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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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57 紡ぐは希望

「――相も変わらず派手にやる」



 騎士団南陣営で発生した大爆発を目にした”イヤサ”は静かにほくそ笑む。遅れて届いた衝撃波と熱風が広場外に展開された結界に届き、その表面をざわつかせた。

 それほど間を置かずして建造物と街を囲む壁が切り刻まれて崩れ去るのを確認し、反抗者たちが壊滅するのは時間の問題だと判断した”イヤサ”は、事を進展させるために右手を上空へと向けた。

 巨大化を続けていた赤い球体が、粒子となって分解されながらその手から体内へと吸収されていく。邪悪な存在の根源ともいえる負のエネルギーを取り込む”イヤサ”の力は、さらに膨れ上がっていった。



「何してんだてめえ……!」



 その光景を身動き取れない状態で目の当たりにしたサクは、掠れながらも声を上げた。危機感と絶望感で満たされて表情を歪めるサクに向け、”イヤサ”は余裕に満ちた表情で答える。



『この世界は良い実験場となる。現地の物を活用し、『僕』の力を最小限に抑えて崩壊へと導けるかどうかのな。結果は上々だろう。まあ、ここが一つ目ではないのだが、貴様にとってはどうでもいいことか』


「この世界をぶっ壊そうってのか……!」


『その通りだ。察しが良くて助かるぞ、劣悪種』



 そういって”イヤサ”は嘲笑う。腹立たしく思えるその顔を殴りつけてやりたいとサクが思っても、地に沈み込み始めている体ではどうしようもなかった。

 やがて”イヤサ”は赤い球体の全てを吸収し終えた。その体から漏れ出した吐き気を催すほどの邪念に侵され、周囲に残っていた花壇の花が見る見るうちに枯れていく。

 空気が、魔力が、何もかもが”イヤサ”を中心として歪に変容し始める。彼を中心として世界そのものが根底から侵食されていた。

 膨大に過ぎる禍々しい力の一端を”イヤサ”は右手に集約していく。その手を向けた先にいるのは、身動き取れないサクだ。



「――っ!!」



 サクの脳裏を過ったのは”自らの死”。

 避けようのない事実から逃避すべくもがくが、全てが無意味。全てが、無駄だった。

 


「くそっ……! ちくしょう……!!」



 大切な人たちを救い出すことができないままに死ぬ。無念に満ちた声が喉奥から漏れ出した。

 こみあげてきた感情に揺さぶられ、潤んだ瞳から涙が零れ落ちる。

 恐怖と無念。そして後悔で押しつぶされそうになるサクに向け、無情な”イヤサ”の言葉が告げられる。



『消えるがいい、劣悪種。案ずるな。すぐに貴様の”故郷の者たち”も同じ場所に送ってやる』


「……っ! 嫌だ! まだ、まだ――」


『終わりだ――』


「はあああぁぁぁぁ!!」


『……?』



 ”イヤサ”の言葉を遮ったのは勇ましい叫び声。それが聞こえてきた方向は背後。苛立った様子で”イヤサ”が振り返った先には、こちらに向けて剣を抜いて駆けてくるテンガがいた。

 両手に握られたその剣には、複雑に混じり合って七色に輝く魔力が付与されていた。何人もの存在の思いが込められた眩いその光が周囲を照らす中、一本の矢がテンガの頭の上を通り過ぎていく。

 見えない結界に阻まれた矢が瞬時に蒸発し、それによっておおよその位置を掴んだテンガはその手に持っていた剣を全身全霊を込めて叩き付けた。



「そこだ!!」



 剣と結界が衝突し、鋭い音が響き渡る。可視化できるようになった結界に衝突部分からヒビが入り始め、瞬く間に全体へと広がっていく。その後、結界は音をたてながら崩壊していった。

 砕けた結界の一部が落下していく中をテンガは勢いを落とすことなく”イヤサ”へと向かっていく。急制動によって襲い掛かる体への負荷を気にせずに飛び上がり、”イヤサ”へと剣を振り下ろした。

 しかし、その一撃は空中にて右手の人差し指で止められ、同時に剣の輝きも消え去ってしまう。それでも諦めることなく、収納方陣から新たな剣を引き抜こうとするテンガだったが、”イヤサ”の空いていた左手から放たれた衝撃波によって広場へと叩き落されてしまった。

 苦悶の声を上げるテンガ。それでも立ち上がる彼をサクが心配していると、”イヤサ”はその攻撃の矛先をサクではなく、テンガへと変更した。



『――貴様に関しては流石というべきか。いいだろう、先に貴様を消してやる』



 その手の力が増大していくのを見て、焦るサク。だが、当の本人であるテンガは焦るどころかまだやれるといった気合に満ちた表情を浮かべていた。

 追いつめられているのにも関わらずそんな態度をとることが気に入らなかった”イヤサ”は、眉をひそめる。最後にもう一言つぶやこうとしたところで、城の方から声が聞こえてきた。



「見えた! そっちに伝える!」


「上出来だレーナ姫! さぁ、皆の衆、全力で行くぞ!!」



 いるはずのないレーナの声と、アージュの師匠であるオーガストの勇ましい声。城の正面入り口にはその2人だけでなく、クロノス、ゲイリー、カノン、アージュの姿があった。

 彼らが各々に持っていた武器を前へと向けると、その先から竜巻が発生し始める。重なり合って巨大化していったそれは一直線に”イヤサ”の方へと伸びていった。

 それを防ごうとした”イヤサ”だが、直後にテンガが投げつけてきた剣の迎撃に手間取り、その中に飲み込まれてしまう。竜巻の中心に捕らわれたその体には、徐々に異変が発生し始めた。

 竜巻から発せられる力が、『創造主』をイヤサの体から引き離していく。それも、二度と繋がらないようにと心に壁を形成しながら。そうはさせまいともがくも、抵抗空しく完全に分離してしまうのだった。

 目的を達成したことで竜巻は消滅し、解放されたイヤサは意識を朦朧とさせながら広場へと落下していく。それを受け止めるために、テンガは一目散に駆けだした。



「国王!!」



 間一髪のところでイヤサを受け止め、テンガはそのまま広場に崩れ落ちた。怪我がないかを確認し、特に異常は見られなかったことに安堵したが、その表情は上空に浮かぶ存在を見たことで歪んでいく。



「これが本体……!!」



 思わず声を上げるテンガ。ハクたちが閉じ込められた結晶体の側に、『創造主』の本体がいた。

 人としての形なのだが全身は真っ黒。所々が断続的に歪み、ちらちらと内部の白く光る部分が見えている。

 目や鼻といった人間として重要な部分は確認できないその様は、異質そのものだった。

 その姿に皆が絶句していると、広場にこれまでのイヤサから発していたものとは違う、何十人分の人の声が折り重なっている『創造主』の声が響き渡った。



『なるほど、ここまではやれるものなのだな。甘く見ていた。素直に誉めてやろう』



 その後、不気味な笑い声を上げ始める『創造主』。はっきりと気持ちが悪いと言えるそれに、全員が嫌悪感を抱く。

 一通り笑ったところで、大きくため息をつく。満足した『創造主』はその様子のまま手と思われる部分を上げると、今この場にいる全員に向けて魔力を押し固めた白い光球を生み出した。

 たった一個の光球。手のひらサイズのその内側には、ハクの熱線の数倍の威力を放てるだけの魔力が集約されていた。

 誰もがその光球からの攻撃は防げないと理解し、それでも急所は防ごうと行動し始める中で『創造主』は、つぶやいた。



『死ね。劣悪種ど――』


「サクタックル・セカンドぉぉぉぉぉ!!」


『!?』



 ネーミングセンスの欠片も無い技名が一帯に轟く。『創造主』は油断していた。イヤサの体から離れた時点で重力制御は解除されており、サクは自由に動けるようになっていたのだ。

 サク自身も異質な『創造主』の姿にビビりながらも、何故かこれでならいけるという根拠のない自信が芽生え、それに従って突撃していったのだ。

 脚部の力を解放して上空へと凄まじい勢いで飛んでいったサク。その先にいる『創造主』は光球を盾にしようとしたが、防御手段である光球はサクに吸収されてしまった。

 これならいける。そう確信したサクは眼前にいる『創造主』に向け、力一杯叫んだ。



「取り込んでやるよぉぉぉ!!」


『っ――』



 勢いを落とすことなくサクは『創造主』とぶつかり、その存在そのものを吸収することに成功した。

 上手くいったことに喜びつつ力を逆噴射して勢いを殺そうとしたサクだったが、直後に体に異常が発生した。



「っあぅ!?」



 とてつもない違和感。これまでに魔法やそれに準ずる物を吸収した時とは全く違う感覚がサクを内側から襲った。上手く対処することができず、その勢いのまま城へとサクは突っ込んでいってしまう。

 奇跡的に落下していった先は開いていた正面入り口。レーナたちの頭上を越えたサクは、城の中を何度も跳ねながら転がり落ちていった。



「サク!!」



 ようやく止まることができたサクに真っ先に駆け寄ったのはレーナだった。すぐさま抱き上げ、腕の中で想い人の無事を確認しようとする。

 気を失っていたサクの目はわずかに開いたままであり、そこを通して見た光景にレーナの顔が焦りに満ちたものへと変わっていく。他の皆が近づいてくる中で、レーナは悲痛な叫び声を轟かせた。



「何で、何で何も見えないの!?」



 サクの目を通して能力で見た光景。それは、死者特有の何もない真っ暗な空間だった。


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