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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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56-4 ≪戦鬼神≫④


『『『『『シィヤァっ!!』』』』』



 金切り声に似た雄たけびを上げた≪下等装かとうそう≫たちは体表の鱗を弾き飛ばし、大型の盾に変形させたそれを構え、緑色の光線ビームを迎え撃つ。

 だが、



『ギィッ――』


『ジアァ――』


『シイイィィ――』



 光線ビームが有する破格の熱量は強固な盾を一瞬にして蒸発させ、構えていた≪下等装かとうそう≫もろとも消し飛ばしていく。短い断末魔を上げながら、前列から中列までは完全に消滅することとなった。

 後ろに続く≪中等装ちゅうとうそう≫は盾以外に結界に似た対物障壁を展開するも、その耐久力をも凌駕する光線ビームを防ぎきれずに蒸発していく。突破不可能とベネディクトに断言されていた≪アラガミ≫を次々と破った光線ビームは、ついに≪上等装じょうとうそう≫の眼前にまで到達した。

 夜の闇を妖しく照らす球体の赤い輝き以上の光量を周囲に散らす緑色の光線ビーム。通過していった大通りを赤々と赤熱させる圧巻の熱量は、ハクが繰り出す熱線と同等の威力を有していた。自らよりも下等の存在を屠ったそれに対し、≪統率装とうそつそう≫のそばにいた≪上等装じょうとうそう≫は臆することなく、空いている左手をかざす。



『加勢ガ必要カ』


『不要デス』



 着弾の刹那において発せられた≪統率装とうそつそう≫からの一言に、≪上等装じょうとうそう≫は即答で返す。

 その答え通りに、≪上等装じょうとうそう≫は光線ビームを展開した結界で難なく防いで見せた。数秒間続いた光線ビームは徐々に収束していき、空気中に緑色の粒子を散らしながら消失していく。

 静まり返ったと思われた直後に、南側の騎士団陣営から歓声が上がる。その様を見て結界を消した≪上等装じょうとうそう≫は、手のひらの感覚を確認するように開いては閉じを繰り返しながら≪統率装とうそつそう≫に告げた。



『魔力ト特殊粒子ヲ織リ交ゼタ熱量兵器ト思ワレマス。≪中等装ちゅうとうそう≫以下ヲ吹キ飛バスホドノ瞬間火力ヲ有シテイルヨウデス』


『フム。各国ノ正規戦力ガ保有スル物デハナイナ』


『イカガシマスカ』


『私ガ行ク。オ前タチハ第2射ヲ警戒シツツ、消滅シタ≪中等装ちゅうとうそう≫ト≪下等装かとうそう≫ノ再構成ニ務メヨ』


『御意ニ』



 指示を受けた≪上等装じょうとうそう≫は一礼する。その頭を上げた時には、既に≪統率装とうそつそう≫の姿は何処かへと消え去っていたのだった。







     ◆









 一方、南側の騎士団陣営。



「やった! やりやがった!」


「ほとんど吹き飛んだぞ! とんでもねえ威力だ!」


「活路が開けた! 行けるんじゃないかコレ!!」



 絶え間なく、歓声が上がり続けていた。熱烈なそれらが送られているのはバンドゥーモが操縦する人型の機械巨人だ。



「やったな、バンドゥーモ! 道案内した甲斐があったってもんだ」



 そんな中で快活な笑みを浮かべて巨人の足元へと近づいてきたのはクラウス。バルトと行動を分かち、彼が工廠からここまでを最短の道筋で案内したのである。

 一変したと思われる状況に沸く皆と同じようで、クラウスも活気づいている。だが、バンドゥーモとバルトは違った。

 


「バンドゥーモ、第2射までどれくらいかかる」


『3分だ。観測班に奴らから目を離すなって伝えろ』


「分かった。連絡係、各所の観測班に至急伝えろ」


「りょ、了解です」



 バルトの指示を受けた連絡係の1人が、慌てて動き出す。外部スピーカーを通して手短にバルトと会話を交えたバンドゥーモの表情は芳しいものではなかった。

 確かに、敵側の戦力を大幅に削ることには成功した。第2射も3分ほどで準備できる。このまま押し切れる可能性はなくはないかもしれない。だが、楽観視するにはまだ早すぎるのが現状だった。

 コクピットのカメラは第1射がたった1体が展開した結界で防がれたのを捉えていた。難なく防いだところから見て、これ以降照射を続けても突破できない可能性が高いと考えざるを得なかったのである。



『野郎ども、腕部交換だ!』


「了解っす!!」


『近くの騎士団団員どもは離れろ! 潰されても知らねえぞ!』



 怒声に似たやかましい声を外部スピーカーから放ち、騎士団員たちを周囲から離れさせる。直後、照射を終えて赤々と赤熱している右腕部が切り離され、巨人の足元に凄まじい振動と落下音が発せられた。

 すぐそばにて待機していた作業用小型機械巨人が切り離された右腕部を手早く回収し、邪魔にならない路地の方へと移動させていく。用意していた新たな右腕部を別の小型巨人が巨人の接合部へと接続し、数秒経たずして交換が完了するのだった。

 接続した腕部の特大コアが正常に稼働しているかをチェックした後、すぐさまその先端部の手を砲口へと変形させていく。操作を実行するバンドゥーモの手際は完璧だったが、その表情からは以前として焦りが滲み出ていた。



「どうだぁ? 行けそうかバンドゥーモ? また派手にぶちかましてくれよ! 皆期待して――」


『うるせぇ!! 黙ってろイキリ小僧!!』


「んなっ。そんな声荒げなくても――」


『てめえの親父を見習え馬鹿!! 状況はちっとも変ってねえんだよ!! バカ騒ぎする気力があるなら反撃に備えろォ!!』


「残念ながらバンドゥーモの言う通りだ。各員、細心の注意をもって警戒にあたれ。こちらが手を出した以上、反撃が来る。心してかかれ!!」


「「「「「りょ、了解!!」」」」」



 歓喜のムードがバンドゥーモの怒号と鬼気迫るバルトの指示で一変する。役目を果たすべく、団員たちはそれぞれに散っていった。

 レカー団の各設備と石壁を覆うようにして結界が展開され、本格的な戦闘に備えて準備が進んでいく。緊迫した空気が張り詰める中で、バルトがクラウスを呼び止めた。



「クラウス。少しいいか」


「は、はい。何でしょうか団長」


「またお前の悪い癖が出たな」


「勢いに乗って周りが見えなくなるってやつですね」


「その通りだ。上に立つ者を目指すのであれば、早期に改善しろ」


「……分かりました。肝に銘じておきます」


「よろしい。では行け」


「はい」



 父であり団長であるバルトの叱責を受け止めたクラウスは、表情に影を落としながら持ち場へと走り去っていく。その後ろ姿を見つめるバルトに、バンドゥーモが告げた。



『息子だからって甘やかしはしねえんだな』


「今は上司と部下の関係だ。そうする気はない」


『そうかい。良い心がけだと思うぞ』



 分かったような口をきくバンドゥーモを睨み付けるようにバルトは巨人へと視線を向ける。その鋭い眼光に身震いしながらも、バンドゥーモは前方への警戒を怠らなかった。

 第2射照射開始の準備を進める中、別のモニターに部下たちが各建物上部へ設置した自動粒子砲台のカメラ映像が映し出されていた。

 最終調整を行う部下の姿もちらほらと映っている。このまま行けば第2射と同時に稼働させることができるだろう。手筈通りに着々と作業を進める部下たちにバンドゥーモは回線越しに労いの言葉をかけた。



『見えてるぞお前たち。順調みたいだな。流石だ』


『お褒めいただき光栄っす』


『まあ、団長の手際の良さには勝てませんがね』


『娑婆に出た後何か驕ってくださいよ』


『あたぼうよ。いくらでも飲み食いさせてやる。今のうちに好きな物言っておいてもいいぞ』


『――――』


『ん? どうした?』



 軽いノリの会話を交えていた最中で、返事が返ってこなくなった。カメラに異常はなく、収音マイクにも異常はない。

 


『――――』


『おい、返事しろ』


『――――』


『何かの冗談か? 状況が状況だから流石に俺様でも怒っ――』


『良イ連携ダ。慕ワレテイルヨウダナ、オ前ハ』


『!?』



 突如として回線から聞こえてきたの重低音の声。それを耳にしたバンドゥーモの背筋が凍り付く。

 別モニターから正面を映し出しているモニターへとバンドゥーモは視線を移す。そこでようやく、残る敵の数が1人分減っていたことに気づいた。

 最後に確認したのは別モニターの方へ視線を映した数秒前。その間に自動粒子砲台へと移動したに違いない。



 ――やられた。



 そうバンドゥーモが痛感した刹那、爆音が轟く。設置された全ての自動粒子砲台が破壊され、建物上部から黒煙が上がった。



「何だ!?」



 突然のことにバルトが声を上げる。それに対し、バンドゥーモが声を荒げた。



『設置した砲台がやられた!! 敵襲だ!!』


「何だと!? 何処からだ!!」


『もう近くにまで来てる! 恐らく黒鉄色の奴だ!」


「っ!! 皆、襲撃に備え――」


『ナルホド。コレガ先ホドノ熱量兵器ヲ放ッタ巨人ノ予備カ』


『「!!」』



 それは、何処からともなく姿を現した。

 まるで先ほどからそこにいたように平然と立つ存在は、予備の右腕部の調整を行う小型機械巨人へと近づいていく。

 禍々しい見た目なのにもかかわらず、足音もせず、気配もなく、魔力も検知できない。異質で異様な存在、≪統率装とうそつそう≫はその手で小型機械巨人へと触れた。



『……え?』



 触れられたことでようやくその存在に気づいた小型機械巨人の操縦者が、目にしたものを理解できずに疑問の声を上げてしまう。その機体の周囲には、粒子状に散った鱗片が舞っていた。

 そして次の瞬間、



『どわぁ!?』


『うわっはっ!?』


『おおぉぅ!?』



 バンドゥーモが作動させた緊急脱出装置が作動し、パラシュートを装備した部下団員たちがコクピットから天高く放り出された。

 


『即座ノ判断、見事ダ』



 そう≪統率装とうそつそう≫がつぶやいた後、指を鳴らす。そこから発せられた火花に引火した可燃性の粒子は、大爆発を引き起こした。

 状況を把握していなかった団員数名が爆風によって吹き飛ばされ、各所に体を叩きつけてしまう。設営されていたテントは崩壊し、多くの団員が下敷きとなった。

 圧巻の熱量が多くのモノを焼き焦がし、破壊の限りを尽くす中、≪統率装つそつそう≫は爆炎の内側からゆっくりと巨人の方へと歩みを進めていた。

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