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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第一部 第一章 冴えてる三日間
8/264

07 いただきます



 ――ほぼ同時刻、要塞付近の森にて



 サクが真正面から要塞に侵攻し陽動を行う間、近隣の森の中を活用し、大きく迂回して裏手側からの奇襲を実行するべく、ゲイリー率いる騎士団遊撃部隊とカーラは闇夜を駆けていた。

 点々と侵攻妨害用の罠や接近を知らせる仕掛けが設置されていた森の中だが、幸いにも道中において接敵することはなかった。妨げとなる物を気づかれぬように素早く排除しつつ、順調に進むことが出来ていた。

 時たま木々の間からは天高く巻き上がる炎の渦が見え、サクが上手く陽動をこなしていることが確認できた。作戦立案時に突拍子もない彼の提案を聞いた時は失笑してしまったゲイリー。その意思を尊重して了承したのだが、ここまで敵陣を混乱させることができたのはいい意味で想定外だった。

 『帝国』に占領された要塞の裏手まではあと僅か。暗闇に包まれている森を見事な連携で進んだ彼らは、勢いそのままに月明かりに照らされた森の外へと飛び出した。

 


「ゲイリー様! あれを!」


「遅かったか……!」



 駆ける中、団員の1人が声を荒げて裏手から伸びる道を指さす。そこへと鋭い眼光を向けてゲイリーが確認したのは、数台の大型車両が要塞から撤退していく光景だった。

 ”今回”の首領であるトイズは間違いなくその車両群のどれかに乗っているはず。救出すべきアイリスも同乗している可能性が高い。そうした推測を導き出し、要塞の方は新たな守護騎士であるサクに任せても問題ないだろうと判断したゲイリーは迷うことなく共に駆ける団員たちに告げた。



「車両とその搭乗者の確保を優先! 要塞は後回しとする! 続けぇ!」


「「「「「了解!!」」」」」



 攻撃魔法行使の準備を整え、抜刀した彼らは一直線に走り去っていく車両を追い始めた。身体強化魔法によって強化された身体能力を駆使し、瞬く間に車両との距離を詰めていく。

 その最前を行くのは、現在の面子の中でも断トツに老齢であるゲイリーだった。指揮する身が前を行くことで皆を鼓舞する意味もあったが、単純にアイリスを早く助け出したい焦る心がそうさせていた。

 幼い頃から常にそばにいたアイリスが良からぬ者たちの毒牙にかかるなど、到底許すことはできない。部下として、執事として、何としてでも助け出したい。煮えたぎる程の熱い思いはその眼光をさらに鋭いものとさせていた。

 最後部の車両まで後もう少し。その手に握る剣の一撃で車両の扉を破壊するべく、精神を研ぎ澄ませていくゲイリー。その足が一気に距離を詰めるために地を蹴ろうとした、その時だった。



「――!!」



 蹴ろうとした足の力を真逆の方向へと使い、ゲイリーは急制動をかけた。彼の行動に危機感を抱いた他の団員も急制動をかけるが、2人の団員がそのまま車両へと向けて突貫してしまう。

 そして、次の瞬間。



「がッ――」


「ぐぅッ――」



 上空から急降下してきた男の拳による一撃を受け、2人の団員は短い断末魔を上げて地に叩き伏せられてしまう。その強撃で意識を失った2人に目をやった後、現れた男はゲイリーたちを睨み付けた。

 その男を見た団員たちは、思わず後ずさりをしてしまう。唯一そのままの位置で男を睨み返していたゲイリーは、眉間にしわを寄せながら口を開いた。



「……テンガ・クロムウェル。父を逃がさんと立ちはだかるか」


「はい。申し訳ありませんが、時間を稼がせていただきます」


「……ふふっ」



 一歩も譲ろうとしない両者の視線はバチバチと火花を上げるように交わる。その最中、部隊の最後部の方にいたカーラは込み上げてきた笑い声を漏らしてしまった。

 迫る者と阻む者がぶつかり合うという緊張感に満ちた状況なのだが、カーラは笑いをこらえられない。その理由を代弁するかのように、カーラの豊満な谷間から小竜の姿に戻っていたサクが顔を出した。



(すごく……、ぴっかぴかだね)


「ふふっ、そうですね~」



 日中のサクとの戦いで焦げたアフロになったその髪の毛を全てそぎ落としたのだろう。テンガの頭は微かな光でも反射するほどの眩しいスキンヘッドとなっていた。端正な顔立ちとその頭のコントラストの強さは中々のもので、カーラを笑わせてしまっていたのだ。

 そんな珍妙な見た目になったとしても彼の実力が衰えるようなことは断じてないようで、ただ立っているだけで凄まじい圧力を撒き散らしている。ゲイリー以外の団員はそんなテンガの姿を見て、勝ち目を見いだせずにその場で立ち尽くすことしかできずにいた。

 にらみ合っている間にも、車両群はどんどん離れていく。いてもたってもいられなくなったゲイリーは、鬼の形相でテンガに向かっていった。



「退け! 秀才!」


「お断りです!!」



 ゲイリーの振り下ろした剣をテンガは引き抜いた剣で受け止めた。甲高い音が響き、火花が散る。さらなる攻撃を繰り出し続けるゲイリーだが、テンガはその悉くを華麗にさばいて見せた。



「分かっているのか秀才よ! お前の父は”感化”されているのだぞ!」


「承知の上です! ですが、今はこうするしかないのです! 父を見捨てるわけにはいかないのですから!」


「強情をぉ! いい加減に道を開けろ!!」


「重ねて、お断りします!!」



 互いに一歩も譲らぬ激しい攻防が繰り広げられる。そうした中でも確実に時は過ぎ去っていき、車両群は追撃不可能な距離にまで遠ざかってしまっていた。

 焦りと怒りで満たされたゲイリーに精神的余裕は微塵にも残されていなかった。その感情を吐き出すかのように、行く手を遮るテンガへと攻撃を繰り出し続けた。

 続く剣戟。攻撃魔法の応酬。延々に続きそうにも思えたやり取りだが、終わりが見え始める。ゲイリーの体力が尽きかけ、その動きが鈍り始めたからだ。

 徐々に無駄が出始めた動きを見切られ、一瞬の隙をついたテンガの一撃でゲイリーの剣が宙へと弾き飛ばされた。その剣が弧を描いて落下し、地に突き刺さったところでテンガは言い放つ。



「これまでです。諦めてください、ゲイリーさん」


「むうぅ……!」



 痺れる手を抑えながら、ゲイリーは非常に悔し気な表情でテンガをにらむ。それを受けてもテンガは平静を崩さなかった。

 万事休すか。事が失敗に終わってしまったことを悔やむ空気が団員たちの間に満たされていく。そうした状況の中で、1人だけ違う雰囲気を放つ存在がいた。その1人に向け、テンガは問いかけた。



「……あなたは、取り乱すといったことはしないのですね」


「そうですね~。その必要はないと思えまして~」



 その存在とは、カーラだった。いつもと変わらぬフワフワな雰囲気を、この状況下においても保ち続けている。そういった性分だから仕方がないとも思えもしたが、流石にそうあり続けることに誰もが違和感を抱いていた。

 一体何故そんなフワフワなままなのか。全員が問いかけたいと考えていると、カーラは柔らかく微笑んだ。



「だって、あの車にはアイリスは乗っていませんもんね~」


「ほお。気づいていましたか」


「な、何と……!? で、ではカーラ様! お嬢様はどちらに!?」


「えっとですね~」



 驚愕するゲイリーのすがるような問いを受けたカーラは、体半分を後方へ向け、要塞の方を指さした。



「あそこにいますよね~。魔女さんの力をまだ中に感じるので、一緒にいると思いました~」


「……ご名答です。完全に彼女を掌握するまで、アージュとともに地下にます」


「あら~。当たってましたか~。というか、あなたも隠さないんですね~」


「ええ。もうその必要もないと思えまして」


「何と……! で、では何故行く手を阻んだのです、テンガ『様』?」



 アイリスがまだ助けられる場所にいたことを知ったことに安堵したためか、ゲイリーの言動からは棘が消え去り、いつもの丁寧なものに戻っていた。そんなゲイリーにテンガは答える。



「先ほども申した通りです。私は父を見捨てません。より安全に父を解放するためには、守護騎士を私の手で捕らえることが――っ!?」


「こ、これは……!」



 自らの考えをテンガが述べていた最中、一帯が夕焼けの如き赤に照らしあげられる。その光量は要塞から発せられており、正体は巨大な炎の渦だった。

 要塞を突き抜けて天へと伸びていく炎の渦に全員が唖然となっていると、その炎の渦から2人分の人影が現れ、空中をゆっくりと浮遊しながらこちらに向けてやってきた。浮遊魔法による空中遊泳。高い精度で行使されているために、非常に安定した速度でゲイリーたちのいる降下地点へと向けて落下していく。

 


「よいしょっと」



 寝ているサクの腕を自らの肩に回し、それを支えながらアイリスがゲイリーたちの近くへと降りたつ。アイリスの上着はサクの大事な部分を隠すように巻き付けられており、本人は騎士団指定の白いTシャツ姿だった。



「お、お嬢様! ご無事でしたか!」


「ええ。サクに助けられたわ。後でちゃんと礼をしないと」



 アイリスの無事を確認したゲイリーは感極まってその場で泣き出す。その様子をアイリスは少しうっとうしく感じているようで、苦笑いしていた。



「大げさねゲイリー」


「泣かずしていられません……。こうして無事でいてくれたこと、嬉しくて仕方がないのです……!」


「まあ、喜んでくれるのはありがたいわ。でも、隊の皆の目もあるから早く泣き止んでね」


「承知いたしましたぁ……!」


(サク!!)



 ゲイリーが安堵の涙を流し続ける中、カーラの胸からハクが飛び出す。その小さな体が光に包まれると、ワンピースを着た幼い少女へと姿が変わった。急いでサクに近づき、眠るその体に抱き着く。

 飛びついてきたハクの衝撃で目を覚ましたサクは、腹部から下にかけて張り付いて居るハクに気づき、空いていた右手でその頭を優しくなでてあげた。サクが自立できるようになったことを確認したアイリスは、そっと彼から離れ、未だに泣き続けるゲイリーの下へ向かった。

 無事だったことの安堵と、撫でてくれたことの喜びでハクは満面の笑みを浮かべる。非常に愛らしいものだが、寝ぼけたサクにはそれがぼやけて見えていた。

 再開を喜んでいる面々。そんな彼らに対し、咳ばらいをしたテンガが言い放った。



「感動の再会中申し訳ない。戦いの最中だということをお忘れなく」


「……んお?」


「どうやら少佐を助けたことで力を使い果たしたようだな、守護騎士。竜を渡せとは言わん。大人しく私に付いてきてもらおうか」



 静かでありながら自信に満ち溢れた声を聞いたサクは、ぼやけた視界でテンガを見る。こちらの弱々しい見た目に、テンガは鼻で笑った。



「さあ、早くこちらへ来い。素直に従えば、大切な存在に手出しはしないと約束しよう」


「サクに手は出させないよ!」


「幼き少女よ。いや、竜よ。少し黙っていてくれ」


「手出しはしないんですか~。ちゃんとそういうところは騎士道精神を考慮するんですね~。偉いです~」


「そうですとも。私は何といっても愛を尊ぶ騎士ですから!」



 カーラが小さく拍手しながら言ったことを真に受けたテンガは、嬉しそうに頭を掻いていた。そんな彼からサクを守るべく、ハクは大きく両手を広げて立ちふさがっていた。

 だが、そんな中でサクは自らの中で何か新しい欲求が生まれたことに気づく。それに抗うことなく、ふらふらとした足取りでテンガへと近づいていく。



「サク!? 行っちゃダメ! 殺されちゃう!」


「正気に戻ってくださいサク~」



 それを必死に止めようとハクとカーラがしがみつくも、それに構うことなくサクはテンガへと向かっていく。気づいた時にはある程度の距離近づいてしまったために、アイリスやゲイリーも手が出せなくなってしまった。



「な、何だ貴様、その目と口は!?」



 接近するサクの様子を見て、驚愕するテンガ。半開きの目は赤く光り輝き、口元からは伸びた八重歯が見えていた。冴えないその暗い表情が重なって、身の毛もよだつ不気味な雰囲気を漂わせている。

 魔法が効かないことを先の戦いで十分に思い知らされたであろうテンガは、近づくサクにその手に持った剣を躊躇うことなく振り下ろす。

 しかし、



「んなぁっ!?」


「……真剣白刃取りってか」



 圧倒的な反射神経でサクはテンガの剣を頭上で受け止めたのだった。そのまま両手の中にあるその剣を握りつぶす。出血などはしていない。サクの肌は柔らかさを持ちつつも、鋼のような強度になっていた。

 信じ難いものを目の当たりにしたためか、テンガはその場に腰を抜かして倒れてしまう。それに詰め寄り、サクは地面に押し倒した。

 凄まじい力でテンガを押さえつけ、その口を大きく開く。恐ろしさのあまり、紫色の瞳を潤ませてしまうテンガ。そして、時は来た。



「いただきまーす」


「みぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!?」



 サクが思い切り強くテンガの首に噛みつくと、痛々しい悲鳴が響き渡った。血と、魔力と、精神力を吸収していく。吸えば吸うほど体に活力が戻ってくるのをサクは感じていた。その様子を、背後でハクとカーラが心配そうに見つめている。

 十分な量を吸い終わったサクは、その場に立ち上がった。先ほどまでの眠気が嘘のように吹き飛び、これまでの人生の中で体が一番軽く感じられた。しかしながら、冴えない半開きの目は変わっていない。本人以外には全く様子に変化があるようには見えなかった。



「らめぇ……。そんなに吸っちゃ……」


「何か……、すまん」



 足元でどこか遠くを見続けるテンガに、言いようのない罪悪感を感じたサクは謝ってしまった。このままでは可哀想だと思い、立たせてやろうと手を伸ばそうとした時、どこからともなく青い制服に身を包む者たちが現れた。



「テンガ様がまたやられた!! 退却、退却ぅー!」


「輸血準備ー! 精力剤もだー!」



 呆けているテンガを4人で抱き上げ、素晴らしい連携でその場から風のように去っていった。2度目だが、相変わらず見事な引きだった。

 それを見送り、静かになったところでハクが問いかけてきた。



「サク、大丈夫?」


「大丈夫だ、問題ない。それどころか体の調子がすこぶる快調なんだわ。何でもやれそうな気がする」


「そっか、よかった」



 その返答を聞いたハクは、満面の笑みを浮かべた。まるで天使のようなその純真無垢なハクに、サクは心を射抜かれてしまう。

 確かに巨乳が好きだ。だが、これはまた別口でサクにとってはドストライクだった。養いたい。自分の手で清く、美しく、正しく育ててあげたいというちょっと危ない感情が芽生え始める。

 そんな感情を紛らわすために、サクは自らの力をその場で言い並べてみた。



「俺は魔法を吸収できる!」


「すごいね!」


「それに吸収した魔法を展開できる!」


「かっこいいよ!」


「それにお祓い的力もある!」


「救世主だね!」


「ふはは、怖かろう!」


「こわーい!」


「だあーもう。天使過ぎるだろちくしょーめー!」


「きゃ~!」



 紛らわすために言ったこと全てに反応してくれたハクが可愛すぎて、サクはハクを抱き上げるとその場でぐるぐると回った。ハクもとても楽しそうにしている。そんな幸せそうな様子をカーラは真横で優しく見守っていた。

 サクの目と口は元通りになっていた。どうやら、この吸血鬼的な呪術も自由に使えるようになったようだった。また便利な物を吸収できて、サクは喜ぶ。

 楽しそうにするサクを見ていたアイリスは、少し不満げな顔をしていた。そんな彼女の考えを見抜いたのか、ゲイリーが横から問いかける。



「してもらえばいかがですかな、お嬢様」


「は、はあ!? べ、べつにそんなこと考えてるわけないでしょ! ほら、ホテルに帰るわよ!」


「ふぅむ……。素直にはなれませんか……」


「何か言った?」


「いえ、何も。よし、皆の者、ホテルへと帰還するぞ。この戦い、我々の勝利だ!」



 要塞裏手の道で歓声が上がる。盛り上がり冷めやらぬまま、サクたちとアイリス率いる遊撃部隊はロメルへの帰路についた。

 夜だということもあるが、ほぼ裸であるために何だかんだで冷える。サクが寒そうにしていると、カーラが背中にくっついてくれた。



「これでいくらか温かくなりますよね~」


「ああ。すげえ助かる」



 温かい。そりゃもうふっわふわの胸部装甲が押し付けられるだけでも、サクの体温は急上昇し、体の一部も自然と大きくなっていく。



「じゃあ私はここ!」



 そういうとハクの体が光り輝き、小竜の姿になった。初めて目の前で姿を変える瞬間をみて驚いたサクだが、飛びかかってきたそれをすぐに抱きかかえた。



(サクのお腹と胸を温める! そのまま持っててくれる?)


「ああ。ありがとうな、ハク」


(どういたしまして!)



 両手でハクを抱きかかえ、地肌にポカポカしたハクを押し当てる。1人と1匹の協力で、サクは十分すぎるほどに寒さをしのぐことができた。

 そのまま、体も、心も、股間も温かくなりながら、サクはロメルへ向かっていく。アイリス救出作戦は、無事に成功を収めたのだった。









     ◆












「――んん」



 そのまま横たわっているだけならば感じないであろう”揺れ”を感じ取ったテンガが目を覚ます。はっきりとしない視界で確認できたのは、今自分は車両の中にいるということだった。

 重く感じられる半身を上げる。すぐ近くの座席に、いつもの四人組が心配そうにこちらを見つめながら座っているのが確認できた。本調子といった様子ではないテンガに、四人組とは別方向から声がかけられた。



「おお、目を覚ましたか。テンガよ」


「……父上?」



 声がした方にテンガが顔を向けると、そこにいたのは父であるトイズだった。申し訳ないと言った表情のトイズは、ようやく目覚めたテンガにそのまま続けた。



「不甲斐ない父を許してほしい。要塞が堕ちた。今はそこからの撤退の最中だ」


「要塞が……、ですか」


「ああ。王国騎士団と結託したであろう新しい守護騎士の侵攻を止められなかったのだ。アージュも失うことにもなった。だが、まだ挽回の余地はある」


「挽回……」


「我々にはまだ『アカベェ』がある。あそこの兵装であれば、騎士団と守護騎士にも対応できるはずだ。そしてお前が万全の状態となれば、怖いものはないだろう」



 そう述べたトイズは、まだ覚醒しきっていないテンガの手を握った。その背からは真っ赤なオーラが溢れ出し、形をもったオーラは無数の怒り満ちた顔を形成している。しかしながら、守護騎士ではないテンガには異様なそれを見ることができないため、ただ父が協力を求めてきているようにしか見えていない。



「力を貸してくれテンガ。ともに私たちの『帝国』を、立派なものとしうじゃないか」


「……分かりました。善処します、父上」


「ありがとう。そう言ってくれると思っていた。では、ゆっくり休んでくれ。私は扉の向こうの座席にいるから、何かあったら呼びなさい」


「はい」



 そういってトイズは車両内部の扉を開け、その向こうへと消えた。四人組と自身だけが残された中で、テンガは車両内部に月明かりを受け入れている窓に目をやった。

 その深い蒼の瞳と同じぐらいの濃さの夜空をテンガは眺める。思慮にふけるには最適と思える状況と光景の中、テンガはぼそりとつぶやくように言った。



「守護騎士……。次は必ず……!」

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