ラムのとある一日
Pixivにて登場人物や挿絵などのイラストを公開しています。
https://www.pixiv.net/users/57219133
朝、シュエガオが起き出すと、ラムも数時間ほどの睡眠から起きる。
流しでシュエガオと歯を磨いていると薬局の女店主が総菜を持って訪ねてきた。
「今起きたのかい。毎晩遅くまでご苦労さん。これ、作りすぎたから食べてちょうだい」
「レイさん、いつも悪いね」
寝室に戻り、寝間着のTシャツから服を着替える。
すると、無地のワイシャツに色が移っていることに気づいた。
これを洗ったのは確か…ハイリーだったか。恐らくロウにもらった柄シャツと一緒に洗ったに違いない。柄物と分けて洗うように言わなかった自分のせいでもある、とラムは仕方なくそのままワイシャツを着る。
身支度を済ませ、シュエガオを連れて朝食のために鳥飯屋へと向かう。
店に着くと空いている席に座り、不愛想な孫店員に注文を伝える。
「ラム、熱いからフーフーして」
出来立ての粥を冷まし、常に子供の面倒を見る。
朝食を済ませたら、ハイリー用に持ち帰る粥を一つ追加。
代金を払い、来た路地を通り、自分の店に戻る。
汗と食べ物と廃棄物の匂いが混ざった世界。人並みに暮らしているつもりでも、環境は最悪だ。それでも必死に生きて、必死に人並みの生活にしがみつく。
そんな、今日もまた代り映えのない一日が始まるーーーはずだった。
店へ戻る途中、シュエガオは雑貨店の前で立ち止まり、ある一点を見つめた。
その視線の先にあったのは猫のぬいぐるみだった。動きを感知するとにゃ~、と鳴くもの。
そういえばさっきも雑貨店の前で一瞬立ち止まっていたなぁ、とラムは行きに通った時のことを思い出す。
何でもない日なのにすぐに物を買い与えるのは、教育に良いのか悪いのか…。でも、そういえば最近よくテレビのCMで見るなぁ、などと思いを巡らせ決断にためらう。
シュエガオの様子を見てみると、顔全体に力を入れ、必死に欲を我慢しているようだった。
くっ、とラムは思わず胸が痛くなる。
そして、まもなくそのぬいぐるみはラムに買われることとなった。
店で待っていたハイリーの元へ、シュエガオがぬいぐるみを抱いて上機嫌に戻ってきた。
ラムは鳥飯屋で買ってきた、ビニール手提げに入った熱々の粥をハイリーに渡す。
「あら、寄り道?朝食を食べてくるだけだと思ったけど」
「シュエガオを預かってる以上、生活に不自由はさせたくないからな」
あまり答えになっていない返答。
「……預かる?シュエガオは引き取ったのではないの?」
「ああ、あいつの親は親とは呼べない行為をしていたからな。流れで俺が引き取った」
「……いつの時代もそういう親っているのね」
ハイリーはラムの言葉を受けて溜め息をついた。
自分たちの保身や財産目的のために、ハイリーが生まれる前から許嫁を決めていた祖父や両親たちの顔が浮かぶ。自分は親に売られたも同然だとショックを受け、物心つく頃にはすでに家族への不信感が募り始めていたことを思い出す。
「とはいえ、あんな親でも人様からの預かりものだと思ってる。俺が勝手にシュエから両親を取り上げたようなものだしな。だから預かっている以上、預かると決めた以上大切に育てているつもりだ」
いつの日か、シュエガオの両親に娘を返せと責められる日が来ても、自分が引き取ったことに後悔も文句も言わせるつもりもない、そんな面倒を見ようと決めていた。
こんな見てくれの自分でも、しっかり子供の世話ができるのだと胸を張って返すことで、少しでも反省と罪悪感を与えたいと思っていたからだった。
そんな日が訪れるとは到底思えないが…。
「ここの連中はみんな自分の生活で手一杯だ。仮にどこかの善人が見つけてくれたかもしれないが、いつ現れるかも知れねぇ。それまであいつが生き延びられたとも思えん」
シュエガオの事となるとすっかり親のような顔つきになるラムにハイリーは、我慢できず思わずふっと笑い声が漏れてしまった。
「なるほど。その善人があなたっていう訳ね」
「…。そういうことになるかねぇ」
ラムは自分の言ったセリフで墓穴を掘ってしまったことに気づき、苦笑いした。
「あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ」
「そりゃどうも」
その日の営業終了後。
軽い店じまいを終えたラムは、ようやくシュエガオの寝ているベッドに横になった。
「にゃ~~~。にゃ~~~」
ぬいぐるみを抱いたままのシュエガオが動くたびに猫の鳴き声が鳴る。
疲れていたが、今夜は果たして寝付けるか…。
ぬいぐるみを買ったのは間違いだったか、と後悔を隠せないラムだった。




