第四話 終わりと始まり
祠の奥から吹き抜けた風が、
若者たちの衣をふわりと揺らした。
空へ舞い上がった光の粒は、
まるで生き物のようにゆっくりと渦を描きながら――
ひとつ、またひとつと輝きを増していく。
シアンは息を呑んだ。
(……始まる)
胸の奥が、緊張と期待でぎゅっと締めつけられる。
村長が杖を高く掲げ、声を張り上げた。
「それではこれより、精霊授与の儀を行う!
精霊たちよ姿を現し、この者たちに力を与え給へ!」
その瞬間、光の粒が一斉に静止した。
静止したのはほんの一瞬。
祠の奥から――
ぱあっ。
色とりどりの精霊たちが飛び出してきた。
その姿はまるで夜空に散る星のようで、
広場全体が淡い光に包まれる。
レインが隣で小さくつぶやいた。
「すご……こんなの、初めて見る……」
精霊たちは列などは関係なしに
まるで心の声を聴くかのように自由に舞い始めた。
精霊は心の波長を読む。そしてそれが最も合うものへーー
ひとつーーまたひとつと飛び込んでいく。
歓声が上がり、嬉しさのあまり涙を流すものもいる。
広場は祝福で満ち溢れていた。
だがーー
その中でひときわ光る光があった。
とても大きく赤い光が迷いなくユリウスへ向かう。
「うわっ!」
光はユリウスの胸へ飛び込み、
彼の体を赤く燃やすように包み込んだ。
村長が目を見開いて言う。
「あの大きさは、、火の中位精霊じゃ!この村では何十年ぶりじゃろうか、、、、」
「ユリウス!すげぇ!」
「中位だぞ中位!」
「おれ本でしか見たことないぞ!」
次の瞬間、
淡い白銀の光がふわりと揺れていた。
まるでレインに惹かれるように、
小さくだが静かに、しかし迷いなく近づいていく。
「え……?」
レインが一歩下がるが、
光は優しく彼女の胸へ吸い込まれた。
ぱあっ……!
白銀の光がレインを包む。
村長が驚きの声を漏らす。
「光の下位精霊……!大陸全土でも稀な存在が
自ら寄っていくとは……本当に珍しい……!」
広場が沸いた。
「光の精霊!?」
「村長と同じ属性かよ!」
「ユリウスに続いてレインもかよ!」
精霊たちは次々と選び終え、
残る光はあとひとつ。
祠の上空で、
最後の光がゆっくりと揺れていた。
シアンの胸が高鳴る。
(……来い……!
俺にも……来てくれ……!)
光がふわりと動く。
シアンの方へ――
ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。
レインが息を呑む。
ユリウスも見つめる。
村人たちの視線が集まる。
光は――
シアンの目の前で、揺れた。
そして。
……止まった。
一瞬の静寂。
空気が凍る。
次の瞬間――
光は音もなく、跡形もなく消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「……え?」
自分でも驚くほど小さな声が漏れた。
「、、、なんで?、、、、」
なんで?
なんで消えた?
あんなに努力したのに、、、俺は何にもなれないのか?
精霊に選ばれなかったという事実がシアンの胸を貫く。
村人たちがざわめく。
「光が、、、消えた?」
「こんなこと、あるのか、、、?」
ある者は何かを感じたのか子供を後ろに隠し、ある者は怒りを鎮めるよう祠に祈っていた。
レインは震える声でシアンの名を呼ぶ。
ユリウスも困惑を隠せない。
村長は杖を強く握り、異変を感じたかのように儀式を強制的に終わらせた。
「ーー今年の儀式は、これまでじゃ!」
その声は震えていた。
だが村人たちは気づかない。
儀式が終わっても、誰も祝福の声を上げなかった。
「精霊が、、、拒んだのか?」
「いや、あれは拒絶じゃない、もっと不気味な、、、、」
恐れ、同情、好奇心、さまざまな感情が
ちらちらとシアンの方を見ている。
レインがそっと手を伸ばす。
「シ、シアン……一緒に帰ろ……?」
シアンは首を横に振った。
「……ごめん。
今日は……ひとりで帰るよ」
レインの手が空を切った。
儀式が終わり、村人が散っていく中、
村長は祠をじっと見つめていた。
村長は震える手で杖を握りしめた。
「シアン、、、まさか、お前は、、、、いや、、そんなはずはない、、、」
広場を後にしながら、
シアンの耳にはざわめきが残っていた。
「精霊が拒んだのか?」
「いや、あれはもっと不吉な、、、、」
そんな声が喉をつかえる。
シアンは俯いたまま家へ続く道を歩いた。
夕暮れの村は静かで、祝福の飾りだけがむなしく揺れている。
(、、、帰りたくない)
胸が重い。
メリダの顔を見たらきっと泣いてしまう。
「大丈夫」と言われたらもう立っていられない。
家の前まで来たが、足が止まった。
扉に手を伸ばそうとしてーー
震えていることに気づいた。
(無理だ、、、今は帰れない)
シアンは踵を返し、外れへ走り出した。
向かう先はいつも修行していた森。
誰にも見られない場所。
誰にも弱さを見せなくていい場所。
森に入ると、空気がひんやりと静まり返っていた。
シアンは剣を抜き、何も考えずに振り始めた。
振る。
振る。
ただ、振る。
腕が震えても、息が荒れても止まらない。
(何で、、俺だけ、、)
答えは返ってこない。
胸の奥がじんわりと痛むだけ。
やがて、森は夜の色に染まり始めた。
きっと泣いてしまう。
そのときーーー
サァ、、、、。
風が葉を揺らした。
シアンは剣を止め、周囲を見渡す。
「何だ?今の?」
そう思った瞬間。
ーーやっと、見つけた。
耳元で誰かが囁いた




