表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/100

忘れ得ぬ場所

 ふとした既視感に、思わず立ち止まる。

 此処は、確か……。どこまでも変わらない森の景色が、記憶と重なる。次の瞬間、禎理ていりの足は、目的地とは違う方向に向かって走り出して、いた。

 森の下草を乱暴に掻き分けながら、がむしゃらに進む。薬草を摘みに、この『蛇神の森』に入ったことなど、綺麗さっぱり忘れてしまって、いた。

 行きたくない。でも、行かなければならない。その想いだけが、心の中に有った。

 と。

 不意に、開けた場所に出る。

 森の中にできた、木々の疎らな小さな広場。そのあちこちには、短い草にこんもりと覆われた大小の塚が、木漏れ日に照らされて、いた。

 記憶どおりの風景に、身体の力が、一気に抜ける。禎理はぺたんと尻餅をついた。

 さわさわと揺れる下草と、木漏れ日を受けて光る幾つもの塚。その風景を、禎理はただただ呆然と、見つめた。

 そうだ、此処、は……!


 定住地を持たず、大陸中を放浪して一生を過ごす『流浪の民』一族の一員であった禎理は、十一の年まで、この『蛇神の森』の奥深くで暮らしていた。

 父と母、兄と姉、『おばば』と呼ばれていた母方の大叔母、父の妹とその夫と甥姪たち、そして兄の妻という大家族。

 たまに、両親や大叔母に連れられて、天楚市や他の都市に行ったこともあったけど、大抵は、この場所で、薬草を取ったり器を作ったり、歌や踊りを教わったりして暮らしていた。


 そして、あの季節。

 酷い流行病に成す術も無く、次々と斃れて逝った家族を皆、この場所に、埋めたのだ。

 禎理だけが、独り残されて。


「……忘れてた、訳じゃないんだ」

 ただ、『あの時』の冷たい土の感触を、思い出したくなかっただけ。言い訳のように、そう、心の中で呟いてから、禎理はのろのろと立ち上がった。

 楽しかった子供の頃の思い出が、次々と蘇ってくる。あの頃は、優しい家族に囲まれていたあの頃は、確かに幸せ、だった。

 あの家族がいたから、自分は今、ここにいる。

 ――だから。

「もう、行かなきゃ」

 いつの間にか、木漏れ日の色が赤みを帯びて、いた。


 もう一度、広場を懐かしげな瞳で見回す。

 そして、今度はきっぱりと、禎理は広場に背を向けて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ