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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第一章 出会い編

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出会いその二

 自宅のすぐ横にある馬鹿でかい公園を跨ぎ、駅へ。

 そして新幹線に乗り込み目的地の幕張メッセ近場のホテルに泊まり、明日になるのを待った。

 

 次の日の朝。


「わぁ……虹だ〜」


 会場前に出てる虹の写真を浮かれた気持ちで撮る。

 まるで今日という日を、神様が祝福しているようだった。

 この特別な場所に虹がかかっているというのが、更に希少価値を上げてるように見えて良い。


 そして幕張メッセ前には、すでに長い列ができていた。

 スタッフの「列を詰めてくださーい!」という声が反響し、ファンたちの笑い声や、紙袋のこすれる音、ペンライトのカチッという音が重なっていく。

 その雑音のすべてが、祭りの始まりを告げるように高鳴っていた。


「凄い人の数です……」


 思わず口をついた呟きは、すぐにざわめきに溶けて消えた。

 開場からまだ一時間も経っていないというのに、空気はすでに熱を孕み、湿り気を帯びて肌にまとわりつく。


 広大なホールの中へ入ると、まず視界が色鮮やかな光で満たされた。

 天井から吊るされた巨大モニターには、ライバーたちの映像が流れ、企業ブースごとにスピーカーからテーマソングやボイスが絶え間なく響いている。

 

 床のコンクリートも、重低音に合わせて微かに震えるてるし、その振動が靴底から伝わり、まるで地面全体が鼓動しているようだった。


 会場の中央では、等身大パネルがずらりと並び、人々が順番にスマホを構えて写真を撮っていた。

 あちこちから「可愛いー!」「あっこれ限定だよ!」と歓声が上がる。


「気圧されていては駄目ですね。私も沢山楽しむとしましょう!」




 ---




 そしてこの数日間――会場を隅から隅まで歩き尽くし、展示を眺め、ガチャを回し、推しのブースでは声も出ないほど興奮していた。

 限定グッズの袋が増えるたび、胸の奥も少しずつ満たされていくようで、私はそれが嬉しかった。


 ……それなのに。


 気づけばday3の昼下がり。

 私は壁際に立ち、会場を行き交う人々の背中をぼんやりと目で追っていた。


「ねえ、次どこ行くー?」

「着ぐるみステージかなぁ」

「え〜……お化け屋敷が良い!」


 弾む声が、流れる人波の向こうから届く。

 

 カラフルなショッパー、ふわふわのツインテール、同じ推しの缶バッジで飾られたリュック――。

 彼女たちは笑いながら肩を寄せ合い、その輪の中にだけ、柔らかい光が集まっているように見えた。

 

 私の手元にある袋にも、グッズがいくつも入っている。

 けれど、その袋を見せ合う相手――友達が一人としていない。

 誰かと「可愛いね」と言い合う声を出す機会も私にはない。


 私は自身の黒いパーカーの裾をぎゅっと握りしめた。

 ……フードの影が顔に落ちるたび、余計に周囲との差が際立っていくようで、心の奥がざらついた。

 

 せっかく来たのに、どうしてこんな気持ちになってしまうのだろう。


「何を考えてるんだろ……こんな特別な日に。……馬鹿みたいです」


 小さく吐き出して、両手で頬を軽く叩く。

 音に合わせて、気持ちを立て直そうとした。


「今はお昼ですし、フードエリアに向かうとしますか」


 ……久しぶりに自分以外の多くの世界を見たせいで、自分と周りの差を比較してしまった。

 こういうのは普段、外に出ないからこそなってしまう病みたいなものだろう。

 物心ついた時から何も変わってないのに、今更何を考えているのかという話でもある。


 気をつけないといけない。


 そう自分に言い聞かせながら、下を向いて数歩ほど進む。

 ――その瞬間だった。


 ドンッ。


 横から鋭い衝撃。

 肩が弾かれ、視界がぐらりと傾く。


 私は倒れかけた身体を、なんとか踏ん張って立て直す。

 だけど、すぐ隣には――私と同い歳くらいの女の子が、尻もちをついていた。


「痛った……」


 綺麗に波打つロングの髪。

 光を受けてきらめく青のメッシュ。

 大きめのサングラスに、つば広の帽子。

 アクセサリーを重ねすぎて、腕も首も光を反射している。

 派手で、鮮やかで、ひと目で「私とは違う世界の人だ」と分かる子だった。


 床にはその子のグッズが散らばっていた。

 アクリルスタンド、ブロマイド、限定チャーム――まるで光の破片のように四方に転がっている。


 ぶつかった衝撃で、中身が全部こぼれたのだろう。


 胸の奥が一瞬で冷えた。

 ――完全に私のせいだ。


「ちょっと!どこ見て……って藤崎 茜?!? なんであんたがk――」


 どこかで誰かが私の苗字を呼んでいる気がした。

 でも思考が追いつかない。


 私は反射的に何度も頭を下げ、言葉を重ねた。


「すみません!すみません! 本当にすみませんっ……! 今すぐ拾いますから!」


 半ば反射的に叫びながら、自身のシオンちゃんの痛バッグを床に置き、散らばったグッズを掻き集めた。

 手のひらが震えて、アクリルの縁が指に食い込む。

 拾い終えると、既に立ち上がっていた彼女に、落ちていたバッグごと手渡した。

 

「その……本当にすみませんでした」

「う〜ん、まぁありがとう。そんなに謝らなくてもいいよ」


 この女の子の明るく笑う声――それがあまりにも不自然に聞こえた。

 妙に高く喉の奥でつくられたような、芝居じみたトーン。

 これは地声じゃない。


 声の質で表すならば、ネズミの国のミ◯キ◯に一番近いと言えるかもしれない。

 どうやら彼女は何故か声を作って離しているようだった。

 

「って……やば」


 小さく呟いた彼女が、ぱっと顔を上げる。

 次の瞬間、焦ったように辺りを見渡した。


「こんなことやってる場合じゃないや!」


 そう言って彼女は私の手首を掴んだ。

 その手のひらは驚くほど熱く、細い指に似合わない力があった。

 拒む間もなく私は引き寄せられる。


「な、何をしてッ?!」

「いいから、ついてきて!」

 

 彼女は迷いもなく人の波をかき分け、私を引きずるように走り出した。

 周囲の喧騒が遠ざかり、代わりに心臓の音がやけに大きく響く。


「え、え!? ……どこ行くんですか!?」

「どこでもいいでしょ」

「そ、その!私はお昼ご飯を食べに行こうと思ってて……それに――」


 人と話すのは苦手だから、今すぐその手を離して他人になって欲しい――などと言う暇などなく。

 

「じゃあそこでいいよ!とりあえず今はここから離れさせて!!」


 声の奥には、どこか切羽詰まったものがある気がした。

 それが何なのか私には分からない。

 でもその必死さに抗えなかった。


 彼女に握られた手の熱。

 汗ばんだ皮膚の感触。

 走りながらも、彼女の横顔は笑っていた。

 焦げつくような真剣さと、どこか砕けたような明るさが混じっている。


 この状況は、何もかも突然で意味不明で――現実味がない。

 それでも私は抵抗できず、ただ引きずられていった。


 いつもの私なら、絶対に怖がって逃げていたはずだ。

 でも――今日は違った。

 周囲の幸福そうな笑顔と、自分の孤独を見比べて、何かが壊れていた。

 

 だからだろう。

 少しぐらい、この熱に身を委ねてもいい気がした。

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