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テレビ

朝。

微かに聞こえてくる誰かの話し声でハイリーは目が覚めた。ラムとシュエガオの声とも違うし、従業員の声でもなさそうだった。この会話がどこから聞こえてくるのかと耳を澄ませると、存外近い。声がする方を辿っていくと寝室の斜め向かいの台所から聞こえてきているようだった。


ラムはいつもの店で買ってきた粥を、シュエガオとすすりながらテレビを見ていた。そこへ、目が覚めたハイリーがやってきた。そこでハイリーは初めて不思議な箱―――テレビを目にする。


さっき聞こえてきた会話はきっとこの箱から聞こえてきたものなのだろう。小さな四角い箱の中で動く人、そしてその箱から音がする。一体これは何なのだろうか、としばらく釘付けになっていると、ラムがテーブルを指でトントンとたたき何かを促してきた。


ハイリーはテーブルに視線を移すと、そこには持ち帰り用の容器に入った朝食の粥があった。と、その傍らの雑に置かれた新聞に目が留まる。

ハイリーは驚きのあまり、新聞に食いつくようにテーブルに手をついた。テーブルの粥が激しく揺れ、ラムとシュエガオの視線はテレビからハイリーへ移る。

なんと新聞に印字されていた日付は、ハイリーが上海にいた日から100年以上も経っていたからだった。目を凝らして再び日付を確認する。

「ここ…香港よね?」

「そうだが。何回聞くんだ?」

つい昨日にも聞かれたばかりの同じ質問に、ラムは少し呆れ気味に笑った。

ラムとシュエガオがお互い顔を見合わせ、肩をすぼめる姿に何も言えなくなってしまう。

「あ、あの人ハイリーに似てる!」

ふいにシュエガオはテレビを指さしてそう言い出した。気づけば画面はいつの間にか、歌番組になっている。

「髪型が同じだけで全然似てねぇ。なあ?」

ラムに相槌を求められるが、上の空でそれどころではない。そもそも人が映っているあれはいったい何なのか。ハイリーは思い切って聞いてみることにした。

「ねぇ、あれ、何?」

「何が?」

「あの…四角い箱」

ラムはいまいち要領を得ないが、シュエガオはわかったようだった。

「テレビのこと?」

「テレビ…?」

「お前、さっきからどうした?」

まさか自分が過去から来た人間だと言ったところで信じてもらえないだろう。何よりハイリー自身が信じられないのだから。

「ああ、あれがあまりに古いからテレビだとわからなかったってことか」

「その言い方、なんか棘があるわね…」

そんなことを話していると、ジジジ…とテレビの映像が乱れてきた。するとラムはテレビの側面を何回かたたくと、映像が正常に戻った。

「あの丸いボタンで番組を変更するんだよ」

シュエガオに教えられ、ハイリーは教わった丸いボタンを押してみる。

「違うよ、回すんだよ」

今度こそ教わった通り丸いボタンを右に一回捻ってみる。と、同時に突然辺りが一瞬にして暗くなった。当然テレビの画面も消える。

「え?」

ハイリーは自分のせいでテレビを壊してしまったのだと思いすぐさま謝罪をした。するとシュエガオが落ち着いて答える。

「ただの停電だよ」

「停電…?」

「本当に変だな。粥に薬でも入ってたか?」

「電気屋のおじさん、きっとまた変なもの拾ってきたね」

「だな」

しばらくすると電気が復旧し、テレビもついた。画面では清の歴史番組が流れていた。

よくわからない事が多々起きるこの世界に、不安よりも少しづつ興味が湧くハイリーだった。

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