木製の二段ベッド
「……眠れないな」
何度目かの寝返りを打ち、俺は重い独り言をこぼした。
視界の端で安物のデジタル時計が午前二時を回る。引っ越す前までは、布団に入ればそのうち意識が落ちて、気づけば朝が来るのが当たり前だった。眠りとは、一日の終わりにある静かな報酬だと思っていたのだ。
けれど、今は違う。
二年前まで使っていたあの木製の二段ベッドが、たまらなく恋しくなる。上の段からは、弟の少し早くて規則正しい寝息が聞こえていた。フレームがわずかに軋むその音さえ、俺にとっては世界が正常に動いている証拠だった。
父さんの書斎から漏れてくるキーボードを叩く音。リビングで母さんが楽しそうにテレビを観ている気配。それらが混ざり合って、俺の輪郭は守られていた。
離婚が決まった日のことは、今でも昨日のことのように思い出せる。荷造りの段ボールが廊下を埋め尽くし、大好きだった父さんの本の匂いが埃っぽい寂しさに変わっていったあの日。
「流唯、お前はどうしたい」
父さんはいつもの落ち着いた声でそう聞いた。弟はすでに父さんの服の裾を掴んで離さなかった。あいつは最初から、父さんと行くと決めていたんだ。
俺だってそうしたかった。でも、隣にいた母さんが見たこともないような絶望した顔で俺を見ていた。縋るように俺が「一緒に行く」と言わなければその場で崩れ落ちて消えてしまいそうな、そんな脆い目。
「……俺は、母さんと行くよ」
その瞬間の父さんの悲しそうな、でもどこか納得したような顔。
そして弟の裏切り者を見るような冷たい視線。




