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Soul Knights  作者: ジョニー
第一章 マルタ村編
3/5

第三話 精霊授与の儀、開幕。

明け方の空は、うすい黄金に色づき始めていた。

夜の名残をわずかに抱えた空気が、ひんやりと肌を撫でる。


村の広場は、まだ早朝だというのに人の気配で満ちていた。


ざわめきはあるのに、不思議と騒がしくない。

まるで祭りの前の静かな高揚だけが、村全体を包み込んでいるようだった。


家々の軒先には花飾りが揺れ、

村人に契約された精霊たちがふわりと漂いながら、

今日という特別な朝を祝福しているかのように見える。


そう――


今日は《《精霊授与の儀》》が執り行われる日だ。


十五の成人を迎えた若者たちが、

初めて“自分の精霊”と出会う、人生で一度きりの大切な儀式。


村の空気は、期待と緊張と祝福が入り混じり、

いつもより少しだけ色濃く輝いていた。


「ちょっとぉ二人ともご飯よぉ!」

一階からメリダの張りのある声が響く。


シアンは布団の中で目を開けると、すぐに上体を起こした。


寝起きはいい方だ。むしろ今日は、メリダの声より早く目が覚めていた。


「ふぁぁ……昨日は楽しみすぎて全然眠れなかったな」


窓の外には、黄金色の朝日が差し込み始めている。

胸の奥がそわそわして、落ち着かない。


今日が特別な日だということを、体のどこかがずっと騒いでいた。


隣の部屋からは、レインが布団の中で転がりながら返事をしている気配がする。


「うーーん……はぁーい……」


シアンは苦笑しつつ、軽く準備して部屋のドアを開けた。


ガチャ。

扉を開けた瞬間――


ちょうど向こう側からレインが飛び出してきて、鼻先がぶつかりそうになる。


「おーーう、シアン。おっはよー……」


レインは目をこすりながらあくびをしている。

昨日眠れなかったのだろう、目の下にはうっすらクマができていた。


「おはよう、レイン。眠そうだね」


「眠いよー……。シアンは眠くないの?」


「僕も眠いけど、それよりワクワクのほうが勝ってるかな」


「だよねぇ……。今日だもんね、精霊授与の儀……」


レインが胸の前でぎゅっと拳を握る。

その表情には、眠気よりも緊張と期待が混ざっていた。


そのとき――


「ちょっとぉ! シアン! レイン! もうご飯できてるわよ? 早くしなさい!」


階下からメリダの声が飛んできた。

レインはビクッと肩を跳ねさせる。


「は、はーい! 今行くー!」


シアンはレインとともに階段へ向かった。


一階へ降りた瞬間、香ばしい匂いがふわりと鼻をくすぐった。

焼きたてのパンの香り、トマトスープのいい匂い、


そしてメリダ特製のハーブの香りが混ざり合い、朝の空気を満たしていく。


「いい匂いだね、メリダおばさん!」

シアンが思わず声を上げると、


台所に立つメリダが振り返り、胸を張った。

「でしょう? 今日は二人にとって大事な日だからね。

おばさん、腕によりをかけちゃったんよ!」


その顔はどこか誇らしげで、

まるで本当の母親のように二人を見守っていた。


レインはテーブルの前で、

すでに椅子に座りながらパンをじーっと見つめている。


「レイン、待ちなさい。シアンが座ってからよ」


「はーい……でも早く食べたい〜」


そんなやり取りをしているうちに、

気づけば家を出る時間になっていた。


「二人ともー、準備できた?」


「もちろん!」


「準備できたよー!」


靴を履き終えたころ、

玄関の外からはすでに人々の話し声が聞こえてきていた。


「それじゃあ二人とも、胸張って行ってきなね!」


メリダが背中を軽く押す。


「うん!」


「はい!」


勢いよく玄関の扉を開ける。


ガララッ。


――その瞬間。


朝の光とともに、にぎやかな空気が一気に流れ込んできた。

村の通りには色とりどりの布飾りが揺れ、

家々の前には花が飾られ、

精霊たちがふわりと漂っている。


まるで村全体が祝福しているかのようだった。


「わぁ……すごい……!」


レインが思わず声を漏らす。


普段は静かな村なのに、

今日はまるで祭りの日のように活気づいていた。


パン屋の前では焼きたての香りが漂い、

井戸のそばでは村人たちが笑いながら話している。


「ほんとだ……こんなに賑やかなの、久しぶりだな」

シアンも思わず見とれてしまう。


「ええとシアン、どこに行けばいいんだっけ?」


「 精霊の祠だよーレイン」

呆れたようにシアンが言う。


「いま呆れたな!」


「そんなことないよ、それより時間がないよ、向かおう」


朝の光の中、祠の方角には薄い光の粒が漂っている。

まるで精霊たちが、今日の儀式を待ちわびているかのようだった。


シアンとレインは祠へ続く石畳の道を歩き始めた。


朝の光はまだ柔らかく、

村の家々の屋根を金色に染めている。


通りには、すでに多くの村人が出ていた。


みんな笑顔で、今日の主役である若者たちに声をかけてくる。


「シアンくん、レインちゃん、おめでとうね!」


「立派な精霊が来るといいねぇ」


「ほら、これ持っていきな。縁起物だよ」


小さな花飾りやお守りを渡してくれる人までいて、

二人は少し照れながらも嬉しそうに受け取った。


「なんか……ほんとにお祭りみたいだね」


「うん。村中が祝ってくれてる感じがする」


道の両脇には色とりどりの布が風に揺れ、

精霊たちがふわりと漂っている。


祠へ続く坂道に差し掛かると、

プォーーーン、と笛の音が遠くから聞こえてきた。


「ねぇシアン、あれ……儀式の準備の音かな?」


「たぶん。なんか……胸がドキドキしてきた」


レインはシアンの袖を軽くつまむ。


「大丈夫だよ。シアンなら絶対、すごい精霊が来るって!」


「根拠のない自信だな」


「えへへ。でも本気だよ?」

二人は笑い合いながら、祠の階段を上る。


上り終わると、朝の光に照らされながら見知った面々がいた。


「おはよう、二人とも!」

ユリウスが手を振る。


「おっはよー」


「おはよう!」


「よう!」

「おそいぞー」

「また遅刻かよー」

村の仲間が軽口を叩く。


レインがむっと頬を膨らませる。

「ち、遅刻してないもん! ちゃんと時間どおりだよ!」


「そうそう。むしろ早いくらいだよな」

シアンが苦笑すると、仲間たちは「はいはい」と笑いながら受け流した。


そのとき――


村長が長い杖をトン、と地面に突き立てた。

「よしよし……これで村の子どもは全員そろったかのう」


その声に、広場の空気がすっと引き締まる。

光の精霊たちがふわりと舞い、

祠の周囲に淡い光の輪が広がっていく。


村長はゆっくりと前に進み出て、

厳かに宣言した。


「――それでは、精霊授与の儀を執り行う!」


その瞬間、祠の奥から風が吹き抜け、


光の粒が空へ舞い上がった。


シアンの胸が、強く跳ねた。



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