賭けを見守っていたら未来が拓けた アランの婚約者3
「何読んでるの?」
「わ!あ、今はこの国の英雄譚を…。」
単純なものだと思うけど、意識し始めるとしょっちゅうクレアを見かけるようになった。
これまでより確実に鮮明に、クレアを見つけられる。
たいてい彼女は本を読んでいるため、その話題から入り、クレアのちょっとした講義を聞く。
勉強は苦手だけど、クレアの話を聞くのは楽しかった。
もう少し近づきたい。
でも、少し個人的な話になり、クレアの考えや感想を聞こうとすると、時々はっとしたように、
「やだ、私ったらモブの癖に。」
と苦笑いし、話をやめてしまうことがあった。
何やら自分を卑下する言葉のように思うのだが、ドリドもミゲルも知らない言葉で、本人に聞いても、
「モブはモブです。」
とはぐらかされてしまう。
悩んだ結果頼ったのが…
「モブ?…知らない言葉だな。」
「レオンでも知らないなら、お手上げだよ。何なんだろ。」
俺が知っている中で一番何でも知っている男、レオン。
しかし、まったく収穫はなかった。あったのは…
バサバサバサッ!
「…アマリエ?」
会話が聞こえていたであろうアマリエの様子に確信する。
「アマリエ嬢、何か知ってるのか?」
「レオン!クレアさんって、もしかしたら、私と同じかも。」
(同じ?)
「アマリエ、ちょっと話を聞かせてくれる?…アラン、後で連絡する。」
「レオン。大事な話なんだ。アマリエ嬢に直接聞きたい。」
普段なら絶対にしないが、思わず食い下がる。
「…必ず今日中に連絡する。これだけは待ってくれ。」
しかし、レオンも普段とは少し違う頑なさだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夕方…
「…転生?」
「ああ。完全に信じられる訳では無いが、内容としては予知夢に近いものだ。」
レオンが話したのは予想を超えた話だった。
大事なアマリエのことが絡むのだから、俺にこの話をするのは、大きな信頼があってのことだろう。
何よりクレアが絡んでいる。
俺は黙って先を促した。
「ただの予知夢ではなくて、他の世界でみたもの、という話なんだ。その世界には、ヒロインとか悪役令嬢とか攻略対象とかいう言葉があり、モブというのは、そういった特別な存在ではない一般人…。名前すら語られない人物を言う。」
荒唐無稽な話だが、レオンは大真面目だ。
「二人の言う世界の話は、おそらく同じ。…まあ、他にもいたし、意外といるのか…??」
「他にもいるのか?」
少し気になったが、曖昧にされてしまった。
それより気になったのは、
「一応、俺もお前も、その攻略対象、らしいぞ。」
という言葉。
攻略対象とは、見た目やスペックが著しく優れており、ヒロインがあの手この手で落としたくなる相手をさす?らしい。
そう言えば、ヒロインにあたる人物は…いないけど。いたらアマリエが悪役?になるというなら、多分早目にこいつがなんとかしたんだろう。触れるな、俺。
それにしても。
「…フェルナンド様とお前はともかく、俺?」
問いかければ、レオンは真顔でいった。
「それは当たり前だろう?取るに足らないような男が、僕の友人になれるとでも?」
不覚にもちょっと感動してしまった。
「…お前、俺のこと、ちゃんと友人だと思ってたんだな。てっきり俺の片思いなんじゃないかと…うぐ!」
氷点下の視線をくらってしまった。
だが、その後で何を思ったか急に目元が緩む。
「アマリエが言っていた。クレア嬢もアランも、自己評価が低すぎるところがそっくりだ、とね。他者を素直に尊敬できるのは美点だが、自分のことも同様に認めてほしいものだ。アマリエも似てる。」
そこがいいのだけど、と付け足したレオンに、
「お前も苦労してるのな。」
と言うと、
「アマリエの話ついでにお前には言っておくよ。今、僕たちは賭けをしている。卒業パーティ、あっちの日程とずれてるから留学生も出席するだろ?僕は賭けに勝ってアマリエに求婚するから、そこでクレア嬢にも思い知らせてやれ。未来は自分で拓くものだとね。」
(…良くわからないところもあるが、レオン、なんだかカッコいいな。)
「レオン、頑張ってるんだな。」
氷点下を覚悟して、あえて軽く言ってみたが、レオンは大真面目に言った。
「当たり前だ。好きな相手を振り向かせるのに頑張らなくて、他に何に頑張る価値がある?」
ヤバい。惚れる。
頑張り方は人それぞれだ。
俺は俺のやり方で、頑張るとしますか。




