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ヤマさん、ばぁさんと夕飯を食べる。

魔術師ギルドでギィと別れると、まっすぐニャンでも魔法薬店に戻る事にした。

猫のばぁさんが部屋を片付けると言っていたので、少しでも早く戻って加勢しなくてはいけない。


ニャンでも魔法薬店に戻ると、事前にばぁさんから受け取っていたブロンズ製のカギで、入り口を開ける。よく考えると、カギを受け取った時点で、ココのカギは魔道具では無くアナログだと気付けたのだが、ギィに魔道具の使用方法を教わっていた時は、完全にその事を忘れていた。

金属系の魔道具と相性の悪い俺的には、アナログのカギは助かる。


店に入り戸締りをすると、カウンターの奥の住居へと続く入り口に向かって声をかける。


「ばぁさん。今戻ったよ」


すると奥からばぁさんの声が帰って来た。


「おやヤマさん、早かったねぇ。ちょっと今は手が離せないから、そのまま入っておくれぇな」


声に従って入り口の暖簾のれんをくぐると、五段程の階段があった。階段の左右には棚があり、空の瓶が並んでいた。


古い木の階段をきしませながら上りきると、鉄板でぎされた木の床の台所に出た。

柱の低い位置に、網に入った赤玉ねぎのような物がぶら下げられていたり、葉っぱだけのドライフラワーのような物が大量に天井からぶら下げられている。

食器棚は無く、その代わり薬棚のような物が壁の全体を占めていた。


「ヤマさん、コチラさね。コッチにいるよ」


更に奥に進むと、更一段程の段差があり、その手前に小さな靴が並んでいる。段を上がらず部屋を覗き込むと、その向こうはツルツルの茣蓙ござを敷いた床と、厚手の座布団が二枚用意されていた。


座布団の間に料理を並べながら、ばぁさんは振り返る。


「ヤマさん、おかえりなさい。そこで靴を脱ぐんだよ。そこから先は土足禁止になってるからねぇ」


「ただいま、ばぁさん。片付けは終わったの?」


靴を脱いで段差を上がりながら声をかけると、ばぁさんはお茶の用意をしながら答える。


「定期的に片づけはしていたからねぇ。換気して寝床にシーツをかけるくらいで良かったよ。その後は、ヤマさんがお腹減らしているだろうからと思って、ご飯作っといたよ。後はお風呂の用意でおしまいだよ」


「あ、お風呂は俺がやるから良いよ。お風呂はどこにあると?」


「おや、お風呂の用意が出来るかい? ならお願いしようかねぇ。だけど後でで良いよ。ご飯できたから、温かいうちに食べなね。ほら座んなさい」


ばぁさんに勧められて、座布団に腰かけると並べられた料理を眺める。ここでもテーブルは無く、床に料理を並べていた。一応こぼしても大丈夫なように、皿の下に敷物があるが、どうにも違和感を感じる。こればかりは慣れるしかないだろう。


手を合わせてから細長い入れ物に入った箸を手に取り、取り皿を持った。

昼間に食べた、ダイフクのようなププ豆を見つけ、皿に移す。


「それは、ププ豆だよ。うちの爺さんの大好物でねぇ。食卓にそれさえ並んでいたら、品数が少なくても、な~んにも文句言わずに食べてたよ」


「これ、今日の昼間に議事城で初めて食べたんやけど、干した魚で出汁取ったような味で美味しいね」


「そうさね。ププうおって言う魚がいるんだけどねぇ、その魚の干物みたいな味がするからププ豆って呼ばれているんだよ。本当のププ魚はもう少し上品な味のする高級魚だから、滅多に食べる機会は無いけどねぇ」


それ以外の料理は小魚の料理が多かったが、魚の種類で味が違うのと、蒸すか焼くかで調理法が違うので、飽きずに食べることが出来た。

魚料理が多いのは、ばぁさんが猫系の獣人だからだろうか?


「食べてて思ったんやけど、ココは調味料って言うか香辛料が多いね」


食卓には料理以外に、味噌状のタレのような物やポン酢みたいなもの、更にいくつかのスパイスが区切くぎられた小皿に盛られている。

それぞれどんな味か試しながら付けてみたが、苦手な味は無くおいしく食べられた。

ちなみに味噌状のタレは、普通の味噌味ではなく、唐辛子っぽい味とニンニクの風味がした。

ポン酢みたいなものは、甘じょっぱい出汁醤油みたいな味で、ポン酢では無かった。


「ここに並んでいるのは、香辛料だけじゃなくて、そろそろ期限の切れそうな薬草とかも並べているからねぇ。普通の家庭にゃ、こんなに調味料は並ばないよ」


スパイスではなく、漢方(?)だった。


「ばぁさん…。薬草って食事にしても大丈夫なんね?」


不安に感じて確認を取ると、ばぁさんはニコニコしながらあっけらかんと言い放った。


「飲み薬になる物で、ご飯に合いそうな物だけ選んでいるからねぇ。大丈夫じゃないかえ? どうしても使いきれずに余ってしまう薬草はあるんだよ。勿体ないから食べてしまおうかと思ってねぇ。だけど、組み合わせとかもあるから、薬草について詳しくなるまでは、真似したらいけないよ」


そう言いながら、ばぁさんは小皿に乗った薬草と香辛料について説明を始めた。

半分以上が薬草や、薬になる木の実を粉砕したりした物だった。


まぁ、元の世界にも医食同源という言葉もある事だし、大丈夫だろう。むしろ蒸すか焼くかしか調理法の無い国だから、調味料が増えるのは良い事だと、前向きに考える事にしよう。


「さっき通った台所にあったのは、全部薬草なと?」


「あぁ、店側の台所は、調薬のための作業場だから、薬の材料しか置いてないよ。料理用の台所はこの部屋の奥さね」


食事をすませ、食器をばぁさんと台所に持って行きながら、中の案内をしてもらった。

どうやら、この住居兼店舗は細長い作りをしているようで、店側の階段から一直線の廊下で繋がっている。


順番としては、店、作業場、居間、台所、トイレ、風呂、倉庫1、ばぁさんの部屋、爺さんの書斎、俺の部屋、倉庫2。という並びだった。


爺さんは300年程前に亡くなったらしいが、爺さんの書斎には鉱石のコレクションやら、魔獣の鱗や牙のコレクションで埋め尽くされ、手の付けようがないので簡単に掃除をするだけにしているらしい。

自由に覗いていいと言われたので、暇な時に見に行ってみようと思う。


ばぁさんがお皿を洗っている間に、風呂の掃除をして浴槽に魔法でお湯を出す。

ばぁさんに確認してみたところ、お風呂好きで、若いころはよく爺さんと温泉に行っていたと聞いたので、浴槽には温泉を溜める事にした。


実は訓練所で温泉が出せると気付いた時から、温泉に浸かりたかったので、ばぁさんが温泉好きだったのは良かった。

ばぁさんの見た目が猫の獣人っぽいので、風呂が苦手とか、温泉の匂いが苦手とかあれば諦めようと思っていたが、これから毎日温泉に浸かれそうだ。


もし出来そうならばと、ばぁさんから腰痛や肩こりに効果のありそうな温泉をリクエストされたので、昔親父を連れて行った温泉を思い出しながらお湯を出す。確か関節痛やリウマチ、乾燥肌と冷え性に効果があったはずだ。

記憶通りの、とろみがあり硫黄の匂いがする、ほんのり黄白色のお湯が出たので、多分成功しているだろう。

鑑定魔法で確認したいところだが、俺はそんな特殊魔法やスキルは持ち合わせていない。


お湯を溜めきって、居間に戻ると上着を羽織ったばぁさんが、ポシェットを持って待っていた。


「すっかり忘れていたよ。ヤマさんは着替えを持っていなかったねぇ。今からすぐに買いに行かないと、お風呂が冷めてしまうよ」


そういえば、ギィに日用品の店を教えてもらう予定でいたが、すっかり忘れていた。

しかし、今から買いに行くと言っても、持ち合わせがない。


「ばぁさん。俺お金持って無いから、もし爺さんの服とか残ってたら、給料出るまで、それを借りておきたいんやけど」


「爺さんの服は残ってないねぇ。残っていてもヤマさんは入らないよ。爺さんとあたしゃ体の大きさが変わらなかったからねぇ」


どうやら、爺さんとばぁさんは同じ種族で、体型もほぼ同じだったらしい。爺さんが亡くなってからは、ばぁさんが爺さんの服を着ていたが、古くなって処分したと。


「じゃあ、給料の前借させて貰って良いやろか?」


「そうそう。言い忘れてたねぇ。ヤマさんが魔法の練習に行ってから、ミミィさんから連絡があったよ。本来なら半年間貰える筈の保証金や住宅料があるけど、ヤマさんはすぐに住み込みで仕事を見つけたから、一括で祝い金として振り込んだって。だからヤマさんお金の事は気にしなくて大丈夫だよ」


「振り込んだってどこに?」


「身分証だよ。身分証に国から振り込まれているから、それで支払えば良いさね」


どうやら身分証は銀行、いや郵便局か? のカード機能が組み込まれているらしい。

一つの立体都市に必ず、一か所か二か所にATMのような機械があるので、24時間どこでもお金が引き落とせるらしい。

迷宮のような立体都市群が広がる異世界だが、こういう発展面では現代地球人にとって本当に助かる。


ばぁさんに連れられて、ATMにカードを差し込み、魔力を通すと180万マネ振り込まれていた。

どうやらひと月の賃金は25万マネ前後らしい。そこに、異世界に来たばかりの人が、着替えや生活必需品などを揃えるためのお金が合わさって、その金額になっているようだ。

ひとまず5万マネを下ろして、ポケットに入れるとばぁさんに案内されながら、店巡りをした。


結果的に言うと、ニャンでも魔法薬店のある立体都市に全てそろっていた。

八百屋や魚屋、金物屋といった物が三階に並んでいて、どう見ても商店街だった。

その上の階には、カフェや定食屋、菓子屋から本屋までそろっていて、この街から一歩も出なくても生きていけそうだ。


帰りは川沿いの歩道を歩きながら帰る。

既に日が落ちていて、プッカの木が発光していた。

淡く優しい黄白色に輝くプッカの並木は、イルミネーションのようで、沢山の人が光に照らされながらゆったりと散歩している。

そのプッカ並木のアーチの中を、渡し船がスイスイ移動していくのが並木の間から見えた。船頭も乗客も明るい表情でプッカのアーチを見上げている。


「いつかあの渡し船に乗ってみたいっちゃね」


「あの渡し船かい? 爺さんと映画を見た帰りによく乗ったねぇ。夜になると光る魚の群れとかにも会えるんだよ。光るだけで、美味しく無い魚なんだけどねぇ。骨を炙って粉にすると、良い火傷の塗り薬の材料になるから、爺さんに頑張って捕まえて貰っていたよ。勿体ないから身の部分は夕飯にしていたけど、本当にちっとも美味しくない魚でねぇ。買うと鮮度が悪いし、高いから、これからはヤマさんに頼もうかねぇ」


どうやら映画館が有るらしいとか、美味しくない光る魚とか、気になる事が沢山あるが、俺があの船に乗る日は近そうだ。

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