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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第二章 文化祭編

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第46話 二人目のお友達

 祭りの熱気が渦巻く廊下を、私たちは当てもなく進む。


「大変そうだったね、接客大丈夫だった?」

「…………」

「あぁ!……疲れてるんだったら無理して喋らなくていいからね。マジで自由にしてていいよ」


 坂本さんの気遣いは、今の私には過分なほど優しかった。

 その温度に少しだけ毒気が抜かれ、私は胸の内に溜まっていた澱を掠れた声で吐き出した。

 

「…………あの時は結構限界でした。普通に月宮さんが飛び込んできてくれなかったら、先輩の顔面をぶん殴ってたかもです」

「え……えぇ!? あの場面ってそこまで緊迫してたの!? ……酷い偶然もあるんだなぁ」

「偶然?」

「いや、詩音は別に気を使って助けたわけじゃないっていうか……色々こっちもあったっていうか……ま、気にしないで」

「非常に気になるんですけど、頭回したくないですし聞かないことにします」


 思考を放棄するように言葉を切り上げると、ちょうど香ばしい匂いの漂う焼き鳥の屋台の前で足が止まった。


「あ、もしかして食べたい? なら全然奢るよ?」


 私はその言葉を無視して自ら数本の串を購入し、坂本さんの元へ戻った。


「どうぞ、あげます」

「あれ……?」

「期間中お世話になりましたから、そのささやかなお返しです。……要らないなら、私が全部食べちゃいますけど」

「いやいや、全然食べるけどね?! そういうことしてくるタイプだと思わなくて、驚いただけ」


 私たちは人通りの少ないところへ行き、壁に寄りかかって並んで串を口にした。


「坂本さんはなんで私の方にいるんですか? 恋人の方に行けばいいのに」

「うちの彼氏は今仕事中なの。初日のシフトはあんまり合わなくてね。次に会えるのは3時間後〜」

「そうですか」


 私はそれきり口を閉ざした。

 意識の輪郭をぼやけさせ、立ったまま眠るように力を抜く。

 だが、隣で佇む彼女はそれを許してはくれなかった。

 

「……どうして、手が出そうになったの?」


 坂本さんは声のトーンを落としていたけど、事に対する興味は隠しきれていなかった。


 まぁ……言っちゃっても良いかな。


「気持ち悪かったんです。私に対してメロついてくる人達がとても」

「そうなんだ。……それはどうして?」

「そこで『どうして?』が出ますか…………どうしてなんでしょうね。人嫌いは大前提としてもそれ以上に、幸福な人生を歩んでいる人達の事を見てられなかったんだと思います。青春コンプレックスってやつですね」

「じゃあ、恋人がいる私なんかは目の敵でしかないか〜」

「はい。私よりいい人生を送っている人達は、全員敵です」


 自嘲気味に突き放すように返した言葉。

 なのに坂本さんは不敵なほど穏やかに微笑む。


 そして更にこの人は、衝撃的な言葉を口にした。


「やっぱりさ……藤崎さん――詩音のこと、恋愛対象として好きでしょ」

「はぁっ!?!?!?!?」


 何の脈絡もない急所の真っ芯を射抜く指摘。

 私は心臓が跳ね上がるのを感じ、動揺を隠せないまま彼女を凝視した。

 

 坂本さんはすべてを見透かしたような、あるいは獲物を追い詰めたような瞳で続けた。

 

「はい、鎌かけ成功。その反応はYESと同義だよ」


 私は顔を歪め、隠しきれなかった自分への苛立ちと共に、盛大な舌打ちをした。


「貴女のことやっぱり嫌いです。…………言いふらしたら絶対に許しませんよ」

「しないよ。でも、ただの口約束じゃ信用してくれないよね」

「…………」

「じゃあこうしよう。文化祭が終わっても私達の関係は終わらない。これでちゃんとした友人だし、交換条件には釣り合うんじゃない?」


 私は隣に立つ彼女をまじまじと見つめた。


「それ、貴女にメリットが無いように思えるんですけど」

「あるでしょ。面白い子と関係を続けれるのは、大きなメリットだよ。ダークホースの藤崎さん?」

「?????………………急に何言ってるんですか?」

「いやさ、マキちゃんが裏で指示してたとはいえ、それでもあの働きように、クラスのみんなドン引きしてたんだよね」

「は? みんな結構横から、茶化すように盛り上げ役やってませんでした? 特にシフトでもないくせに横からメイド服でちゃちゃ入れてくる男女が、10人くらいいた気が」

「その人達含めてみんな怖がってたよ」

「勝手なことですね」


 友達。

 文化祭がスタートする直前にもそんな話題が出たはずだが、彼女はあの程度の合意では納得できなかったらしい。

 

 あの時は弦巻さんの無遠慮な介入のせいで、うやむやになった感もある。

 ……この疲れ切った頭で、友達が一人増えることのデメリットを一度整理してみる。

 そして導き出された結論は、至極単純なものだった。


「……友達って自分の口から宣言するものなんでしょうか? そういうのは自然と形作っていく関係のような気がしますが」

「ん〜、その台詞……詩音以外の誰にも興味がない人の物とは思えないね」

「確かに失言でした。……まぁ、一人くらい友達が増えても、良いのかもしれませんね」

「やったぁ!」



 ---

 


 そうして私たちはあてもなく文化祭の様子を見て回った。

 私は月宮さんの仕事が終わるのを待ち、彼女は次にやってくる自分のシフトまでの時間を潰すために。


「あの人……」

「え、誰か見え――」


 廊下の先。

 周りの喧騒から少し浮いた場所で、ある人物と視線がぶつかった。

 

 その姿は在りし日の私を彷彿とさせる。

 

 私は彼を一度見たことがある。

 厳密には一度では無いが、とても印象的一面だったから、覚えている。


「あれは…………清水……寛太くん」

「…………」

「退学したって聞いてたのに、どうしてここに」

「文化祭ですからね。……この学校は部外者も普通に引き入れるタイプみたいですし、そういうこともあるでしょう」


 髪は昔に比べて伸び、手入れもされずボサボサに荒れている。

 服装自体に特筆すべき点はないが、どこか違和感を覚える、妙に記憶に引っかかる格好をしていた。

 

 そして何より彼の貌は正視に耐えないほどに歪んでいた。

 まるで今この瞬間にでも誰かを殺してしまいそうな、憎悪の煮凝りのような眼。


「藤崎さん、ここから離れよう? たぶん……」

「彼は私を見てますね」

「そう、だから離れた方がいいと思う。なんで藤崎さんを見てるのか分からないけど。彼とは私が話してくるから――」


 清水と呼ばれる男。

 過去に一度目が合った時も、彼は私をあのような目で見ていた気がする。

 だが、今日はそれより幾分か酷い。

 

 何もしていない私に対して、どうしてそんな憎悪を向けられるのか?

 私は少し気になった。


 そして過去に彼に暴言を吐かれても、傷つくどころかむしろ高揚した私自身の心にも興味があり、それの答え合わせをしたかった。


「いえ、その必要はありません」


 私はポケットから、執事用の白い手袋を取り出した。


「え?」

「坂本さんはもうお仕事の時間ですよね?」

「そうだけど……」


 しなやかな動作で、指先まで隙なく手袋を身に着ける。


「私も今からお仕事モードです。本日最後のお客様の相手をするといたしましょう」


 私は今、何かに期待している。

 それがなんなのかは自分でも分からないけど、さっきまでの疲れが吹っ飛ぶほどに、彼と対面したいという意欲があった。

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