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セピアシアター  作者: さよん


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幽玄からの誘い④

それから数日後。

密かにロウと約束を取り付けたハイリーは、夜中の電影中心の映画茶館にいた。



古典的な内装で、宮廷を思わせるような重厚感のある木製のテーブルといす。そして、天井から下がった長いカーテンが座席を区切っていた。


「随分と渋いところ選んだねぇ。密会にはぴったりだな」


ハイリーより少し遅れてやってきたロウは、そう言いながらハイリーの向かいの座席に座る。


「フフフ。私と密会だなんて、高くつくわよ。でも、今日あなたを呼んだのはこの前の続きを聞きたいと思ったからよ」

「言われなくてもわかってるさ。それで、何から話せばいいんだ?」


ロウはふいに立ち上がるとカーテンの外を見回し、辺りを警戒した。


「黒社会のヤツらってのは他の組織との抗争やら警察やら、常に命が掛かってくるから縁起担ぎや願掛けがとにかく大好きでね。気休めだとわかってるが、それでも損害も被害も出さずうまく事を運べる幸運を少しでも味方にしたいと思ってるのさ。だが、赤豹は違う。苦労もせずに神頼みに精を出して、いつも隙を狙って美味しいとこだけ搔っ攫ていくことばかり考えてる。そんな赤豹が、今回は本気で神頼みでクーロンの頂点に立とうとしてるらしいんだ。その神頼みっていうのが、青龍を捕まえる事」


青龍とは、吉凶を占う風水の思想の中に存在する、東西南北の四方位を守る四神獣の一つである。

神話のような世界の中での存在であり、実際には当然存在しない。


「実は、このクーロンにはずっと昔から青龍が住み着いてて、その住処の龍穴を見つけられたら大金持ちになれるっていう言い伝えがあるんだが、もちろん年寄り以外誰も信じちゃいない昔話さ。というのも、ここは見ての通り魔窟状態で無法地帯。誰がこんなところに青龍が住み着いてると信じる?青龍がいたらこんな最悪な場所になってるはずががない。だが、赤豹は本気で青龍を探してるらしく、しかも、赤豹の中にいくつか派閥があって、後継争いのためにそれぞれ青龍探しにやっきになってるって話だ」


ロウは一旦そこまで話すとハイリーがあらかじめ頼んでいた急須のお茶を、自分とハイリーのお猪口ほどの湯呑みに注いだ。

たちまち華やかで上品な華の香り、ジャスミンの匂いが空間に広がる。

ロウはジャスミン茶を一口すすった。

ハイリーもロウに続いて、お茶を口に含んだ。そして。


「赤豹という組織が青龍を探しているのはわかったけれど、それがどうして私があの不思議な現象を見たことと関係があるの?あの不思議な現象は何?」


ロウは向かいに座るハイリーに自分の方へ寄るよう手招きをし、自分も顔を寄せる。

そして、小声で続けた。


「今さっき青龍や言い伝えを否定したが、結論から言うと、ハイリーが見たものは青龍に違いねえと思う。俺は実際に見てないから何とも言えないが、その理由は———」


ロウは一旦言葉を切り、にやりと笑った。

その不敵な笑みに、一瞬不安が過る。


「今までたくさん人の気(・)を見てきたが、大概薄い蜃気楼みてえにもやもやっと見えるんだよ。強い弱いは人それぞれだが老若男女、ほとんど違いはねぇ。だけど、ハイリー、あんたの“気”は今まで見てきた中でまったく違うんだよ。蜃気楼のもやが炎のようにゆらめいて、しかも頭から足のつま先まで全身ときてる。相当力が強いんじゃないかと俺は思ってるんだが、本人に全く自覚がないのが不思議でならない」


含みのあるロウの言葉の意味を考えると当然心当たりはあったが、ハイリーはいつものように冷静を保ち、まっすぐロウを見つめる。

一方で、ハイリーが何も答えないことに、ロウは肯定の意味だと捉えていた。

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