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『老いの入口』  作者: 髙山志行
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第五章 「経過観察」ーそんなある日の昼下がりー

「ピンポ〜ン!」

 そんな、ある日の昼下がり。父が、同じ市内で一人暮らしをしている伯母の家に行っている間、一人で留守番をしていると…玄関のチャイムが鳴る。

「ピンポ〜ン!」

 六人兄弟の末っ子の父だが、この二月に伯母を一人亡くしており、残っているのは「昭和元年」生まれの、生涯独身の伯母と、二人になってしまった。

(実のところ伯母の誕生日は、年月日(ねんがっぴ)から言えば、改元(かいげん)前の同年「大正十五年」なのだが…そう言ってからかうと、腹を立てるので「昭和」としておく)。

『徴兵制度』や『学徒動員』などの兵役で、男子の数が著しく減少してしまった世代。

(「憲兵(けんぺい)」だった伯父は…幸か不幸か?…決まっていた「出征(しゅっせい)」前に病死し、男兄弟だった父ですら…「一緒に湯船につかりながら、歌を歌ってくれた」…幼少の頃の、(ほの)かな記憶しかないようだが)。

 女学生だった伯母とて、学業どころではなく、「銃後(じゅうご)の勤労奉仕」で駆り出され、『徳川幕府』以来の東の都「東京」の西部・多摩地区に所在した軍需工場に。

(『明治維新』後は、天皇陛下もお(うつ)りになられ、正式に遷都(せんと)が成されたが…「奠都(てんと)」が正しい用語だ」という議論もあるようだ)。

 たまたま運の良い事に、派遣先が空爆に(さら)される直前に帰郷して命拾い。

(我が街も、陸軍の航空基地などがあったせいか、空襲の被害に()っている)。

「適齢期」までには結婚するのが当たり前の時代にあって未婚なのは、そんな不幸な世の中だったからだろう。

(まさに、ほぼ同じ年代の母方の長姉も、ずっと「独り身」のままだ)。

「『歴史を学ぶ』とは、どういう事か?」

 (のち)の時代になって、当時の上上(うえうえ)から下下(しもじも)までの暮らしも知らないクセに、あれこれ批判する人たちに、そう問うてみたい。

(学校教育など、せいぜいのところ「(西暦)何年に、何があったか」程度だった。だが、そんなレベルでは、何の役にも立たない)。

「今・現在の常識でしか(モノ)を語れない人間など、もっての(ほか)!」

 なのに…戦中派の父ですら、玉砕戦(ぎょくさいせん)などに関して「ナゼ降参しなかったのか?」などと語る始末!

「そんな戯言(ざれごと)が聞きたいわけではない!」

「あの頃」の事など、「忘れてしまった」とでもいうのだろうか? 後に高等学校の英語教師になった父ですら、そんなものなのだから、ましてや一般現代人の一般常識など「()して知るべし!」。

「竜馬」を「龍馬」と信じたり・『日露戦』の敵も怖れる「将軍」が「愚将」に貶め(おとし)められたり…小説などの創作(フィクション)を真実と勘違いし・感化されてしまった「歴史かぶれ」ほどの人間では、考えもしない事なのだろうが…現代にあっても「出稼ぎ外人さん」など…今まで未知・未接触だった人種・言語や文化・文明の人に出会えば、みな同じ顔に見え、誰が誰だか区別などつかないもの。

(全員同様に描かれる宇宙人の典型(ステレオ・タイプ)「グレイ」だって、よくよく知り合えば…「培養生物(クローン)」や、「原生動物(アメーバ)」などのように自分のコピーを作るだけの単細胞生物でもない限り…それぞれに個性や違いがある事が、わかるかもしれない)。

 しかし、そんな状態では相手が何を考えているかなど、表情からだけでは、とても読み取れないに違いないし…それは、向こうにしたって同じだろう。それが、ましてや圧倒的に不利な状況下の戦場で出くわせば…「生きて虜囚(りょしゅう)(はずかし)めを受くるなかれ」の『軍人勅諭(ちょくゆ)』や「戦陣訓(せんじんくん)」、あるいは「武士道とは、死ぬことと見つけたり」の『葉隠(はがくれ)』を曲解した思想を刷り込まれなくとも…また一般人だって、実際には見たこともない人たちを「鬼畜米英(きちくべいえい)」などと教え込まれなくとも…どんな結末をむかえる事になるか、想像に(かた)くない。

(「自決」をする余力も残っていないほどに疲弊していないなら、「降伏など、あり得ない!」。そんな事態だったことだろう)。

 個人的には、「歴史を知る」とは、『風俗・習慣・思想までも含めた、当時の生活を理解する(までは無理だとしても、想像したイメージを持つ)こと』だと思っている。

(しかしナゼなのか? その当事者なる、戦争を体験した本人たちは…自分の身内ばかりでなく、「戦中派」の多くに共通しているようだが…その時の思い出・出来事を、断片的にしか語ってくれない。これも、まだ「プライバシー」なんて言葉の無かった頃の「告げ口・告発・チクリあい」…当時の体制側に管理された『秘密主義』という時代背景でも、あるのだろうか? それとも、嫌な経験…「黒歴史」として、封印しているのだろうか? まるで記憶から抹消し、時として、突然フラッシュ・バックしたかのように口にするくらいだ)。

 そんな父だが、あの八月十五日の「玉音(ぎょくいん)放送」が流れ、終戦をむかえていなければ、半年後の春には『海軍予科練習生』…通り名「予科練」行きが決まっていた。

(今の時代には、「帝国海軍」が注目され・持て(はや)される風潮があるが、おそらく当時の花形は、戦争の完遂のため…相手国を蹂躙(じゅうりん)する「占領」に必要なのは、「質より量」が重要だ…広報活動も盛んだった陸軍と、「零戦」ではなく「隼」だったはずだ!…と、想像している)。

 そしてもし、あと数年、(いく)さが長引いていれば、自分はこの世に「(せい)」を受けていなかったか…あるいは又、違った両親の元で、まったく別な人生を歩んでいたかもしれない?


「ピンポ〜ン!」

 繰り返される「呼び鈴」に顔を出してみれば…幼い少女や、小学生の男の子を連れた女性が数人。

『今日は土曜日か』

 誰もが知っている「キリスト教」系の宗教団体。一か月も家にこもっていれば、一回くらい訪問を受けるものだ。

(以前、別の仕事をしていた二〇年以上も前、『労災』でゴロゴロしていた時も、こんな事があった)。

 つい最近、アメリカ大統領候補になった人物の、自伝的テレビ番組を見る機会があったが…異端とされる別の団体の会員だった氏は(こちらも、多くの人が名前くらいは聞いた事があるはずだ)若かりし頃、宣教師としての活動をしていた事があったと云う。

(なんでも氏は、酒も煙草もコーヒーすらもやらないそうだ。「自由の国アメリカ」を取り違えてはいけない。マリファナを吹かして「LOVE&PEACE」。自由奔放に生きる事ばかりが「FREEDOM(自由)」ではない。今なお、かつてからの戒律や装束までをも堅持して、日々暮らしている人たちだっている。「自由」だからこそ、勤勉・実直である事も自由なわけだ。つまり、法律などで禁じられているもの以外、何をやっても良いのが「自由と民主」。一方で…名ばかりの『社会主義』や『共産主義』を語る、内実「権威主義(ファシズム)」国家など…許されていること以外の自由が無いのが『独裁政治』だ)。

 その番組で語られていたところによると、見知らぬ家庭を訪問する本来の目的は、勧誘ではないそうだ。

虐げ(しいた)げられるがゆえに、信仰心を試される」

 そして逆に「宗教的高揚を狙う」という事らしい。「弘法大師(こうぼうだいし)空海(くうかい)」にだって、似たような逸話はいくらでもある。

(何の信心も持たない人間ではあるが、十年ほど前の初夏の頃。仕事を二カ月放棄して、「四国霊場八十八か所」歩き遍路の旅を敢行した事がある)。

 ゆえに、何かの販売と違い、それほどしつこくはないはずだ。

(無料で配布してくれる機関誌、案外読み応えがある)。

 それに…男の子がはいている、自分の年代なら懐かしさを覚えるような、ぴっちりした半ズボン…きちんとした身なりに、好ましささえ覚える。

『今の人類には、まだまだ宗教が必要だ』

(なにも、オカルト的・心霊的なものを言っているのではない。道徳的・倫理的な問題だ)。

「義務を果たさず、権利ばかりを主張する人間が増えている時代」なんだそうだ。

(ようするに…やる事やらないで、我儘(ワガママ)や文句ばかり言う奴らだ)。

 だいたい直前に述べたように、「自由」を取り違えている「大人」が多過ぎる。だから、「ヘンな子供」が増えるのも、もっともな話なのだ。『バブルの頃から、そんな勘違いしている人間が増えた』と思っているのだが…かく言う自分だって、似たり寄ったりなのかもしれない。

(なにしろ、「高度経済成長期」に幼少期を送り…一時期、「オイル・ショック」による停滞期はあったものの…「バブル景気」に世の中が沸いていた頃に、人生の一番良い時期「二〇代」を過ごしてきた)。

「時代の申し子」というほどではないが…「団塊の世代」と「団塊ジュニア」の、ちょうど中間の年齢。リアル・タイムで『鉄腕アトム』を観ていた、おそらく一番若い世代。まさに「アトムの子」。好き勝手に生きてきた。ゆえに「原子力」だって、推進派とまではいかないが、肯定的だ。だから…

「原子炉の中で、『核爆発』を起こしているとでも思っていたのだろうか?」

 今まで、安い料金で使いたい放題。「原子力発電」の仕組みすら知らなかった人間が…

(単にお湯を沸かしてタービンを回すという、19世紀の『産業革命』の頃に実用化された「蒸気機関」から進歩していない代物だが…化石燃料が枯渇した時に備え、廃棄物処理の手間や費用も承知の上で、研究&開発された訳だ)。

 諸般の事情も考慮せず、代替の案も提案できないくせに、ここぞとばかりに短絡的に、「非核・反原発」を叫ぶ姿には、かえって反感や反発すら覚える。

(第一、原子力も制御できなくて、その先の「真空のエネルギー」などに移行できるのだろうか?)。

 それは「武力放棄・核兵器廃絶」にしても同様だ。地球規模でしか物事を考えられない連中の、「たわごと」としか思えない。たとえ地球上から「戦争」や「紛争」などの「争いの(タネ)」が無くなり、全人類が「地球人」としての自覚を持ったとしても…

「宇宙人が攻めてきたら、いったいどうするつもりなのだろう?」

「宇宙人」とまではいかなくても、何がしかの「地球外生命体」は、まだその痕跡すら発見されていないが…

(なにしろ「現世人類」は、まだ自分たちの衛星『月』までしか行ったことがないのだ!)。

 まさに「星の数」ほども星々がある『銀河』。それが数百兆個もあるのなら、むしろ「(他の生命が)存在しない方が不思議なくらい」だ。

「頭が良く、科学の知識のある人ほど、その存在に肯定的」だと言われながら、楽観的な科学者の中には「好戦的な種族では、外宇宙を移動できるほどの技術を獲得する以前に、自滅してしまうだろう」などと語る人もいるようだが…

(『不測の事態に備える』という「安全保障」上の意識が、希薄すぎるのではないか?…と、思えるのだが?)。


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