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大邦都地下鉄物語  作者: 切咲絢徒
第一楽章 台柱線
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第四十四話 二度目

 部屋から出ると、そこはどこかの一軒家の中のようだった。

 ここがどこなのか。

 怖くなって部屋から飛び出したというのに部屋を出れば冷静になっていた。

 携帯は奪われたようだから確認のしようがないけれど、この家の中を見て回ればなにか手がかりはあるだろう。

 私は隣の部屋から見回した。


 全ての部屋を見たが特に私の持ち物は無さそうだった。ただ、怪しいものはあった。

 地下への階段だ。

 そんなところに私の携帯があるはずがないのだが、この家に私の見張り役が野末一人とは考えづらい。

 きっと長目君達を(おび)き寄せるため私をここに連れてきたんだろうし、念のため二人は見張りが欲しい。と、私が敵側ならそう考える。

 それに、何だか気になってしょうがない。

 ・・・入ろう。

 階段を下る。フローリングは途中からコンクリートに変わり、足跡も響く。

 あんまり響くので、足音をたてないように忍び足で歩く。

 ふと地下の先の方を見ると明るくなっていた。

「誰かいる?」

 人影が2、3あった。

 更に忍び足で歩く。

 人影がはっきり見えた辺りで3つの人影の主がわかった。

「長目君・・・」

 本当なら走ってでもその場に行きたいのだが、そんなことをしては迷惑だ。

 ならどうしようか。

 2つ目はチェーンソーを振り回す大男だった。

 そして3つ目が私をここに連れてきた堀田だ。

 もしかして、長目君は単身でここに?

 ・・・。

 なら私がなにか援護をしないと。

 チェーンソー男も堀田も長目君も誰も私に気づいていない。いや、気づくようなはずはない。

 ゆっくりとリロード。なるべく音をたてないように。

 次に構える。

 どちらを撃つべき?

 チェーンソー男は動き回って当てにくい。なら、堀田だ。

 構える。

 壁に肩をつけて、両手で持つ。

 標準を合わせて、引き金に指を掛ける。

 緊張で手が震える。深呼吸しても中々収まらない。

 大丈夫。行ける。

 引き金を引いた。

 それと同時に乾いた銃声が地下道に響いた。


 * * *


 逃げ回って、もういい加減足が動かなくなる。

 未だ隙はない。

 二度、転びかけた。

 いっそのこと、死をも覚悟で突っ込むか。

 刹那、銃声。

「く、まさか、あの子がここに、来るとは。」

 堀田は右肩を押さえていた。

 その左手からは血が溢れて、左手を紅く染めた。

 堀田が何者かに撃たれたことは直ぐに理解した、地下室の廊下の方を見ると、そこには・・・。

「ら、羅々、どうしてここに?」

 僕の中には困惑と歓喜の二つが混ざりあっていた。

「私が囚われていたのがここだからね。」

 羅々はそう言った。

 今すぐにでも駆け寄りたいのだが、そうはいかない。まずは堀田をどうにかしなければ。

 再び堀田を見る。

 既に堀田は肩から手を離していて、血は止まっていた。恐らく能力だろう。というか、便利過ぎないか?その能力。

 つまり、失血死は無い。というか、一撃でやらなければならないが、銃だと躱される。

 となると、不意討ち。しかし、堀田に羅々の存在がバレた以上不意討ちなんかできる気がしない。

 一応、案はある。

 打撃。

 この地下室は掘るだけ掘って、後片付けがされてないので、そこら辺に鉄パイプやら、なんやらが転がっている。

 つまり、それで殴ればいいんだけれど、勿論、そんなに簡単ではない。どうにか隙でも出来ればいいんだけれど、それは、羅々に頼もう。

 かといって、ここで馬鹿みたいに話しかけてもいけないので、なんとか羅々に近づかなければならないのだけれど。

 というか、堀田に早速殴りかかれば羅々も勝手に援護してくれるだろ。

 僕は羅々の方を見る。

 僕と羅々の目があった瞬間、僕らは頷いた。なんのサインかはわからないけど、とりあえず、僕が動くことを示せただろう。

 そこに落ちていた鉄パイプを取って、堀田に向かって走った。

「銃が駄目なら打撃、実に浅はかだな。」

 それ以外にどう攻撃しろと言うんだ。

 構わずパイプを振る。

 避けられ、掴まれる。堀田の腕力は以外にも凄まじく、パイプを振り上げると僕の体も付いていった。

「うおっ!」

 そのまま、投げ飛ばされた。が、刹那に銃声。恐らく羅々が撃ったんだろうが、ナイスだ。

 コンクリの床に叩きつけられ、唸る。

 痛い、痛いけれど、もう一度。近くに落ちたパイプを拾って堀田に向かう。今度は掴まれないように。

「うぉぉぉお!」

 振り下げる。しかし、躱される。尚も振る。やめれば、また投げられる。死ぬことはなくても、痛いし、骨が折れそうだ。

 次の一打。手応えあり。

「ぐ、」

 堀田の額に当たったようだ。これでやめてはいけない。

 もう一発。

 振り下ろす、が。

 掴まれた。

「舐めんなよ、ガキィ。」

 投げられる。そうなれば恐らく、もう隙は無い。

 このときに既に思考はグチャグチャであった。が、唯一、一つだけ冷静に機能していた部分があった。それは、どこかわからない。投げられそうになる体を堪えるのではなく、僕の手はあるものを掴み、その引き金を引いた。


 その一瞬のことは覚えていない。ただ、微かに残る理性には自分の左手が銃を持ち、それを堀田にあて、引き金を引いた。それだけが残っている。

 堀田は腹部に手を当てて、唸っている。

「ぐ、て、てめぇ、」

 何かを言いたそうにしているが、わからない。

 ただ、彼の腹から紅い液体が出ていて、それは止まる様子もなく、彼の足を伝い、床に垂れる。灰色のコンクリートの上に(あか)が広がる。

 人を殺すのはこれで二回目、だけれど、今回で漸く、人を殺したという実感が湧いた。

 堀田は床に倒れ、微かに息をしている。けれどももう、死ぬだろう。助かるはずもないし、助けるつもりもない。ただ、僕は呆然と立ちながら、脳内で、人を殺めたことから逃げようとしていた。

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