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エドモンド

 リディアと出会ったのは親父の仕事に付いて行くようになってしばらくの頃だった。俺が一通りの読み書き算術ができるようになると、親父は子供のいる客先に必ず俺を連れて行った。


 俺はそこの子供達の機嫌を取り、言葉の端々から内情を探るよう命じられていた。

 貴族の令嬢や御子息は皆お行儀が良く、大人しい。中には我が儘で御し易い子供もいたが、大半は意思があるのかないのか分からないような者ばかりだった。


 そんな中、リディアだけは違った。

 好奇心に満ち溢れた瞳で商会の仕事にも興味を持った。幼いながら将来の領主として自覚があるようで、領の発展のために何をすれば良いのか真剣に考えていた。


 そんなリディアに俺はほぼ一目惚れ同然に惹かれた。

 それまで人形のような少女達しか知らなかった俺にとって、リディアは初めて出会った人間らしい少女だった。今考えると、異様な程大人びた少女を「人間らしい」と言うのもおかしな話だったが、その時は彼女の表情が光り輝いて見えたのだ。


 俺はリディアが欲しいと父に伝えた。親父はリディアを得るには俺がどうすべきか具体的に示した。


 要するにリディアの適齢期までに貴族籍を得るということだ。


 何処かの貴族の養子に入るか、ウルクの貴族籍を得るかだと言われ、親父は俺を養子に出すつもりは無いときっぱり言い切った。


 そうなると俺自身がウルクの貴族籍を得ねばならない。ウルクの貴族籍を得るには百万ブルクほどの金を積む必要がある。金の延棒にして約五十本分だ。


 その日から俺は親父に頭を下げて仕事を貰った。従業員と同じように働き、賃金を得た。

 その合間に何をすれば百万ブルクを得られるのか考えた。


 リディアの適齢期、十五歳までに、遅くとも十八歳までに稼がなくてはならないので必死だ。


 十歳になってまとまった金が出来ると俺は小さな商会を立ち上げた。従業員は俺一人だったが、ロクスターの名前が役に立ち、手紙のやり取りだけで、ある商品の独占販売権を得ることに成功した。

 当時開発されたばかりの合成染料だ。


 毛織物が主産業であるハリスン領のためになる物をと考えて辿り着いたものだったが、結果的にこれが大成功を収め、俺は学院を卒業する頃には()()()()()に費やしてもお釣りが出る程稼ぐことができた。


 卒業後、俺はすぐにウルクに旅立ち、貴族籍を得るための手続きを行なったが、最低でも二年はかかるという。


 その間にリディアが誰かに奪われてしまわないように、俺は学院で得た協力者達を使って周囲を牽制した。直接的に金を使ってライバルに圧力をかけ、リディアの縁談を潰したことも何度もあった。


 フレドリック殿下とリディアが噂になった時には正直ムカついて、ブルトン王家に圧力をかけようかとも思ったが、結果的には虫除けになったので再会した時に嫌味を言うに留めた。


 リディアを無駄に傷つけたのだから、もっと罰を与えても良かったとも思うが、フレドリック殿下自身は尊敬に値する王太子であり良い友人の一人だ。あまり虐めるのも気が引ける。何より優しいリディアが良く思わないだろう。


 とにかく殿下の結婚式までに側妃の噂を消し去るために、強引に俺とリディアの婚約を進め、メディアを使って国中に周知させた。


 歌劇場に行った時も記者を予め控えさせて親密な様子の写真を撮らせた。


 予想外にリディアの方から積極的になってくれたので抑えるのに苦労したが、カメラが構えてることを知っていたので最後まで冷静でいられたのは良かった。


 無ければ雰囲気に呑まれて最後まで事に及んでいたかもしれない。


 せっかくじわじわと断る隙を与えずに囲い込んだのに、不用意に手を出せば台無しになりかねない。

 真面目で潔癖な所のあるリディアには慎重に事を運ばないと、いつ嫌われるかわかったものじゃないから大変だ。彼女から求めるぐらいに焦らして丁度いいだろう。

 十年間慎重に事を進めてきたのだ。それぐらいの我慢は苦でもない。


 俺の手からクッキーを食べる事にも、俺が背後から密着しても躊躇いがなかったリディアがやっと俺を男として意識し始めたばかりなのだ。「急いては事を仕損じる」とはよく言ったもので、ビジネスにも通じる事だが、焦りは禁物だ。彼女の気持ちが追いつくまでいくらでも待とう。


 善良なリディアは気付かないが俺は執念深いし、目的の為なら手段を選ばない。


 リディアに求婚の返事を聞かなかったことを根に持たれていたようだが、返事を待てば婚約が遅れて殿下の結婚式に合わせてスキャンダラスにリディアの名が取り上げられるだろうと予想がついたし、それだけは避けたかった。


 リディアの両親とは長年の信頼関係の構築もあったのでスムーズに話は進んだし、正直に俺の意を示せば

賛同してあっという間に王家の許可も取り付けてくれた。


 タブロイド紙の一連の記事を俺が全て仕組んだと知ったらリディアはどんな顔をするだろう。


 リディアが記事を全て読んでしまった時、部屋に閉じ籠もって翌朝まで出て来なかったぐらいだから、これだけはバレない様にしなければならない。


 せっかく掴めた手を逃さない様に、俺は今日もリディアを囲い込む。

 







これにてシリーズ完結です!

思いの外皆様に愛されたこのシリーズ、遂に完結となりました。これも皆さんのお陰です。


本当にお読みくださりありがとうございました。

よろしければ感想や評価を頂けましたら励みになります!

また別の作品もお楽しみいただけましたら幸いです。



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@Joekarasuma

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― 新着の感想 ―
[一言] リディアが幸せになれてよかったです! 優秀なパートナーを得る事は商売人にとって商売を左右する大事な事ですからね…最優秀の成績を治めたということは身分の高い人脈があることでもありますし、社交も…
[良い点] リディアが王太子を好いていた気持ちにけりつけていく段階がいい。冷静になって客観的になってみれるのって、才女だからなんでしょうね。そして、ちゃんと親から受けた愛情や教育が良かったんだろうなぁ…
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