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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
76/219

76 オスロット


 裕二とヘスはモンスターを狩りに森へ出かけた。だが、そこには昨日裕二に恐喝しようとした男のグループが待ち構えていた。

 そのグループのリーダー、オジーはメディッサバイパーの肝臓を差し出せば許すと言っているが、そんな話しを信用出来る訳はないし渡すつもりも最初からない。


「そうか、じゃあ死ね」


 オジーの声と同時に背後の魔術師が結界を張る。その効力や耐久力はもちろん裕二にはわからないし、ジャミングのような魔法を無効化する術式を展開している可能性もある。

 だが、アリーの報告では攻撃本体は裕二達の背後に隠れている連中だ。魔術師全員で結界を張ると言っていたので、後ろは物理攻撃しかない。全体の人数が約四十人。そのうち前にいるのは約二十人だ。と言う事は後ろもほぼ同数。まずはそいつらを始末する。


「ダイヤモンドダストバースト」


 かつてエリネアの使った広範囲攻撃の精霊魔法。白い煙と共に作られる大量の氷の塵。それがキラキラと輝き、幻想的な美しさを見せながら裕二の背後から徐々に地表を埋めて行く。これに全身を覆われてしまえば体のアチコチで小爆発が起き、少なくとも相手を無力化。下手をすれば致命傷になるだろう。その取りこぼしをヘスが狙う。予め二人はそう計画を立てていた。そうなれば後は目の前の敵に集中出来る。


 だが、その魔法の広がるスピードは速くはないので、本来ダイヤモンドダストバーストは戦いの序盤で使う魔法ではない。エリネアが使ったように逃げ場のない場所。もしくは味方の援護があって威力を発揮する。なので逃げられてしまう可能性もあるが、相手がそれに気づき逃げてくれればそれも良い。裕二はそう考えてこの魔法を選択した。少なくともこれで背後からの攻撃はない。


 ところが裕二のこの考えは初手から覆される。


「なに!」

「危ないユージ!」


 予想外の方向から数発の火魔法が裕二とヘスに向かって飛んでくる。裕二は咄嗟に手でその火魔法を弾き飛ばそうとするが、その前にヘスが裕二を突き飛ばしその攻撃を避けた。だが――


「ぐあっ!」


 そのうちの一発がヘスの右肩を捉え爆発する。


「ヘス!」


 その魔法は裕二も良く知るエクスプロードフレイム。それが森の中からではあるが上から飛んできた。つまり樹上からだ。ヘスは裕二を助ける為にそれを避けきれず大怪我を負った。おそらくもう、この後戦うのは無理だ。痛みでそれどころではないはず。


「何で上から魔法が……」

  

 アリーに聞いていた内容と違う。いや、だいたいは合っていたが、背後には魔術師はおらず物理攻撃のみのはずだった。オジーはそう仲間に説明していたのだ。


「へへ、やはりな」


 オジーはその様子を見て唇の端を釣り上げる。彼は森にきてからわざと大声で仲間に説明していた。普通に考えれば作戦など森に入る前、事前に打ち合わせするものだ。しかし、敢えてそれをやったのは、裕二が高位魔術師、もしくはそのクラスの実力者だと知っていたからとなる。

 敵が高位魔術師なら魔法的な手段でこちらの情報を探る可能性がある。オジーはそこまで警戒しており、そこを見越してもし知られるならば、裕二に嘘の作戦内容を知らせるつもりでいた。

 背後に魔術師はおらず物理攻撃のみと思わせ樹上から魔法で攻撃する。しかも裕二は、それに対しダイヤモンドダストバーストを使ってしまった。冷気を帯びた魔法は地表を這うので樹上には届かない。それも、上から攻撃する敵を有利にさせてしまう要因になってしまう。

 元兵士のオジーは悪人ではあってもそう言った経験、場数を踏んでおり、その点では裕二を凌いでいるのだろう。それに見事に引っ掛かってしまい、その代償は裕二ではなくヘスが支払う事になってしまった。

 これは裕二の落ち度だ。全力で戦えば倒せる自信のあった相手なのに、逃げるなら逃げても良いなどと敵を甘く見てしまい、その甘さが仲間を傷つけた。討伐前にヘスから言われたように敵に情けをかけてはいけなかった。裕二はそれを知識として理解はしていたが、本当の意味でわかっていたのかは疑問だ。

 ここは安全な現代日本ではない。殺らなければ殺られる。チェスカーバレンにいた時はそれに気づく機会はなかったが、本来はそう言う世界でもあると言う事を裕二は改めて思い知る事となる。これ以上敵を甘く見ていると仲間を失う事にもなりかねない。


「お前ら、やっちまえ!」


 オジーの号令で結界から飛び出した数人が剣を振り上げ襲いかかってくる。そして後ろからは再び魔法が迫る。


 ――考えてる暇はない!


 裕二はヘスを抱えてその場を飛び退く。


 ――ムサシ! 後ろを頼む。


 ムサシは森の影で実体化。そして驚異的な跳躍で一瞬にして樹上に上がる。同時にチビドラを憑依。


「全て燃やせ!」


 ――ミャアアア!!


 チビドラのファイアブレスが襲い来る敵、結界に残る敵の全てを飲み込む。その威力は以前武闘大会の選抜テストの時、精霊魔法もある程度防げると言う試験官の女性魔術師メグリアナの結界をも貫通した事がある。並の結界では防げないはずだ。


「ぐああ! 結界が、効かねえ!」

「な、何だこの魔法は!」


 裕二の前にいる敵は炎に包まれ、樹上の敵はムサシが次々にトドメを刺し断末魔の声が森に響き渡る。

 

「ひい! よ、寄るな!」

「や、やめろおぉ!」

「熱い、熱い!」


 樹上の敵は地面に落ち、炎で焼かれた敵はそこらじゅうを転げ回り呻いている。だが――


「くそっ! 結界が効かねえのか」


 ファイアブレスが消えた後。そこにオジーと二人の魔術師が残っていた。どうやら咄嗟に水属性の防御を発動したのだろう。多少の火傷を負っても戦えない程ではない。そこに残った敵は三人。他に戦える者はいない。


「お前ら! 俺を援護しろ」


 オジーは背中の大剣を抜いて構える。魔術師は二人なので防御と攻撃、両方可能なはずだ。だが裕二はこれに全力で応える。


「もう手加減はしない!」


 裕二が空中に手を差し出すと、そこには『魔剣ヘイムダル』が現れ裕二の手に掴まれた。その刀身は薄っすらと緑色に光っている。オジーは目を細めてそれを見つめる。


「ライトブレードか……」


 それだけ言うとオジーは地面を蹴り突進してきた。同時に魔法も飛んでくる。エクスプロードフレイムだ。しかし――


「が……」


 オジーの体は真っ二つになり地面に転がった。その後ろでは二人の魔術師の首が飛ぶ。


 裕二は襲い来るオジーを直前で鋭角的に避け、横一閃に斬り飛ばしたのだ。そして、魔術師の後ろからはムサシがその首を跳ね飛ばした。裕二は辛くもオスロット、そしてオジーの命を奪い何とか勝利した。


「ヘス!」


 すぐさま裕二はヘスに駆け寄るが大量に脂汗を流し苦悶の表情を浮かべている。かなり苦しそうだ。


「待ってろ! テン」


 ヘスをその場に寝かせ治癒魔法をかける。幸い怪我は重症ではあるが部分的なものだ。命に別状はないだろう。ヘスの表情も少しづつやわらいでくる。


「ゆ、ユージ。済まない」

「気にするな。今は治す事だけ考えろ」

「敵は……どうなった」

「全部殺った。安心しろ」


 それを聞いたヘスは怪我のしてない左の手で服をまさぐり魔石らしきものを取り出す。


「おい、ヘス。まだ治療が終わってないから動くな」


 裕二のその言葉を無視してヘスは魔石を頭上に掲げる。すると、そこから光が飛び出し真上に飛んでいった。そして大きな音をたてて破裂する。


「何だ?」

「救援信号だ」


 この近辺には裕二達やオスロットだけでなく、兵士もおりモンスター討伐を行なっている。もしもの場合はヘスの使った魔石の信号弾で救援を要請する事も出来るようになっている。


「しかし、今更使っても……」


 既に危機は去っているのであまり必要なさそうではあるが、ここに転がる死体の山について処理と報告は必要になる。処理をしなければ死体を食いにモンスターが集まるし、何があったか報告しなければどういう扱われ方をするかわからない。こちらが悪いと思われたら困る。その為に兵士を呼ぶ必要があるのだ。


 しばらく待つと数名の兵士がバタバタと走ってやってきた。そして、死体の山に驚き顔をしかめている。これだけ死体が転がっていれば誰でも驚くだろう。


「これは……何があった」

「こいつら! オスロットだぞ」

「オジーだ! オジーもいる」


 どうやら兵士の間でもオスロットは有名なようだ。パーリッドのギャングとして兵士とは敵対していてもおかしくはない。裕二がその経緯を説明しヘスがその不足を補う。兵士達も納得しているようでこちらの言い分も信じて貰えそうだ。但し全てではない。


「お前がひとりで倒しただとお!?」

「そうです」

「し、信じられん。オジーひとりだけでもかなり手を焼くはずだ」

「そう言われても……」


 とは言っても実際オスロットは武装し、ここで戦い全員倒れている。味方のヘスもその戦闘による怪我をしている。二人の言い分も食い違いはない。他に何か理由があるとするなら、強力なモンスターが数体現れる必要がある。だが、そんなのはどこにもいない。兵士としても半信半疑なのだろう。


「ユージ。証拠を見せてやれよ」

「証拠?」

「ああ、兵士達にソニックディストーションでも食らってもらえば信じるだろ。範囲と威力を最大に高めてな。怪我はしないから安心しな。吐くとは思うが、それだけの魔法が使えれば信じられるだろ?」

「ソニック……い、いやいや! ちょっと待て。わかった、信じよう。そうでなければ説明もつかんし」


 ――アバウトだなオイ。


 その後も調査はするのだろうが、とりあえずはこれで何とかなった。裕二はそのままヘスに治癒魔法をかけ続け、ほぼ完治と言える状態まで持っていった。兵士達はオスロットの装備を集め死体の処理を始めており、一段落したと言える状態だ。


 裕二は改めて自分の殺した者達を眺める。彼らは悪人だったとは言え決して殺したかった訳ではない。そうするしかなかったのだ。正しいか正しくないかではなく、しなくてはならない事だった。そしてそこには裕二が刻んだ生々しい殺戮の跡が残っている。


「…………ん?」


 何故かはわからないが、一瞬だけその死体の山が魔人に見えた。一度だけエンバードで見たあの怪物だ。そして不思議な事にこれだけの人数を殺したにも関わらずあまり動揺していない。もちろん気分は良くないが、既に慣れてしまった感がある。


「なんでだ?」

「どうしたユージ」


 ひとりで呟く裕二をヘスが不思議そうに見上げる。


「いや……それより体は大丈夫か?」

「ああ、ユージのお陰だな。もう平気だ。そろそろ帰るか」


 ヘスはそう言って立ち上がる。その様子に具合の悪そうな雰囲気はない。これで何とか帰れそうだ。後始末は兵士に任せ、二人は歩き始めた。だがその前にやる事が残っている。せっかく討伐したワイルドウルフを置いていく訳にはいかない。裕二とヘスはその場所まで戻っていく。


「そういやコレを運ぶんだったな。あの戦闘の後では結構しんどいかも」

「大丈夫だヘス」


 裕二は尻尾を掴むと空中に放り投げる。するとワイルドウルフは次々と空中へ消えていき、最後には何もなくなった。


「それって……収納魔法かよ!」

「まあ、そんな感じだ」

「凄い。それは素直に羨ましい」


 憧れの眼差しで異次元ポケットを羨ましがるヘス。それに対し裕二は頭を掻きながら照れくさそうに笑う。


「よそで言うなよ。ヘスだから見せたんだ」

「お……おう!!」


 ヘスは最初の攻撃で裕二を庇い怪我をした。その礼を裕二は言うべきなのだろうが、何となく言いそびれてしまった。別にその代わりと言う訳ではないが、それは裕二からヘスへの信頼の証となるのだろう。ヘスは何も言わないが少し嬉しそうな顔をして先を歩き始めた。


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