ハイリーとフージエ
足の手当が済んでからしばらく経つと、店にぽつぽつと人が入ってきた。ラムのナイトクラブで働くバンドマンや歌い手たちだ。当然、店内にいる見たこともない女性に視線が行く。
「新人さん?」
「ラムちゃんの女?」
みなラムをからかうようにして通り過ぎていく。
「これから店を開ける。向こうに寝室があるからシュエガオと先に寝てるといい」
そう言って店の奥の方を指し示した。
シュエガオはハイリーを連れて奥の部屋へ向かうと、廊下に面した部屋からステージ衣装に着替えた一人の女性歌手とかち合った。ハイリーの頭からつま先までまじまじと眺める。
「新しい人?」
「わかんないけどハイリーっていうの」
シュエガオの返答にふぅん、と返事をするとそのままホールへ歩いて行った。
女性がいた部屋には他に女性歌手が二人、着替えをよそにキャッキャと話に花を咲かせていた。部屋の中はいかにも衣裳部屋という感じで、ハンガーにかけられたたくさんの衣装や鏡台、長身代の鏡が置かれていた。衣裳部屋の斜め向かいは楽屋だろうか、ちょうどコントラバスを運ぶ男性が部屋から出て行った。
と、そこへシュエガオを後ろから呼び止める声がした。
「新しい女性がいるって聞いたけど、この人だよね?」
バーカウンター担当のフージエである。誰でも気軽に話しができる、人懐こく細かい事を気にしない性格の人物。その半面、大雑把でデリカシーに欠けるところがある。
「うん、ハイリーだよ」
「ね、ね、お姉さん歌ってみない?」
にこにこと笑みを湛えながらとても馴れ馴れしく話しかけてくる、突然現れたこの男の食い気味な勢いに呑まれハイリーはあっという間に気圧された。
「ラムに言われたの?」
「いんや。俺が勝手に聞いてみてんの!ね、歌ってみようよ。もしくは踊ってみない?」
フージエはハイリーをホールへ連れて行こうと、半ば強引に手を掴んだところでハイリーが平手打ちをかました。
乾いた音が廊下に響き、衣裳部屋にいる歌い手の二人は話を止め、ホールの方ではバンドマンやらが壁から顔をのぞかせた。
「無礼千万!死刑を言い渡すぞ!」
ハイリーのあまりの様子に、周囲にいた者はぽかんとした。
そこへ騒動に気づいたラムが駆け寄ってきた。
「イタイ・・・」
フージエが泣きそうな顔をしながら自分の左頬をさすっている姿と、右手が上がったままの怒ったハイリーの姿を見てすぐに状況を理解したラムは溜息をついた。




