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第六話:氷の戦士スガーレジェンド

第六話

 トイレに向かう途中、変な光景を見つけた。

 変な光景と言っても、男がぞろぞろ歩いているとか、宇宙人がぞろぞろあるいているとかではない。

 何と言うのだろうか……日常に潜む違和感? さして其処に興味を持っていなければ、知り合いなんかいなければそのまま通過して後で首をかしげる程度の代物だった。

「柊?」

 そして俺も、知り合いがいたから其処で立ち止まり、事の重大さに気付いたのだ。

「あ、お、お兄ちゃん」

 ちょっとびっくりして、どこか嬉しそうか表情を俺へと向けた。

 既に一体何が起こっていたのか、俺にはわからなかったのでまずは懐かしそうな表情で俺を見る後輩へと近づくことにしたのだった。

「何だか久しぶりだな」

「春休みだったからね」

 会話にはワンクッションが必要だな。これから別の話をする前に、一度自分の頭を切り替えなければいけない。

 春の穏やかな日差しを受けて、旧校舎へと繋がる廊下は……光り輝いていた。

 不可思議な発光現象ではない。透き通るような何かに光が反射しているだけだ。

「……しかし、これは一体何が起こったんだ? 何で氷が?」

 俺は改めて旧校舎へと繋がる渡り廊下を見て呆然としてしまう。

 そう、透き通るような何かは氷だ。渡り廊下に薄い氷が張り巡らされていた。不思議な事に、渡り廊下へつながっている部分は気泡の入りまくった氷塊が邪魔している。

「えーと、ぼくもこれを見つけて驚いちゃって」

 俺の質問に答えるような形ではあるが、原因を知っているようではなかった。

 おおかた、柊も見つけてびっくりしたのだろう。

「驚くよなぁ。柊が一番最初に見つけたのか?」

「……う、うーん……う、うん。信じてくれる?」

 少しの間をあけ、必死に頷いていた。

「そうなのか。まぁ、びっくりするよな」

「よかったー、信じないって言われたらどうしようかと思ったよ」

「いや、無理だろ。渡り廊下を氷漬けなんてさ……こんなことは柊が雪女でもないと無理無理」

 俺がそう言うと同時に空気が冷たくなった。

「な、何だ?」

 何とはなしに壁に手をつけたら冷たかった。

 先ほどまで凍っていなかった普通の壁も凍っている。

「春なのに?」

 辺りを見渡す。信じられない事に一面の銀世界が広がっていた。先ほどまで廊下があったと思しき場所は氷塊が邪魔をして移動できないようになっていたのだ。旧校舎側にも当然ながら氷塊があるので突破は難しそうである。

「お兄ちゃん……ぼくが雪女だって気付いてたんだね?」

 今度は目の前の柊を見る。

 その姿は先ほどとは違って白いワンピースを着ていた。

 ようやく俺はピンと来た。

「お前……雪女だったのか」

「うん。って、さっきお兄さんが言ったじゃん」

「だったら……」

 俺はその両肩を掴む。

「冷たっ」

「雪女だからね。人間とは違うよ。さぁ、どうするの?」

 冷たい微笑を俺へと向ける。

 俺は、怒りに打ちひしがれていた。

「馬鹿野郎っ」

「ひゃっ」

 密閉された廊下の一部の中で、俺の声が響き渡った。驚いて尻もちをついた柊へと近づく。

「雪女は古来から白い着物って決まってんだよっ」

「え、え?」

 混乱した表情をこちらへと向けていた。

 思わず個人的な趣味で怒ってしまったがまさか、柊が雪女だとは思わなかったぜ。交ともかく、渉とは相手の足を掴んでこけさせ、ここぞとばかりに畳みかけるのがこつだ。

 怒った口調で俺は詰め寄る。

「白いワンピースは駄目だ」

「な、何で?」

「雪女というより、幽霊っぽいからだっ。そう思わないか?」

「た、確かにそうかも」

 先ほどまでの氷の微笑はどこへやら……困ったように考え込んでいる。

 これは勝ったな。

 そして数十秒後、妙案を思いついたらしい柊は手をぽんと叩いた。

「ほら、こんな風に雪が舞ってたら雪女として認識してもらえるよね?」

 そういって人差し指をくるりと回す。

 たったそれだけで雪が舞い始めた。なるほど、本当に雪女みたいだ。

 しかし、それで俺が折れると思ったら大間違いである。こだわりってのは必要なのだ。

「うーん、今一つ。着物が嫌なら……いっそのことあの氷塊みたいなごついのを体に纏わせた方がわたし雪女です―っていいんじゃないのか?」

「そう、かなぁ。想像つかないよ。氷の塊なんてどうやって纏うの?」

 さすがに其処までの力は無いよぉと呟かれた。

「アメフトみたいな感じでくっつけるんだ」

「うーん、わかった。やってみるね」

 そういって人差し指をくるりと回す。

 うん、見た目はすごくばっちりだ。どう見ても氷の戦士としか思えない。

 丸みを帯びたフルフェイス状のマスク、鳩尾をてっぺんとしたY字の形をした胴体に、美しい曲線を見せる肩と太股のアーマー……そして、鈍く光るひし形の瞳は萌えに走らぬ正義の味方の姿だった。

 雪は彼女の首の周りを纏って、風になびく水色のマフラーを思わせる。

「……写メ撮っていい?」

「いいけどさ……これって雪女に見えるかな?」

 ごつい見た目とは違って、かなり可愛い声が聞こえてきた。

「微妙かもしれない。でも、ものすごく格好いい。テレビに出てくる正義の味方だ。何か適当なセリフ言ってポーズ取ってくれ」

 忘れていたヒーローへの憧れ、正義の大切さ、悪の組織に出てくるちょっとエッチな幹部も思い出させてくれる。

「え、でも……」

「ほら、早くっ」

「ええっ? えっと、ぼくは……ぼくは、氷の戦士スガーレジェンドっ。悪い怪人さん達には氷の力でおしおきしちゃうぞっ」

 そういってポーズをとった。動画で撮っていたけれど、これは凄い出来だな。

 ちなみに、氷の戦士スガーとは数年前にあった特撮番組である。羽津市でも撮影があったそうだ。

 あっちは今好みのヒョロっとした感じに局部の意匠が込められていたけれど、こちらはごつくてかっこいい仕上がりだ。

 中の人が小さいから、これまたギャップでいい感じだと我ながら思う。

「っと、そろそろ時間だな。じゃ、俺そろそろ行くわ。悪いんだけど氷塊どうにかしてくれないか?」

「うん」

「じゃ、悪いんだけど必殺技で壊してくれよ」

「必殺技?」

 首をかしげられた。

「そりゃあ、お前さん……せっかくスガーレジェンドになってるんだから必殺技ぐらい見せてくれてもいいだろう?」

「えーっと、必殺技……必殺技……名前も言ったほうがいいよね?」

「当然だな」

 完全に柊の頭の中は別の事で支配されてるな。雪女の事なんてどうでもいいように見える。

「はあああああっ……出でよっ、雪柱っ。貫けっ、寒風曲雪乃風っ」

 テレビであってたスガーは『アイスソード』や『フローズンブレイク』といったカタカナ系統だったけれどこっちは和名かぁ……これもいいなぁ。

 左手の前に雪が集まり、氷柱を形成。一陣の風が吹いたかと思うと密閉していた氷塊を打ち砕いたのだった。

「はい、ここで決め台詞」

「……うんっ。氷に秘める、熱い正義の想いっ……思い知ったかっ」

 そして決めポーズを頂いた。

「いやー、さすがスガーレジェンドだな。じゃ、またな」

「うん、またねー」

 手を振って別れる。すでにアーマーは外れて無くなっていたりする。

 別れて数歩、何だかとても大切な事を忘れているような気がした。

「……思い出せないって事は別にどうでもいい事だよな。そんな事よりトイレトイレ。うう、寒いところにいたから余計行きたくなったぜ」

 俺は男子トイレへと足早に向かうのであった。


いいですよねぇ、正義の味方。まぁ、というわけでいつもだったら文章だけ作って投稿しているのですがたまに使うスガーは何気に絵も書いていたりするのですよ。絵の勉強はしていないのであまりうまくはないのですが(いいわけ)、スガーは外注してでも頭の中からこの世に生み出したいものです。さて……何気なくスガーなんて出してしまいましたが今後が問題だ。雪女の正体がばれて柊がそれを雪女の仲間にしゃべり、NKKとの全面対決へと入る……予定だったんですよ。うーむ。ま、どうにかなるでしょう。

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