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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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56-5 ≪戦鬼神≫⑤

 火災が広がり黒煙が立ち上る中、威圧感を撒き散らす白い眼が次の標的である巨人へと向けられている。搭乗者であるバンドゥーモの操縦桿を握る手は気づかぬうちに震えていた。

 これまでの人生で危険な存在と数度に渡って相対することがあったバンドゥーモだが、眼前にいる存在は別格だと直感が断言している。戦うこと自体が間違っている程の差をその場で感じていた。

 しかしながら、後悔したところでもう遅い。僅かな可能性であっても生き残る可能性を捨てなかったバンドゥーモは、既に照射準備が整った右腕の先端を≪統率装とうそつそう≫へと向けるのだった。



『くらえ――』


『然程耐久力ハ高クナカッタカ』


『っ!?』



 照射のためのトリガーを引いたのだが、反応がない。直後にコクピット内に鳴り響いたのは、機体の危機的状況を知らせる特大のアラームだった。



『な――、にぃ!?』



 自動防衛制御機能がモニター上に『機体損傷率90%』の表示を映し出す。胴体部しか制御下に置けていないという詳細を目にしたバンドゥーモは驚きの声を上げてしまった。

 超重量を支える脚部が、メインカメラがある頭部が、武器であり稼働を支えるコアが搭載された腕部が、乱雑に細々と”切断”されていた。

 自重を保つこともできず、残された胴体部は地へと落下していく。視界不良の塵が舞い上がろうとした時、側にてその一瞬を目にしていたバルトの視線は別の方向へと向けられていた。



「――嘘だろ」



 目を見開きながら、バルトは漏らしてしまう。彼の視線の先では巨人の背後にあった建物だけでなく、街を囲む壁が崩れ去っていく惨状があった。

 巨人に対する攻撃は貫通し、その先あった建造物を容易く切断して見せた。これに重なってバルトをさらに驚愕させたのが、この攻撃が≪統率装とうそつそう≫の”手刀”から繰り出されたということだ。

 圧巻の速度と威力。それでいて放った本人は平然としている。その姿が舞い上がった塵で隠れたところで、バルトは迷うことなく叫んだ。



「――各員、撤退!! 生き残ることだけを考えろ!!」



 潔い指示だった。それを受けた団員たちは、血相を変えて駆けだす。だが、中にはそうもいかない者達もいた。



「――っでぇ……。いでぇよ……」


「意識をしっかりと保て!」


「すぐに助けるから、諦めるな!!」



 爆発と崩落によって生じた瓦礫の下敷きになった団員が数名いたのである。そうした者たちを救助すべく、残った団員たちが協力して救助に当たっていた。

 地獄のような状況において生きるためにもがく者たちの中には、息子であるクラウスの姿もあった。身動きとれぬ団員に全力で声をかけて励まし続けていた。

 塵が晴れていく中バルトは収納方陣から取り出した剣を抜き、構える。その脚の震えを抑えようとしても、言うことを聞いてくれなかった。



『――戦力差ハ歴然。デアレバ撤退スル他ニ道ハ無シ』


「……!」


『攻撃ヲ仕掛ケタ点カラシテ指揮能力ニ欠ケタ者ガ上ニイルト見タガ、ドウヤラ違ッテイタカ』



 感想と受け取れる発言をした≪統率装とうそつそう≫の姿は、崩れ落ちた巨人のそばにあった。その指の先端の鱗を鋭く変形させ、細切れとなった機体のコアへと伸ばして突き刺し、引き寄せる。

 まだ完全に機能を停止していないコア。ほんのりと輝きを放つそれを間近で≪統率装とうそつそう≫は観察していた。



『魔鉱石ヲ加工シ、動力源トシテ最適化サセタモノカ。ヤロウトスルコトハドコデモ同ジダナ』



 吐き捨てるように言った≪統率装とうそつそう≫は指の先端部を元へと戻し、重力に任せて地に落ちたコアを踏み砕く。粉々になったコアは、微かに残していた輝きを失っていった。

 そして、≪統率装とうそつそう≫の注意はバルトへと向けられる。その白い眼に見据えられて思わず後ずさりしてしまいそうになったが、何とか堪えて向き合い続ける。

 絶え間なく吹き出す汗がバルトを激しい緊張に追い込んでいることを示している。敗北することと、その先に死が待っていることを自覚してしまえば、それは当然の反応と言えた。 

 音が生じぬ足で、一歩、また一歩と近づいてくる。死が迫る恐怖に負けぬよう、バルトは大切な家族のことを思い浮かべる。ここで奮起しなければ彼らに危害が及ぶと自らを奮い立たせ続けた。

 そして次の瞬間。



『――?』



 発砲音が響き、≪統率装とうそつそう≫の後頭部に数発の弾丸が直撃した。しかしながら貫通することも、体表の鱗に傷すらつかず、弾丸は着弾とともに火花を上げてあらぬ方向へと弾き跳んでいった。

 


「――やっぱ無理かよ。もう笑うしかねえな。ははっ」



 そういって、特製大口径拳銃を手にしていたバンドゥーモは苦笑いする。巨人のコクピットから這い出して瓦礫に潜み、不意打ちの機会を探っていたのだ。

 駄目で元々の不意打ちはこれにて失敗。どうしたもんかと自棄気味に笑うバンドゥーモ。そんな彼の眼前に≪統率装とうそつそう≫はまばたきするよりも早い一瞬で距離を詰めた。

 もはや驚きすぎて声すら出ないバンドゥーモの顔を≪統率装とうそつそう≫は鷲掴みにし、そのまま持ち上げる。そしてもがくために動き出そうとしていた四肢を空いていた手で全て本来の方向とは反対へと捻じ曲げた。



「ごぉああァッ!?」


『小賢シイ。コレダケノ物ヲ作ル者ガ取ル行動トハ思エンナ』


「んおあ゛あ゛あ゛ああぁぁぁぁぁ!?」



 その頭を粉砕せんと≪統率装とうそつそう≫は徐々に力を強めていく。尋常ではない痛みにバンドゥーモの絶叫が轟いた。

 骨が軋む音が聞こえる。助けに入ろうとももう手遅れ。そう誰もが考える状況において、諦めない者達がいた。



「うおおおおぉぉぉっ!!」


「糞野郎がぁ!!」


「団長を離せ薄っすらテカテカ野郎ー!!」


「やぁめろこんちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 レカー団の面々が団長であるバンドゥーモを助けるべく一斉に飛びかかっていった。ある者は転倒させようと足にしがみつき、またある者は上半身に張り付いて強固な体表を血が滲むまで殴り続ける。

 大の大人が数人とり付いても、≪統率装とうそつそう≫は微動だにしない。それでも諦めないレカー団の面々は叫びながら必死に抵抗し続けるのだった。

 慕い続けた団長バンドゥーモを救うべく奮闘し続ける団員たち。決して離れようとしない彼らの姿を見た≪統率装とうそつそう≫は、小さくつぶやいた。



『鬱陶シイ』


「「「「おわぁっ!?」」」」



 その言葉の後、≪統率装とうそつそう≫の体表から衝撃波が放たれた。一帯の瓦礫を吹き飛ばすほどの威力に負け、団員たちは成す術なく蹴散らされてしまう。

 


「――まだまだぁ!!」


「しつこさこそが俺たちの売り!!」


「っしゃおらぁ!」


「まだまだ行くぞ!!」



 体の至る所に傷を作りながらも、腕があらぬ方向へと曲がってしまっていても、団員たちは再び向かっていく。死ぬことでしか止まりそうにない彼らを見て、≪統率装とうそつそう≫は呆れたようにその口から吐息を吐き出した。



『デハクレテヤル。受ケ止メテミルガイイ』



 掴み上げていたバンドゥーモを≪統率装とうそつそう≫は天高く放り投げた。気を失っている彼を受け止めるべく、団員たちは一斉に動き出す。



「ふぁっ!?」


「ちょ、マジか!!」


「うわわわわわわ!!」


「い、急げ急げ急げぇぇぇぇぇぇ!!」



 落下先である瓦礫の山の向こうへと団員たちは全速力で駆けていく。その後ほどなくして、向こう側から歓声が上がるのだった。

 何故そのような行動をとったのか疑問に思えて仕方がないバルトへ、≪統率装とうそつそう≫は向き直った。身震いしながら複雑な表情を浮かべるバルトに歩み寄りつつ、その行動の答えを告げる。



『反抗勢力ノ戦力ト戦意ヲ削ギ落スコトガ私ノ使命。ソレヲ最短デコナシタマデノコトダ』


「で、では、我々の陣営は既に壊滅状態。この有様は既にお前が言う使命を全うしたと――」


『何ヲ言ウ。マダ戦力ハ残ッテイルゾ』


「馬鹿な。一体どこにあるというんだ」


『オ前ト、ソコラカシコデ救助活動ヲシテイル者タチダ』


「何だと……!?」



 その答え聞いたバルトは眉を顰める。



「何故だ。先ほどの連中は許して、我々は許さないとは、どういうことだ」


『アノ連中ハコノ後歯向カウコトナク何処カヘト消エル。シカシナガラ、救助ヲシテイル連中ハ違ウ。彼ラハ、救助ガ終ワリ次第オ前ニ加勢スルゾ』


「それはない。既に私は撤退の命を出した。お前に歯向かうのは私だけだ。狙うのであれば、私だけにしろ」



 その発言を聞き、巨人の胴体一個分ほどの距離を残して≪統率装とうそつそう≫は止まる。見定めるような視線を受け続けるバルトは、迎え撃つように青い瞳で睨み返していた。

 先ほどの発言は虚勢ではなく、本心からのもの。眼前の脅威の凶刃が部下に向かうことなく自分で済むならばそれでいい。団長としての覚悟が、彼を突き動かしていたのである。

 震えは止まらずとも揺るがぬ覚悟を目を通して理解した≪統率装とうそつそう≫。無言のまま両手の表面を鋭利に変形させ、戦闘態勢を整え始めた。

 持ちうる全力をぶつけるため、バルトも各種戦闘用魔法の準備を進める。感覚を研ぎ澄ましていくのだが、途中で想定外のことが発生してしまう。



「――そいつの言う通り、なんだよな」


「クラウス!? お前、要救護者はどうした!?」


「撤退する連中に預けた。残った俺は1人で孤独な戦いしようとする部下想いの親父の加勢にきた」


「その必要は――」


「家族見捨てるなんてできないだろ。諦めてくれ、親父」


「……よく出来た息子を得られて、私は幸せだよ」


「俺も、よく出来過ぎた親父を持てて光栄だよ」


『デハ、準備ハ良イカ』



 絶望の中で笑い合う親子2人に、≪統率装とうそつそう≫が問いかける。竦んでしまいそうになる身体に渇を入れた2人は、その手に握る剣の切っ先を≪統率装とうそつそう≫へと向けた。



『名ヲ聞カセテモラオウカ、愚カナ反抗者タチヨ』


「グリール王国騎士団団長、バルト・フォードゥン」


「グリール王国騎士団2番隊隊長、クラウス・フォードゥンだ。お前も名乗ったらどうだ、化け物」


『ソウダナ。ソウスルトシヨウ。私ハ≪統率装とうそつそう≫。≪戦鬼神アラガミ≫ノ頂点ニ立ツ者デアリ、素体オリジナルデアル』



 次の瞬間、”何か”を≪統率装とうそつそう≫は解除した。



『私こそは、力の象徴』



 その声は低めの男性の声へと変わり、重低音ではなくなる。

 同時に体表を覆う鱗から滲み出る強大過ぎる”力”が体表の空間を湾曲させ始めた。



『全てを蹂躙し、灰燼に帰せし執行者』



 その一歩が踏み出された先の地面に亀裂が入った。

 湾曲した空間の外側で、有する”力”に魔力が作用して稲光を発生させている。



『反抗する全てを打ち砕き、”主”が望む理想郷を創り上げる。私こそが――』



 威厳を漂わせる≪統率装とうそつそう≫は最後に短く、告げた。



『――≪戦鬼神アラガミ≫である』

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