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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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58-1 抗う者たちの輝き①

『――!』



 突如として訪れた身体の”ブレ”に違和感を覚えた≪統率装とうそつそう≫は顔を広場の方へと向けた。

 そこに球体はすでになく、主である『創造主』の計画が最終段階へと突入していることに気づく。だが、同時に『創造主』そのものの力が感じ取りづらくなっていることにも気づいた。

 


『我が主が抑え込まれた? いや違う。この感触は……』



 広場と城を囲むように展開された結界内を僅かに残る『創造主』との繋がりを通して≪統率装とうそつそう≫は探る。そこから得た情報で、ある程度のことは把握できたようだ。

 現存してはいるが、油断を許さない状況にある。念には念を入れて一旦広場辺りまで後退することを模索していた≪統率装とうそつそう≫の足を、何かが掴んだ。



「もう……、俺たちに戦意はない。だから、頼むから、その手を離せ。親父を離してくれ……!!」



 利き手側である右腕を捻じ曲げられ、体中傷だらけになったクラウスがまだ折れ曲がっていない薬指と親指で≪統率装とうそつそう≫の足を掴んで懇願した。

 治癒魔法をかける余力すら残っておらず、地を這うことでしか進めないクラウス。頭部の出血が入り込んで霞んでしまっている視界には、四肢を潰され、≪統率装とうそつそう≫に顔面を鷲掴みにされて持ち上げられたまま気を失っているバルトの姿があった。

 彼らとは別の方へ注意が向いていた≪統率装とうそつそう≫は、足元の懇願を聞いてようやく2人のことを思い出す。主である『創造主』のことと比べ2人は最早どうでもいいゴミも同然の評価故に、気に留める必要性はないと判断していたからだ。



「ぅぐっ……!」



 ≪統率装とうそつそう≫の体表を掴んでいるだけなのにも関わらず、漏れ出す”力”に汚染されたクラウスの左手から前腕までが”崩れ始めていた”。

 表皮がめくれ上がり、肉が剥離していき、さらに下層にある筋肉が悲鳴を上げ始める。正気を絶するほどの痛みを感じて尚、クラウスは父の命を救うべく懇願し続けた。



「頼む……! 頼むから、親父を離してくれ……!!」



 痛みを堪える内に漏れ出し始めた涙が血と埃に塗れた頬を伝っていく。自分の腕と同様の現象が発生している父はいつ死んでもおかしくはない。

 生まれてからずっと変わらず愛し、育ててくれた父親。まだ何も恩返しすることもできておらず、立派になった姿を見せてもいない。家族である父に対する愛が、クラウスを突き動かしていた。

 おびただしい量の出血が≪統率装とうそつそう≫の足元に血だまりを作り出していた。一向に離す様子のないクラウスに呆れたようなため息を漏らした≪統率装とうそつそう≫は、その手で掴んでいたバルトを放り投げた。



『ではくれてやる。お前たちはもう用済みだ』


「親父っ……! 親父ぃ――」



 数度転がって止まったバルトに向けクラウスは傷だらけの体を引きずっていく。その血まみれの手が届く直前で、朦朧とする意識に耐えきれず、クラウスは気を失ってしまうのだった。

 反抗してくる存在は悉く消え去り、燃え広がる火災の騒音だけが残った。用済みとなった惨状から広場へと戻るべく≪統率装とうそつそう≫は体を反転させる。

 そしてその一歩を踏み出した瞬間、その体は広場の中心へと到着していたのだった。



「――んなっ!?」


「ど、何処から!?」



 何の前触れもなく現れた≪統率装とうそつそう≫に驚愕した面々のうち、クロノスとカノンが声を上げてしまう。そんな2人を気にも留めない≪統率装とうそつそう≫の視線は、さらに奥へと向けられていた。

 そこにいるのはサクを抱きかかえるレーナ。主を取り込んだ彼の下へと≪統率装とうそつそう≫はゆっくりと歩みを進め始めた。



「な、何これ……!? こんな、こんな奴、見たことない……!!」



 少しずつだが着実に距離を縮めてくるレーナはサクを強く抱き寄せたまま、恐怖によって全身を震わせる。その紫色の瞳は、凄まじい威圧感を放つ白い眼を捉えていた。

 


「嫌……っ! 駄目っ!! 来るなぁっ!! 来ないでぇ!!」


「ど、どうしたんじゃレーナ様!? 一体あいつの何を見たというのです!?」


「殺される! 全員殺される!!」



 腰を抜かし、足元に水たまりを形成しながらレーナは泣き叫ぶ。詳細を把握したいオーガストが問いかけるも、錯乱した様子の彼女には言葉が届いていないようだった。

 


『透視能力の類か』



 進むだけで広場を崩壊させながら、≪統率装とうそつそう≫はたった一言つぶやいた。自らに怯えるレーナをそこに留まらせるために、その白い眼を逸らすことなく向け続ける。

 レーナが見たのは≪統率装とうそつ≫のこれまで。敵対する存在を屠り続けた血塗れの道筋。性別も、種族も、思想も関係なく、付き従う”主”のために最善の殺戮を実行してきた姿だった。

 狂気に落ちるでもなく、それこそが存在意義として確固たる自己を確立している≪統率装とうそつそう≫。戦乱の世とはかけ離れた緩やかな世界に生きてきたレーナにとって、≪統率装とうそつそう≫の存在は恐怖以外のなにものでもなかった。

 レーナとサクを守るべく、クロノスたちは迷うことなく各々の武器を手に取り≪統率装とうそつそう≫を迎え撃つ体勢に入る。邪魔な彼らを排除するために≪統率装とうそつそう≫は右手の先端を彼らの方へと向けた。

 指先の鱗が弾け飛び、空中で槍へと変形していく。小銃から射出された弾丸を超える速度で放たれた槍はクロノスたちが展開した結界を容易く突き抜け、目と鼻の先にまで迫る。



『――!』


 

 直後に聞こえてくるのは苦悶の声のはず。しかしながらそれが響くことはなく、代わりに響いたのは槍を弾き飛ばした甲高い金属音だった。



「っ!」



 弾かれた槍が四方に散っていく中、衝撃でひびが入った剣から伝わった強烈な振動に顔をしかめたのはテンガ。間一髪のところで攻撃を防いで見せたテンガに気を取られていた≪統率装とうそつそう≫に次の一手が加えられる。



「くらえっ!!」



 その一声と共に≪統率装とうそつそう≫に数発の雷が降り注いだ。その体を中心として広場が白煙が上がり、間を置かずして直撃した燃える球が炎の渦を形成し、≪統率装とうそつそう≫を飲み込んでいった。

 攻撃魔法展開したアイリスはテンガの横へと降り立つ。『創造主』の力に陰りが生じた結果、結晶体から脱出することに成功したのだ。

 炎の渦に閉じ込めた≪統率装とうそつそう≫を警戒するアイリスの横をカーラが僅かな間で目くばせして過ぎ去っていく。その意図を汲んだアイリスは全神経を戦闘へと傾け、カーラはサクの下へと駆け寄っていった。

 灼熱の炎の渦は広場を焼き焦がしていく。熱された空気が一帯に充満し始めたところで、炎の渦は内側から”切り崩された”。火花を散らし、魔力となって霧散していく炎の中から、≪統率装とうそつそう≫は前へと一歩踏み出す。



(ドオオォォォォン!!)



 その一歩を後退させるために、直上にて竜の姿に変わっていたハクの熱線が放たれた。金色の輝きが、≪統率装とうそつそう≫包み込む。

 圧巻の熱量が広場を赤々と溶解させていく。炎の渦が展開されたとき以上の熱気で広場は満たされていた。

 数日前にアカベェで戦った≪下等装かとうそう≫であれば、これで決着がついていた。だが、今回の相手はそれを遥かに凌駕する存在だ。



『魔法の連携。そして超熱量の熱線の重ね技。見事だ』



 他が溶解していく中で≪統率装とうそつそう≫は感想を述べる。



『――だが無意味だ。相手の力量を把握せずに攻撃を実施するのは、愚かと言えるな』



 そう告げたところで≪統率装とうそつそう≫は結界に似た防護壁を展開して熱線を押し返し始める。その中心にいる≪統率装とうそつそう≫の体には傷1つついていなかった。

 身の危険を感じたハクは熱線の放射を止め、≪統率装とうそつそう≫と城の正面入り口の間に降り立ち、先へ行かせまいと黄金の瞳で睨み付け始めた。

 警戒心を全開にして立ち塞がるハクの横にテンガとアイリスが合流する。≪統率装とうそつそう≫は行く手を阻む彼らに向け、言い放った。



『分かっているのだろう。貴様らでは私を倒すどころか、押し留めることすらできんぞ』


「だとしても、退く気はない。ここで何としてでも時間を稼ぎ、サクを守り切れば、勝機はある」


「サクが頑張ってくれた分、私も頑張る。サクを守って見せる!」


(ここから先へは行かせないよ!!)


『引く気はないというわけだな。では貴様らを排除したうえで、我が主の下へと向かうことにしよう』



 立ちはだかる2人と1匹を排除すべく≪統率装とうそつそう≫は練り上げた”力”を全身に巡らせていく。

 黒鉄色の体表の鱗がギチギチと音を上げて本格的な戦闘準備を整える最中で、≪統率装とうそつそう≫は静かに、そして小さく、つぶやいた。



『――足掻いて見せろ』











      ◆

 









 真っ黒な力が、純粋な白い部分を侵食していく。体の行動を操るためではなく完全に内側から滅ぼそうとする『創造主』の意思が、サクを蝕んでいた。

 抵抗することすらできず、ただ自分が消えていくことを見ていることしかできない。今のサクに、打てる手は何も残されていなかった。

 内部で存在を確立させた『創造主』がその異質な体を形成した。不気味なその声で、サクに向けて語り掛けてくる。



『愚かなことだ。取り込めばどうにかなるとでも思っていたのか?』

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