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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第二章 冒険者になろう
74/219

74 ヘス・ローランド


「そこの角にいる奴。お前も仲間か? 隠れてないで出てこい」


 チンピラが裕二の後を追いかけている時。その動きを把握する為に感知能力を作動させておいた。するとチンピラ二人の更に後ろからもうひとり。裕二達の入った路地を通り過ぎ別の路地に入って逆方面から裕二に近づく者がいた。

 その動きからして裕二に用があるのは間違いない。そして、状況的にチンピラの仲間の可能性は高い。ところがチンピラがやられてしまったので出るタイミングを失った。そう考えるのが妥当だろう。敵と考えて威嚇しておく必要がある。


「そこに魔法が届かないと思っているなら――」

「ま、待て待て! 敵じゃない。怪しい者じゃないから攻撃するな」

「いや、どう見ても怪しいだろ」


 そこから慌てて現れたのは、短めに切り揃えた金髪。細長いが顔だが整った表情の見た目ハタチ前後の若者だ。一応冒険者なのか剣で武装し黒いフード付きマントを装備しており、その中は鉄の胸当てや図太い革ベルトが見え隠れしている。


「何の用だ?」

「いや、君があのチンピラに襲われそうになってたから助太刀に来たんだが……見事だったな。今のはソニックディストーションと……もう一つは何だ?」

「そんな事簡単に教えると思うか?」


 これもテリーに教わった事だ。オリジナルの魔法等は特にだが簡単に教えてはいけない。それを断る為の方便は用意しておく必要がある。この場合は全くの初対面なのでにべもなく断るのが良いだろう。そうしておけば、多少超能力を使ってもそれ程問題は起きないはずだ。


「ま、まあそうだな。悪かった」

「用が済んだなら行くぞ」

「待て、待ってくれ」

「何だよ。もう用はないだろ」


 助けてくれようとしたとは言ってるが、その直後に魔法を探られると裕二の警戒心も高くなる。悪い人間には見えないが、あまりお近づきになりたくはない。


「実は俺も冒険者になりたてなんだ。良かったらしばらく一緒に行動しないか?」

「いや、いらん」


 速攻でスッパリと断る裕二。それを聞いた男は慌てて食い下がる。


「待て待て待て! わかった。本音を言おう。今の戦いは本当に見事だった。俺はそれに感銘を受けた。是非君から学びたいと思っている」

「ダメだ」

「いやいやいや待ってくれ!」

「しつこいな」

「じゃあこうしよう。俺は冒険者になりたてとは言っても君より多少は先輩だ。教えられる事もあるはず。例えばモンスターの出やすい場所やモンスター別の解体や素材の値段。物資の豊富な店や安くて快適な宿。君はまだ知らないだろ? その対価として俺を同行させてほしい。俺は勝手に君から学ぶが教えたくない事は聞いたりしない。それでどうだ?」

「つまり……ガイド役か」

「そう! 俺は君のガイドになろう」


 その男は身振り手振りで大袈裟に動きながらそう説明した。正直あまり必要ないような気がする。もちろんガイドはいた方が良いだろう。しかし、自分で覚えるのも不可能ではない。だが、この男が必死に食らいつこうとしているのは良くわかる。信用出来る人間なら構わないかも知れないが、信用と言うものはそう簡単に確認出来るものではない。長い積み重ねの末に勝ち取るものだ。


「悪いが信用出来ないからなあ」

「うーん。良しわかった!」


 男は自分の指に嵌められていた指輪を外し裕二に差し出した。そこには小さな宝石、いや、魔石だろうか。それがはめ込まれ何やら文字が刻まれている。


「それは俺の家の家宝で魔食いの指輪と言うんだ。そいつを本物と鑑定してもらった後で君に預けよう」

「魔食いの指輪?」

「そう。その指輪は俺の先祖が当時のアンドラーク王から賜り魔人戦争の時に使ったものだ。魔人を一時的にだが無力化出来る」

「どっかで聞いたぞそれ。うさんくせーな」

「だから鑑定もする。どうだ? もし俺が君を裏切ったなら、その指輪を好きに処分すれば良い。家宝だとは証明出来ないが、本物の魔食いの指輪と証明出来れば君も多少は信用出来るだろ?」


 かなり胡散臭い。中央通りの商人とあまり変わらない気がする。しかし、ここでセバスチャンが口を挟む。


 ――裕二様。とりあえず鑑定してもらい本物ならしばらく同行させましょう。当分は様子を見てそれでも信用出来ないなら、力ずくでも離れたら良いかと。今はしつこいですがある程度同行出来れば彼も諦めると思います。

 ――うーん。嫌だけど……そうするか。


「わかった。だが、その指輪が本物なら、だからな」

「良し! 行こう。鑑定はパーチで良いか? 君も会っただろうから信用出来るだろ」

「そうだな」


 と言う訳で再びギルドに逆戻りだ。二人は路地を出てその方向に歩き出した。

 そう言えばこの男の名前を聞いてない。聞くと繋がりを深めてしまうようであまり聞きたくはないが、不便なので聞いた方が良いだろう。


「名前は何て言う?」

「俺はヘス。ヘス・ローランド。貧乏騎士家の次男だ。君は何て名だ?」

「俺はユージ」

「ユージ……そうか」


 と、話している間にギルドへ辿り着く。ヘスは既に同行の許可が下りると信じているのか上機嫌だ。そして、再びドアを開き中に入るとパーチと目が合った。


「どうしたユージ。ヘスも一緒か」


 どうやらヘスとパーチは顔見知りらしい。とは言ってもヘスは冒険者なので顔見知りでも不思議ではない。パーチの様子から考えると悪人、と言う事はなさそうだ。


「悪いがパーチ。これを鑑定してくれないか」


 ヘスはパーチに指輪を差し出す。それを受け取ったパーチは指輪を少し眺めた後すぐに話し出す。その様子を見る限りではあまり貴重品と言う感じはしない。


「これは魔食いの指輪だな。古くて貴重ではあるが価値の高い物じゃねえ。古い貴族家ならひとつやふたつはあるだろうな。魔人を一時的に無力化出来るが一〜二回使うと壊れるらしい。耐久性に問題があるんだ」

「本物には間違いないのか?」


 裕二がそう聞くとパーチは指輪の裏側を見せて説明する。


「クリシュナード様に仕える使徒の誰かが実験的に作ったらしい。その量産品のひとつだ。大した価値はねえから偽物を作る意味はない。だが、貴重なのは確かだ。ここに文字があるだろ。解読は出来ねえがこれは魔人の文字だそうだ。資料としての価値はあるが数も少なくないからな」

「魔人の文字!」


 裕二はその言葉に大きく反応した。指輪に刻まれた文字。そのリングの外側には通常の文字が刻まれている。だが、指輪の裏側には魔人の文字が刻まれているとパーチは言う。

 これがあればメディッサバイパーから取り出した矢尻に使われた文字と同じものか確認出来る。裕二は少し考えた後ヘスに応えた。


「そうか……わかった。じゃあヘス。同行してもいいぞ」

「本当か! やったあ」

「よろしくな」


 ヘスはガッツポーズで喜んでいる。それを見る裕二も悪い気はしない。まだ完全に信用した訳ではないが、本物の魔人の文字を調べられるなら同行させるメリットは高い。


 こうして裕二とヘスは出会い。一緒に行動する事となった。



 裕二とヘスはその後、必要な物資を買いに中央通りに行く。ヘスは言ったとおりに良い店を知っていたようだ。裕二ひとりならアチコチの露天商に絡まれ大変だったかも知れない。ヘスがいる事で時間は短縮出来ただろう。

 宿もヘスが現在使っている場所を使うのでスムーズに事が運ぶ。但し、宿に関しては原則として無理な場合じゃない限り部屋は別々にしてもらう。

 その理由は裕二のタルパの存在だ。彼らと話し合う事は当然あるし、何より顔を合わせていれば、裕二にとって安心出来る存在でもある。多少お金がかかっても宿はその為の場所に使いたい。そして、もちろんヘスにはタルパの存在を教える気はない。


「ひとつだけ引っかかるのは……」

「何故あそこまで裕二様との同行を希望するのか。ですね」

「だな」

「裕二の事好きっぽいねー」

「ミャアアア」

「僕は男同士で好きとか嫌だな。アッーって言うんだよね」

「誰がテンにそんな事教えた!」


 ヘスは裕二の戦いに感銘を受けた。なので裕二から色々学びたいと言っていた。それは本当なのだろうか。

 裕二があの場で使ったのはソニックディストーションとメタルベンドのみ。相手はそれを見て逃げ出す程度のチンピラ。テリーと繰り広げた武闘大会の試合ならわからなくもないが、あの程度の戦いに感銘を受ける部分があるのか。裕二はそう考えている。だが、同時に悪い人間ではなく、裕二と同行したいと言う強い意志も伝わってくる。


「監視しますか」

「うーん。まだ良いだろう。何かしら実害があれば考えよう。あまり信用しないのもかわいそうな気もするし。それよりも……」

「魔食いの指輪ですね」

「ああ、それについては感謝すべきだからな」


 裕二は少しづつだがヘスを信用しようとしている。しかし、裕二がクリシュナードだと知っているセバスチャンはヘスを警戒していた。彼は裕二を探すためにペルメニアから派遣された宮廷諜報員、と言う可能性は捨てきれないと考えている。だが、仮にそうだったとしても、ヘスから逃げるのはそれ程難しい事でもない。しばらくは動向を見守り、判断する必要があるだろう。ヘスの言う事が全て本当なら、裕二にとっても悪い話しではないのだから。


「では、私は早速照合作業に入ります。裕二様はお疲れでしょうから先にお休み下さい」

「悪いなセバスチャン。そうさせてもらうよ」



「ほう。ロクス商会でも手に入らない物があるとはな」

「メディッサバイパーの皮があるなら肝臓もあるはず。それを処分しなきゃならん」

「その口ぶりだと誰かの差し金って訳か」

「お前は知らん方がいい」

「まあ、そんな事に興味はねえ。どのみちその小僧は殺る予定だ。うちもジェイクとイーリーがやられてるからな」


 パーリッドの裏通りにある薄汚れた店。客層はガラの悪い者が多く、そこでは賭博等も行われているいかがわしい店だ。その奥の部屋では、他よりひときわガラの悪い大男と身なりの整った男、ロクス商会と言う言葉から商人なのだろう。その二人がそんな話しをしていた。


「その小僧が肝臓を使ったにしろ隠し持っているにしろ、死んじまえば流通する事はないからな。まあ、あれば手に入れてくれ」

「ああ、わかった。だが、安くはねえぞ。ジェイクとイーリーはうちの中でもそれなりの強さだ。それを傷ひとつ負わせる事なく屈服させるような奴なら相当な実力差があるってこった」

「大丈夫なのか? 確実にやってくれんと困るぞ」


 商人風の男はやや焦りを見せながらそう問いかける。その焦りの根本には第三者の存在が見え隠れする。


「おそらくその小僧は高位魔術師と言って良いだろう。聞いた話しじゃソニックディストーションと変な魔法を使いやがったそうだ。だが、魔術師はこちらにもいる。しかも複数な」


 そう言って男は下卑た笑みを浮かべながら、目の前に注がれた酒を一気に飲み干した。


「冒険者ユージか。若いのに運のねえ野朗だぜ。俺たちオスロットに目をつけられるとは」


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