ヤマさん、生活魔法を習う
「じゃあ、次に生活魔法の使い方ね。ヤマさん的に必要なのって何魔法? この訓練所の使用時間もある事だし、ヤマさんの希望する魔法から優先的に教えていくよ」
ギィに言われて考える。これから魔法薬師になるためには何が必要かとなると、やはり水か?
まだ修行も始まっていないから詳しい事は分らないが、何の分野に関しても水は必要になってくるはずだ。
だが、調薬となると火も使いそうだな。さて、どうするか。
考えた末に、ギィに答える。
「そうやねぇ。水が良いかもしれん。水から教えてもらえるやか」
「ん。水な。まぁ水は重要だよな。水さえあれば、2週間は生き抜けるもんな」
2週間も水だけで持つだろうか? 俺が前の世界で聞いた情報では、水だけで生き延びられるのは5日前後だったと記憶しているのだが。
ただ、この世界は魔力もあるし寿命も違うから、この世界では冒険者をやっているギィの語る情報の方が正しいのかもしれない。
生活に慣れてきたら、その辺りの知識の擦り合わせも必要になりそうだ。
一番初めに学ぶ生活魔法が水魔法と決まったところで、ショールーム型訓練所の風呂のある場所に移動する。
「まぁ、生活魔法って言っても魔道具の使い方とほぼ変わらねぇんだけどな。ヤマさん。今度は魔道具に魔力を込めた時みたいに、何もないところに魔力を出す感じ。ただその時に、魔力を水に変える感じなんだけど、これは想像力や感覚が物を言うからさ、自分で感覚掴むしかないんだよな」
そう言ってギィは、この浴槽に水を貯めるつもりで魔力を放出してみるよう指示してきた。
「聞きたいんやけど、水を出すのに呪文とか要らんと?」
「生活魔法でその場にただ水や火を出すだけだと要らないかな。これが攻撃魔法や遠隔系の操作型魔法とかなら、座標や威力やスピードを指定するために唱えることも有るけど」
「なるほど」
そこで指先から魔力を出すイメージに、蛇口から水が出て来るイメージを重ねる。
すると指先から5センチ程離れたところから水が現れ、浴槽へと流れていった。
どうやら指から出た魔力が、5センチくらい離れた所でようやく水へと変化しているようだ。
「お、ヤマさん、一発じゃん。ただもう少し、指からでた魔力が水に変わるまでの距離を、短く出来た方が良いな。魔力が物質に変化するまでの距離が遠いとさ、その間に放出された魔力が空気中に分散しちまうんだよ。その分魔力が勿体ないからさ、もう少し体に近くに出現させて」
そう言われ魔力が散っていく前に、水へと変えるように集中する。
できるなら、指から直接水が出ているくらいまで近づけた方が良いだろう。
集中しているうちに、少しずつ水の出現位置と指までの間隔が短くなってきた。
ところで、水が出る量が少ないな。
確かに蛇口をひねって水を出しているイメージをしたが、こんな皿を洗っているくらいの水の出かただと、浴槽に水を貯め切ってしまうまでに時間がかかりそうだ。
魔法で水道代を浮かせることが出来るのは良いが、水が溜まりきるまで風呂場から離れられないのは頂けない。
もっとこうドバっと出ないものか、蛇口から出るみたいに細く出るのではなく、そう例えば源泉かけ流しの温泉みたいな、広い排出口からザバっと………。
そこまで思ったとき、指先から放出されていた水の量が急に増し、浴槽に跳ね返った水が顔にかかった。
いや、これは水じゃない。お湯だ。
「ヤマさん………。水魔法をすっ飛ばして、火魔法と水魔法の混合魔法使うって、すげぇじゃん。才能あるよ」
「これ、火の魔法との混合魔法なんね」
「火魔法って言うと、炎を出すって言うイメージがあるけど、実際はそれだけじゃないんだよな。温度調整も火魔法のうちに含まれるからさ、氷雪魔法も水魔法と火魔法の混合魔法になるんだけど………って、このお湯変わった匂いしない?」
「変わった匂い?」
ギィに指摘されて意識してみると、確かにお湯から茹で卵みたいな匂いがする。
「あ、これ硫黄の匂いや。これただのお湯や無くて温泉ばい」
「………なんで水出そうとして、温泉が出るんだよヤマさん。確かに、この匂いはゲンナハ火山の温泉街みたいな匂いしてるけど。普通は水魔法と火魔法の混合魔法でお湯は出ても、温泉は出ねぇよ」
そういわれても、このお湯の匂いからして、ただのお湯ではない。
「あぁ、じゃあ、水が違うんやろか? ほら、水っち言っても、硬水とか軟水とかあるやろ? 場所によってはミネラルが豊富とか、炭酸が含まれとるとかあるやん。それがお湯になると温泉になるんよ」
「それよりも、ヤマさん。水を出すときに、なにか余計な事考えてなかった?」
余計な事。必要な事しか考えてないな。
「水の出方が遅いから、温泉のお湯の排出口みたいに、一気に出てこんかな? とは考えたけど、それは関係なかろ?」
「いやいや、それだよ。温泉想像してるから、温泉みたいな性質の水が出るんだよ。普通の水を出そうよ。変な成分が入ってたら、料理や調薬に使えねぇじゃん」
「ホントやね。どうしょうか」
そんな事をギィと話している間に、湯船からお湯が溢れて出てしまった。
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「なんだいアンタ達。ここで風呂にでも浸かるつもりだったのかい? 訓練所をこんなにお湯浸しにして!!」
ギィと二人で掃除道具を借りに行くと、ギルドマスターのプリシラさんが訓練所まで付いてきて、呆れたため息を付いた。
「まったく。ここは本当の風呂場じゃないから、浴槽はともかく、床に排水溝なんて付いてないのよね」
そう言いながらプリシラさんは、床に広がるお湯を浮かせると、洗面所に流してしまった。
無重力の宇宙船内の水のようにプワプワと浮いて、洗面所へと運ばれていくお湯を、ギィと二人で感心しながら眺める。
「にしても、水を出そうとして温泉出した異界渡りは、ヤマさんくらいよ。なんでこうなるのかしらね」
「はぁ。すみません。温泉の多い国に生まれ育ったもので、そのせいかもしれません」
なんでと聞かれても、ハッキリとした答えらしい答えなど持っていないので、それらしい事を答えておく。
すると、それにギィが反応を返した。
「へぇー。ヤマさんの居た国って、温泉が多いの?」
「そうやね。温泉は多かったね。地震も多かったばい。後は………山が多くて川もそこそこ多くて。島国やったから海に囲まれとったね」
「あぁ、そんな国に生きてたから、ヤマさんの適正属性が植物と水なのかもな」
「それ言ったら、ラビラフト議事国出身者は、みんな水と植物の適性が大きくなるんやないと?」
「そうでも無いぞ。風属性も多いし、金属属性も多いな。結構満遍なくいるぞ」
高い建物が多く、風をよく浴びたり、公共の交通機関として飛行竜に乗るからだろうか?
首を傾げていると、床のお湯を捨て終わったプリシラさんが答える。
「う~ん。近しい物と触れ合っていると、それが体に馴染むって言うのもあるだろうけど、そんな簡単な物でも無いみたいよ。いまだに研究はされているみたいだけど、周辺環境と身体の属性変化の確かな関係性って言うのは、まだはっきりしてないのよ」
「でも、急に属性が変わったりした人は困るでしょうね」
「長年同じ属性魔法を使い続けていると、それこそ属性が体に馴染んで、いよいよ変化しづらくなるらしいわよ。変化する人はあまりその属性の魔法を、使って無かった人でしょうね」
「確かに自分の魔力を、特定の属性に変え続けて使っとると、その属性に体が近づいてくって言うのは、納得いくし分かる気がしますね」
かえって極まっていく感じだろうか。
魔法薬師になった後に、急に属性が魔法薬師に向かないものに変化してしまったら、一体どうしようかと内心不安に感じていたが、そんな事が起こる可能性が低そうで安心する。
「じゃ、床は片付けたし、私はもう事務所に戻るわよ。訓練所から出るときは、受付に声をかけて行くのを忘れずにね」
そう言って戻っていくプリシラさんにお礼を言って、ギィと二人で見送る。
その後は栓を抜いた浴槽を使って、普通の水と普通のお湯を出す訓練をした。
とりあえず、普通の熱湯と冷水が出せるまでになったところで、火属性の魔法を訓練し習得することが出来た。
「ヤマさんの適性が高いのは、『水』と『植物』だけどさ、俺『植物』の適性は無いんだよね。植物はたしか、『ニャンでも魔法薬店』のばぁさんが得意だって聞いたことがあるから、弟子入りついでに習うと良いんじゃないかな」
「ギィにも向き不向きが有るんやね」
「まぁね。代わりに俺が一番適性があるのは風属性だから、風を教えとくよ。ヤマさんは、火の次に風の適性があるから。ヤマさんが向かないのは『金属』と『土』と『雷』。あと見た目に似合わず『闇』の適正が無い」
………見た目に似合わず。そういえば、今日は何度も黒魔導士っぽいと言われたな。
しかし、似合って無いのは、それだけでは無いな。
「俺、名前が『山城』なのに、名前に似合わず、土属性の適性が無いんやね」
「ん? 『ヤマシロ』と土って関係あるのか?」
「俺が居った国の文字で、『山城』って言うのは、ラビラフト語で山に城って言う意味があるんよ」
「あぁ。山なのに土の属性が無いと。でも植物属性でカバーされてるから、名前負けはしてねぇよ。ただヤマさんの山が鉱山じゃ無かったって事だな」
「鉱山じゃない山」
「そう鉱山じゃない山。ヤマさんの山は、天然水と温泉が出る山だな」
そういえば金属属性は、完全に適性が無いどころか魔力が反発していた。製鉄所があるような県出身なのに、その辺り適応していないらしい。やはり周辺環境は身体の属性にはあまり関係無いのかもしれない。
しかし、天然水と温泉が出る山か。自然豊かで、野生動物が多そうだ。なんとなく良いかもしれない。
「じゃ。ヤマさん。風魔法まで覚えたら、丁度ここの使用時間が来ると思うから、始めようぜ」
そうしてギィのおかげで、訓練所の使用時間が終わるころには、風魔法で頭を乾かせるようになった。




