園祭?」

「そう。俺、企画なんだよね。」

俺はまず、留学生の世話役の仕事をやり遂げることにした。

困らないようにするだけではつまらない。最高の思い出を作って、絆を深めて欲しい。

そのために俺が使える手札は限られている。


「劇をやってみないか?君たち三人の得意分野で関わって。ドリドは役者として舞台にたてば映えるだろうし、ミゲルは魔導具で照明とか音響とか得意そう。クレアは…脚本だな。」

「劇ね!楽しそうじゃん!」

「魔導具の応用研究としては面白いかもな。」

(お?好感触じゃん。)

「…私は…そんな…。」

クレアは予想どおり、腰が引けている。


「クレア。この学園の生徒全部と比べても、君の読書量は群を抜いてる。歴史にも詳しいし、俺に本の内容を教えてくれた時、あんまり本が好きじゃない俺も、面白いと思えた。もちろん協力する。…だめだろうか?」

下から見上げるようにそう頼むと、クレアが真っ赤になる。

「あう!いや、そんな、最推しの上目遣いとか、尊すぎて反則です…!!」

(訳すると、一番大好きな俺の頼みだから断れない、と…。)


これまでの独り言も、多分概ね似たようなことを言ってたんだよなあ。

アマリエから、前世の世界とやらの基本用語?をレクチャーしてもらったおかげで、だいたい分かるようになると、なんとも言えない気分になる。


「…やってくれるということでいいよな?」

「……ふぁい。」


「なんか、アランのクレア対応が、上手くなってない?」

ドリドは苦笑いしていたが、褒め言葉だ。

よく考えたら、出会ってこの方、ずっと遠回しに告白されているようなものだ。

俺は、駆け引きより、押し続けのほうが本来性に合っている。

「まあ、頑張れ。」

珍しくミゲルからのエールだ。なんだか面白くて笑ってしまった。


クレアは、自国の英雄譚をもとに、ドリドを主役に据えた脚本を書き、言い回しや細かい言葉の直しを生徒会の皆の協力を得ながら進めた。

留学生との思いでづくりに、役者志望も裏方志望もまあまあ集まり、ミゲルの暴走でやたらド派手な演出になったものの、劇は大成功した。


打ち上げを兼ねたパーティーで。

「お疲れ様、クレア。」

髪を結い上げて、ドレスを着たクレアは、着せてくれた侍女によって眼鏡を外されて、いつもと違う雰囲気をまとっていた。

「眼鏡、なくて平気なの?」

「…アランさん、ですよね?なんとなくわかります。」

あまり、大丈夫ではなさそうだ。

「とりあえず座ろうか。隣、いい?」

手を取ってエスコートし、ソファに腰掛ける。横でふぅと息をつくのが聞こえた。

体に沿わせた柔らかい生地がよく似合っていて、いつもより少し大人っぽい。

眼鏡を外したかった侍女たちの気持ちも分かったけど、パーティーを楽しんでほしくて、ボーイに言付けて眼鏡を持ってきてもらうようにした。


素顔のクレアを、あまり見せたくなかったことも、正直に認める。


「お疲れ様でした。」

眼鏡をかけて、クレアが改めて俺に笑いかけた。

この学園祭にむけての一月ほどで、自分で言うのも何だがかなり距離は縮まったと思う。

クレアの好きなもの、苦手なもの、得意なこと、夢…。

聞けば一生懸命考えながら答えてくれる。


時々、この世界のことを知っている様子は確かにあるが、俺の話もキラキラした目で聞いてくれた。

今みたいに、フッと柔らかい表情を見せるときもある。


「ねえ、クレア。俺さ。君に前言われたこと、嬉しかったんだ。」

「…前に言われたこと?」

「うん。全ては俺が自分で身に付けたものだって、言ってくれたろ?比べる必要はない、価値に変わりはないって。君の言葉が、俺の呪縛みたいなものをスッと解いてくれた。」

クレアは慌てた様子で首を振った。

「あ、あれは!とっさにというか!そんなたいそうなことではなくて…本当はヒロインの受け売りで…。」

小さい声になっていくクレア。

アマリエの話から、ちょっとそれは予想していた。

攻略対象の心を開くような、そんなタイミングと言葉は、あらかじめあったのかもしれない。

それでも。

俺は迷わず告げる。


「知っているのと、実際にできるのとでは、全く違うんだ。…全く違うんだよ。」

「アランさん…。」

「純粋な優しさしか、俺は感じなかったよ。あの言葉は、確かに俺を救った。それは、言葉が大事だったんじゃない。君が、さも当たり前のように、本心から言ってくれたのが分かったからだ。クレア、俺は…。」

そう。俺は、クレアが好きだ。

「ありがとうございます。アランさん!最高の思い出ができました!」


一世一代の告白は、口にする前に思い出にされてしまった。

「聞いて。俺はクレアのことが!」

「だめですよ、アランさん。あなたは素敵な、ヒロインみたいな女の子と幸せにならなくちゃ。私はそれを影で見守ったり、さりげなく助けたりできたら充分なんです。この世界で生きられただけで、あなたに会えただけで、幸せです。」

クレアはきれいに笑う。


「君は、そうやってずっと逃げるの?モブだとか、ヒロインだとかにこだわって、主役になろうとはしないの?」

情けなくても諦められずに問いを重ねる。

「私は、主役にはなれません。見た目も普通だし、何やっても才能はないし、特別な力もありません。だからあなた達に会いたくて一生懸命勉強しました。こうやって会えただけで、奇跡なんです。」

「…」

どうしたら、この頑なな心は、溶けるのだろう。


「あとは、卒業パーティーだけかあ。…卒業パーティー…。卒業パーティー?」

クレアの声が変わった。

「アランさん!アマリエさんに忠告しないと!卒業パーティーは危険です!ところどころ記憶と違うけど何かが起こるかも…!」


「…ねえ、クレア。今実は、とある賭けが行われているんだ。」

「え?賭け?」

「何もせずに見届けてみない?現実の俺の、現実の友達の奮闘を、さ。」


勝負は持ち越し。

俺は、諦めが悪いんだ。



長くなりました。次回、アラン編終わりです。

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