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第五話:三年特別クラス

第五話

 今日から羽津女学園三年生。

 桜吹雪が舞っていたのも懐かしい……入学式に出席して挨拶をしてくれと頼まれたけれど、もしかしたら知り合いがいるかもしれないので辞退した。

 女子生徒からもようやく慣れてもらい、結構いい感じの関係を築けている。

「夢川く―ん」

「どうじゃ、今年で三年も卒業じゃけぇ、特別顧問として女子プロレス部にこんかぁ?」

「あほぅ、女子プロレスなんて男女の塊じゃ。無難なところ、女子柔道部はどうじゃ?」

「あ、あははは……」

 まぁ、何だ。こんな感じでもてもて……だ。特に、運動部系の女性から高評価を頂いているようで筋肉の躍動感あふれるダイナマイトボディ……で迫られていたりする。二メートル近いので女子プロレス部の部長も、女子柔道部の部長もかなり威圧感がある。

「その、せっかくだけど俺、結構家事をしなくちゃいけないんで……悪いね」

「そうかぁ残念じゃのう」

「そうじゃのう」

「ふいー」

 さて、話は変わるが共学となった羽津女学園。男子生徒も入ってくるかと思えば、今年は駄目だったそうだ。何でも、俺が入った事自体が奇跡……というより、無理やりねじ込まれたようなものだし、試験や入学条件にあれこれ追加していった結果、間に合わなかった。

 まぁ、男子生徒が入って来なかったのは残念だけれど、どうせ俺も今年で卒業だ。何の部活も入って居ないし(運動部は当然無理だ)、一年の後輩が出来る事もないだろう。

 二年になった時に通っていた学園じゃ、一年生の可愛い女の子とか見に行ってたんだけどな。誘う相手がいない。

 いや、まて。女の子の中にはそういう人だっているかもしれない。

 特別教室と書かれたプレートの教室へと入る。

「……誰もいないな」

 置かれている机は三つ。確か、名札があるって言ってたかな。

 そんな事を考えていたら後ろから声が飛んできた。

「おい、どけよ」

「あ、椿たん。おはよう」

 俺のあいさつを無視して、先に行ってしまう。

 一番右の机に座ったので俺もその後を追う。

「今日は朝からご機嫌だな、椿たん」

「不機嫌だ」

「こうやって朝のやり取りするのも楽しいよな?」

「楽しくない。黙ってろ」

「それでさ、椿たん……」

 いつも持ち歩いている机が俺の目の前、教壇前にあった机に突き刺さった。

 バットが机に突き刺さるって、どういう事だよ。

 しかし、椿たんのこの暴力的な性格も慣れた。一年の時からこうだったそうで入学式の次の日に暴力事件を起こして以来、誰も近づかないらしい。男性教師も三人ばかりこの学園から去ったそうだ。

「一緒に一年の女の子を見に行かないか?」

「ふんっ」

 手刀がうなり、机が悲鳴を上げて真っ二つになった。

 バットが床に当たり、乾いた音を響かせる。

「警告はしたぞ」

「なぁ、椿たん」

「……次は無いぞ」

 ゆっくりと立ち上がって俺を見た。

 恐い顔をしたって俺には通用しない。何せ、家にはわがままな吸血鬼がいるからな。

「さっきから自分の机ぼこぼこにしているけどさ、いいのかよ?」

 人差し指で石見椿と書かれた名札を指差す。すると珍しく椿たんが眼を見開いた。

「お前……」

「俺はやってないよ?」

「……ふん」

 少し悪い事をしたかなと思う。まぁ、たまにはいいだろう。

「ちっ」

 椿たんは舌打ちをすると鞄の中からガムテープを取り出すと手早く机に貼りつける。

 そして、最後に石見椿と書かれた名札をとって一番左にあった俺の名札をくっつけた。

「お前の机だ」

「はぁ?」

 横暴である。

 突然だけれど、椿たんのいいところは誰を相手にしても対応を変えないところかな。うん、相手が女子供であろうと自分の道を突き進むのだ。

 怒りっぽい性格なので二回目の返事の時に椿たんにとって好ましくない態度を取ると本性を現す。

「嫌です。椿たんが机を壊したんだろう?」

 そう言うと無言で睨んできた。

 俺は椿たんを見るふりをして、彼女の影を見た。

 そこには人の影の大きさとは思えない丸っこい影が映し出されていた。球体に、八本の足……そして、角の生えた頭部分。

「……座れよ」

 椿たん本体の目が金色に光っていた。

 この目で見られた者は足がすくみ、逃げることすら適わない。

 俺も脂汗を掻いて呼吸が荒くなってきていた。

「じゃ、じゃあ、一緒に一年女子を見に行くって約束してくれ」

「何でだ」

「だって、勘違いして机を壊し、それを俺の机にしたんだ。そのくらいはいいだろう?」

「……」

 瞳の色が黒に戻り、影も人のそれになった。

 心の中でほっと息を吐いて椿たんをみる。

 怒りっぽくてぶっきらぼう、自分の嫌な事に対して力づくで解決しようとするけれど……やりすぎたと思ったらちゃんと考えてくれる性格、それが石見椿という人間、いいや、牛鬼の娘さんだろうか。

「机を壊したのは……謝る。でも、お前について行くのは無しだ」

「わかったよ」

 彼女が一度提案した事を変えることは無いだろう。

 俺は肩をすくめて椅子に座るのだった。

「何だ、見に行かないのか?」

「ああ、一人で行っても楽しくないから」

「二人で行っても変わらないだろ」

 どう返そうかと悩んで、俺は笑って言ってみた。

「椿たんと行ったら楽しいと思ったんだ」

「……」

 ここで少しでも照れたり、何かしら反応があったら楽しかったんだけどな。完全に無視されるとは想像もしなかった。

「俺、トイレ行って来る」

「いちいち言わなくていい」

 そんな声が隣から聞こえてきたので俺はため息をついて教室の外へ出るのであった。


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