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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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56-1 ≪戦鬼神≫①

「都民を近隣の街へ避難させろ! 無理ならばできるだけ離れた郊外へ!」


「荷を下ろした輸送車を使ってでもいい! 少しでも多くの人を遠方へ避難させるんだ!」


上空ワイバーン偵察隊はもう行ったのか!?」


「既に全騎飛び立ちました! 首都上空にて情報収集中です!」


「各国との連絡はどうか!」


「状況通達済みです! 出来る限りの応援の要請、受諾されました!」


「団長より1番隊から10番隊までを連結し、遊撃部隊を全隊含めたカーボン城奪還作戦を展開する達しが出た! 皆準備に取り掛かれ!」


「「「「「了解!!」」」」」



 大混乱に陥っている城壁外の一角にて、グリール王国騎士団の面々が慌ただしく動き回っていた。

 人々の誘導、ワイバーンを駆使した上空偵察、各国への応援要請、占拠された城の奪還のための戦力編成。混乱の最中において的確に事を進める中心核には、団長であるバルトの姿があった。

 街中における突然の爆発。途絶した城との通信。禍々しいエネルギーが集約されるという異常事態。グリール建国以来初めての大騒動が人々を不安に陥れていた。

 訓練でも演習でも想定したことのなかった事態だが、バルトの手腕によって騎士団は十全に機能を果たしていた。統制こそとれているものの、事態を収束出来る確証を持てぬことにバルトは歯がゆさを感じざるを得なかった。

 


「団長! 首都第一刑務所との連絡が繋がりました! こちらをどうぞ!」


「そうか。助かる」



 事態の重さを慎重に考慮したバルト。その結果判断したことの内の1つが、刑務所への連絡だった。



「所長、聞こえているか。騎士団団長のバルトだ」


『聞こえてますよー! そっちは大丈夫ですかー!?』


「そこまで大声を出さずとも聞こえているぞ」


『すみませんー! ですが、こうでもしないとかき消されると思いましてー!』


「どういうことだ?」


『こういうことですー――』


『出せぇぇぇぇええええ! 出せよぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


『こんなところで死にたくねえよぉぉぉぉぉ!』


『おがぁぁぁぁちゃぁぁぁぁぁんンンン!!』


『出してえええぇぇぇぇ! 何でもしますからぁぁあああ!!』



 大声で返答してきていた所長はその声量の理由を黙ることで明かす。無線機の向こうからは、拘留されている罪人たちの必死の命乞いが途切れることなく聞こえてきた。

 


『今日広場で派手にやらかした例の罪人が原因不明の症状で倒れたのは報告しましたよねー!?』


「ああ。聞いている。確かその時、襲われたのとの証言もあったとも聞いたぞ」


『どうやらその襲った張本人が今回のことを仕出かしたと判断したらしく、次は自分たちだと怖がって騒ぎ立ててるんですー! 五月蠅くて申し訳ありませんー!』


「そうだったか。苦労をしている中申し訳ないが、一つ頼まれてくれるか?」


『はいー! 私にできることであればー!』


「第一刑務所に拘留されているレカー団の団員。並びに団長であるバンドゥーモ・レカーを一時的に釈放してほしい」


『えぇっ!? 正気ですか団長!?』



 団長からの想定外の頼みを聞き、これまで以上の大声で所長は驚愕した。想定の範囲内とはいえ鼓膜が破れそうなほどの声量にバルトは思わず無線機から耳を離してしまう。



「――正気だ。今回の異常事態の解決は一筋縄では済まないと思われる。少しでも戦力が欲しい今、彼らの技術が必要だと考えたんだ」


『私は賛同しかねますね! あいつは技術者としては優秀かもしれませんが、スモーク国王女の姫君を誘拐した極悪人! 釈放したら何を仕出かすか分からな――』


『はい、はい。そういうことならまかせなぁ。力になってやんよ』


「ん? 誰の声だ?」



 バルトの申し出に苦言を呈する所長だったが、その発言の途中で別の誰かの声が割って入ってくる。周囲の叫びと所長の声量すら小さく感じるほどのやかましい声にバルトは聞き覚えがなかった。



『んなぁっ!? き、貴様、一体どうやって――』


『いよぉし、取り押さえろ野郎ども!』


『『『『『アイアイサー!!』』』』』


『うわああぁぁぁぁ――』


「所長? どうした所長!? 一体何がどうなって――」


『お電話代わりましたよ騎士団長殿。あんたが望んでたバンドゥーモ・レカーだ』


「なんだとっ!?」


『この所長殿が現場検証に来た際に盗聴器を仕掛けましてねえ。盗み聞きしてたら俺様が必要ってんですっ飛んできてやったよ』


「一体どうやって牢屋から出た!? 収納方陣は閉じ、魔力分散手錠に身体検査済。不審な物を持ち込めるはずは……!」


『じゃあ今度からは胃の中とかケツの穴の奥もしっかり調べるんだな』


「そんなところに……!?」


『まあ安心しな。もうやることはねえからよ。所長さんにも危害を加える気はねえ。さあ、とにかく話をしようじゃあねえか』



 とんでもない所に物を隠し持っていたことに驚きを隠せないバルトだが、無線機の向こうのバンドゥーモはそのやかましさとは違って非常に冷静に話を進めようとしていた。

 無線機を持ってきてくれた団員は一部始終を近くで聞いていたために不安気な表情を向けてきている。そんな団員と同じようにバンドゥーモへの不信感を抱きながらも、それを押し隠してバルトは口を開いた。



「お前が投獄されていた外、首都において騒動が起きているのは知っているな?」


『おうとも。こんなに騒がしくなってりゃ、嫌でも気づくさ』


「すでに城との通信が途絶。何者かに占拠されたようだ。厳重な警備の城を占拠するだけの力を持った輩だ。我々だけの戦力では対応できない可能性がある」


『それで、俺様の力が借りたいと』


「ああ。お前が投獄直前に出した報告書通りなら、我々が接収し保管してある兵器群は十分な戦力となるはず。見返りを望むのであれば検討する――」


『見返りぃ? いらねえよそんなもん』


「何?」


『国の危機なんだろ? だったら無償で手を貸してやる。俺様の栄転人生の起点にはもってこいの話だからな』


「そう……、か」



 極悪人らしからぬ気前の良さにバルトは呆気に取られて言葉が詰まってしまう。それは近くで聞いていた団員も同様だった。



『ちなみにだが、接収物の状態はどうなってんだ。それによってどれだけ時間がかかるか決まるぞ』


「原型が残っている物はそのままの状態で騎士団専用工廠に一時保管してある」


『ってことは、機械駆動の巨人のパーツとかもそのままか?』


「ああ。その他小型の運搬機も健在だ。後は実際に見て判断してもらうことになるが、現状の情報でどれぐらいの時間がかかるか予想できるか。やはりかなりの時間が――」


『工廠到着から15分。いや、10分で十分だな』


「10分!? それだけでいいのか!?」


『あたぼうよ。俺様を誰だと思っていやがる。世紀の大天才、バンドゥーモ様だぞ。おい野郎ども。地図か何かは見つけたか?』


『ありやしたーっ!』


『よし、でかした。んじゃこっちは行動開始させてもらう。話は通しておいてくれよ。現場で落ち合おうぜ』


「待て! 街への被害は最小限に抑えろよ!』


『分かってるって―の』



 バルトの注意に適当な返事を返したバンドゥーモは無線を切ってしまった。もうこうなれば信じるしか他にない。



「工廠へバンドゥーモ率いるレカー団が来ること。そして彼らに接収物を取り扱うことを許可する旨を伝えてくれ」


「りょ、了解しました!」



 無線機を団員へと返し、そのまま指示を出す。団員は慌てながらもすぐさま工廠へと連絡を取るべく行動に移っていった。

 使える物は全て使わなければならない。嫌な予感がするバルトはそう考え、判断を下した。これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、最善の道であると自らを信じる他なかったのである。

 これ以降を想定するうえで事態が最悪の方向に向かうことがないよう祈りながら、バルトは部下たちに指示を出し続ける。やがて城壁外に都民の姿がほとんど見えなくなった時、異変が起きた。



「――!?」



 ――空が、赤く染まった。



「なんだこれは……!?」



 首都中心部。城前広場から空に向けて伸びた深紅の魔力が、空を瞬く間にを染め上げていく。



「団長! 守護騎士と交戦していた主犯と思われる一味の1人が、空へと向けて魔力を放出したようです!」


「同様の現象が各国の空でも確認されています!」


「分かっている! 一体これはなんだ!?」


「わ、分かりません!」


「くそっ!」



 原因不明の光景に騎士団全体が騒然とする中、バルトは駆け出し、身体強化魔法と浮遊魔法を駆使して修復途中の城壁の上へと昇っていった。

 降り立ったその場所から、広場の方へと目を向ける。そして次の瞬間、バルトを絶望の底に叩き落す光景が生み出されるのだった。



「そんな……、まさかっ――」














     ◆













 世界の空を覆う深紅の禍々しい魔力が、流星の如く降り注いでいく。

 

 落下先は、世界各国の要衝や戦力が集結している場所。


 それらを取り囲むようにして飛来した魔力は地上すれすれで分散し、数多の”人”に近い形を成していく。


 夜の闇以上に深い漆黒の体。一切の無駄が感じられない肉体を有する『何か』が戦列を構成していた。


 各地において数百体はいると思われる『何か』の体表はざわめき、足先から頭にかけてびっしりと鱗のようなものが生えていった。


 前列から中列までが灰褐色。後列に頭部だけが赤いもの。最後部に全身が深紅の個体が数体。


 まるで階級順に並んでいるような『何か』たちはその白い眼に目標を捉えた後、一斉に動き出した。




『『『『『レエエエエェェイワアアアアアアァァ、ラァァアア!!』』』』』』



 上げた左足を振り下ろして今度は右足を上げ、それも同様に振り下ろす。



『『『『『『ガアァァァラァァァ、ジョォォォォオオオ!!』』』』』



 足踏みと思われる動作を、叫ぶのと同時に繰り返す。



『『『『『リィィィィイイジュゥゥゥウウウ!!』』』』』



 空気を、そして世界全体を震わせながら。



『『『『『ジイィィィィカアアァッセ!!』』』』』



 何度も何度も。



『『『『『デオズダァッック!!』』』』』



 何度も何度も何度も。



『『『『『レエエエエェェイワアアアアアアァァ、ラァァアア!!』』』』』



 全ての存在を圧倒するように、最後に彼らは叫ぶ。



『『『『『≪戦鬼神アラガミ≫!!』』』』』



 何もかもを絶望に叩き落す力の化身が、世界全土を震撼させるのだった。

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