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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第一章 出会い編

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第35話 命の危機!?

 新幹線の中でリラックスして仮眠。

 やがて新幹線は私の住む県の駅へと滑り込んだ。

 馴染み深い田舎の空気。湿った風と虫の声。

 楽しい楽しい旅行から日常に帰ってきたのだと、肩の力が抜けていくのを感じる。


「…………?」


 ――だが、その安堵は改札を抜けた瞬間に氷結した。

 

 それは旅行初日に家から出て歩いていた時と、同じような悪寒だった。


 私は反射的に早歩きになった。

 キャリーケースの車輪がアスファルトを削る音が、静まり返った夜のロータリーに響く。

 

 私は少し恐る恐る目元だけを後ろにやると、黒いスーツを着た、冷蔵庫のような巨躯の男。それが私の背後へと、音もなく、しかし確実に距離を詰めてきていた。


「……なんですかあの人達……」


 本能が警鐘を鳴らす。逃げろ、と。

 私はキャリーケースを引きずりながら駆け出した。

 

 だがもちろんそんな重いものを持ち、しかもサンダルで上手く走れる訳ない。

 荷物さえなければ、絶対に弾き離れるのにと思いながら狭い路地に向かってどうにか逃げ込もうとすると、目の前から二人のボ◯サップのような奴らに挟まれて、合計3人に囲まれた。


 隣に月宮さんがいるわけでもないので、囲まれた事実に足の力が抜けて崩れ落ちる。

「助けて」と声も出せずに、下を向いて泣きそうになっていると、目の前のボ◯サップの一人が、崩れ落ちた私の目線に合わせるようにしゃがみ込み、目の前でノートパソコンを開く。

 そして何か音声を流し始めた。


「今日も皆様に太陽の御加護があらんことを……」


 スピーカーから流れたその声に、私の全身の血が逆流した。

 あまりにも聞き覚えのある、作り物めいた聖女の声。

 

 ゆっくりと顔を上げる。

 液晶画面に映っていたのは――シスター・サニー。

 それは弦巻アメの、Vtuberとしての『ガワ』だった。


「…………」


 恐怖は一瞬で蒸発し、人生で初と言っても良いほど、どす黒い怒りが沸点に達した。


「…………ふざけてますね」

 

 よりにもよってこのタイミングでコイツ。

 旅行の余韻に浸り、彼女との記憶を噛み締めたいこの瞬間に、この女なのか。

 本当に嫌になる。

 

「ぶいれいん所属シスター・サニーです。……そして初めまして茜様、今日はシオ――」


 私は反射的に立ち上がった。

 サニーの声が完全に耳に届き切るよりも早く、躊躇なく、怒りのままに右足を振り抜く。

 膝を曲げてその勢い全てを、ノートPCへと向けた。

 一切の手加減なしに叩き込んだ。


 ガシャン!

 

 乾いた衝撃音と共に、ノートPCは板が二枚に割れて弾け飛び、完全に油断していた男の顎ごと蹴り上げてしまい、男は真後ろへ吹き飛んだ。

 

「ぐはっ……!」

 

 重く鈍い呻き声が、一瞬静まり返った空間に響く。


「あ、やば……。勢いでやり過ぎました」

 

 間違って怒りのままに突き進んでしまった。

 というか、他人を蹴り飛ばすのが初めてなのに、あそこまでふっ飛ぶと思わなかった。

 でもまだ二人も男が残っている。


 いや……大丈夫だ。

 幸か不幸か、相手が弦巻さんだと分かったおかげで、緊張感は解けている。

 ここで何かされる前に、叫んで助けを呼んでしまえばいい!


「…………?」


 そう考えていると、倒れた男が隣にいた男に引きづられながら消えていった。

 これはもしかして見逃され――


「ちょっと暴力的すぎ〜! こっちは破壊されたpc代と放置プレイかましてくれたことに対する請求をしてやっても良いんだからね?!」


 てなかった。

 

 視線を横に向けると、背後にいた男が横に移動していて、スマホのYo◯Tube画面をこっちに向けて配信画面を映していた。

 

「一体何のようですか、弦巻さん」

「ただの挨拶だよ〜。うちの妹との旅行は楽しかったのかなって思って」

「……凄く楽しかったですよ。貴女が現れなければ100点満点の旅行になってました」

「ひゃえ〜。ちなみにヤっ――」

「ってませんし、キスもしてません。……そのキモい話を続けるのでしたら、帰らせてもらいますよ」

「冗談じゃ〜ん」


 その言葉と同時に男は一歩引いた。


「うちの者から報告は受けてるよ。手を怪我してるって」

「…………」

「私はてっきり、もっと重傷で帰ってくると思ってたんだけどな〜」


 全部お見通しなのか。

 なら話が早い。

 今すぐ帰るつもりだったけど、少し寄り道していくのもアリだろう。

 

「……丁度良い機会です。それについて少し詳しく知りたいと思ってました。少しお話を聞かせてくれませんか」

「え、嫌だけど。私の今回の目的はドッキリ仕掛けるだけだったし、泣きそうになってた茜っちを姿を見れただけで充分楽しめたもん」

「はぁああ?」


 何だそれ。

 気持ち悪すぎる。

 ここまで手の込んだドッキリがあって良いのだろうか?


 ……お金を持ってる側の遊び方は理解に苦しむ。

 

「なんてね。うそうそ、寝る時間までまだ時間あるから、ちょっとだけお話してあげるよ」




 ---




 彼女が手配したタクシーに乗り込み、私は一人で帰路についた。

 車窓を流れる街灯を眺めながら、さっきの会話を反芻する。



 ---

 


『ハサミで刺そうとしてきた理由がソレ(親殺しをしたい復讐心)なわけないじゃん。好きな人の話だからって鵜呑みにしすぎ〜』

『……は?』

『あの子の願いは、絶対に裏切らない且つ自分より上に立ってくれる人を求めてるんだよ。まるで子が親の庇護を求めるようにね』

『あの状況で月宮さんが嘘を吐いたって言うんですか?……普通にそれが信じられないんですけど』


 私だったらあの場面で嘘を吐けるだろうか?

 というか、あの緊迫感で加害者が平然と嘘を吐けるものなのだろうか?


 この人、その場にいなかったからって、適当言ってるんじゃないか、と思ってしまう。

 

『ううん、ちょっと違うかな。しおっちの頭だと親を殺したかったっていうその妄想が、事実として頭に残ってるんだよ。アレだよアレ、行き過ぎたトラウマを抱えると記憶が別の物に入れ替わるってやつに近いかも。その行動にはそうするだけのメリットもあるしね』

『……私には分かりません』

『まぁ記憶の自己改竄の話は今はいいよ〜。まずしおっちが凶器を持ち出した原因は一つ。自分が認めた相手を離さないようにするため、親が自身に取った行動のように、暴力的な支配を相手に強制しようとしたんだよ。やってる事はDVする彼氏ってのとあんまり変わらないかも〜?』

『……他人に親のような関係を求めながらも、それだと自分が実権を握れてないという不安がある。だから月宮さんの親がやったように、暴力で相手の心を支配する――ってことですか。そしてそれは彼女自身は意識的にではなく無意識でやってる』

『その通り〜。……茜っちはもしかして私にあの子の心のケア方法でも聞きたかったのかもしれないけど、答えは出てるんだよね。あの子は茜っちに依存し始めてるみたいだし、言わなくても分かるでしょ?』

『錯覚――もしくは偽りでも良いから、月宮さんに私の方が立場が上……だと分からせる。そうすればあの人の頭はバグってしまい、そしてそのまま続けていけば、月宮さんの心はいずれ私の物……』

『大正解!! 流石はうちの妹が認めただけあるね。頭の回転が速くて嬉しいよ!』

『私……貴女とこの頭の悪い話を続けてると、人間社会の事がますます嫌いになりそうです』


 はぁ……

 ここまで理詰めで人の攻略法を話されるとは思ってなかった。

 

 ここまで人に対する嫌な現実を突きつけられようとも、私の月宮さんに対する好意は揺るいでいない。

 私も本能で彼女を求めてしまっているのだろう。

 

『ちなみに子守唄で無理やり寝かしつけるのは、中々に斬新な方法だね。愛が無いとそんな面倒くさい事、中々できないよ』

『……私は結局今まで通りで良いって事なんでしょうか。そうすればそのうち月宮さんが私に恋してくれたり……』

『どうかな。あんまりノロノロしてたら他の人に取られたり、もしかしたら飽きられたりするかもしれないし、さっさと体の関係でも持った方が良いと思うけどね』

『…………』

『ちなみにエッチな話に変わったから本音をいうんだけど、バス停でのアレ……凄く良かったよ! もし茜っちが抱いてくれるって言うなら、今すぐにそっち戻るんだけど、どう?!』

『……………………首吊って死んでください』



 

 ---




 それにしても中々に嫌な時間だった。


 あの馬鹿との話し合いでは、結局何も解決していない。

 ……解決させる必要も無いのかもしれないが。

 月宮さんとの関係は、まだ暫くは現状維持となるはずなのだ。


 飽きられたらそれで終わり。

 だが今の弱い月宮さんを、私からこっちのペースに無理やりにでも誘い込んでしまえば、もうそれで彼女との関係は先に進めれる。


 だけどそれは恋などではなく、倫理を無視して、一方的且つ強引に彼女を自身の所有物とする事に等しい。

 言ってしまえばそれは弦巻さんが、月宮さんにやっているように。

 

 ……今の私は心情的にそれを許容できないし、月宮さんとはそれでも対等な関係でありたい。

 私が彼女に支配下に置かれるわけでもなく、私が彼女をコントロールするわけでもなく。

 叶うならばちゃんとした恋仲になりたい。


 弱肉強食は世の常であれど、ただの一人くらいは同じ道を歩いてくれる人が欲しい。

 そう願ってしまう私は、間違っているのだろうか?


「はぁ……」


 ……月宮さんも月宮さんで中々ぶっ壊れてるけど、それ以上に弦巻さんは本当に何が目的で私にこんなちょっかいをかけてきているんだろう。

 これ以上こんな心臓に悪いことが起き続けると、身がもたない。


「……学校やめて引きこもりたいっていう気持ち本音で、月宮さんとずっと一緒にいたいというのも本音。人生はままならないものです」


 私はタクシーの窓の縁に肘をついて、独り言を吐く。


 目標も矜持も何もかもがブレブレな今、明日から夏休みをどう過ごしたものか。


 ――LINE♪

 

 そんな事を考えていた時、LINEの通知が鳴った。


 私はスマホを手に取って画面を見る。


「あれ……?」

 

 だがロック画面には何も映ってなかった。

 私はアプリを開いてトークを見る。

 すると『月宮詩音がメッセージの送信を取り消しました』と書かれていた。


 どんなメッセージを送って、なんで取り消したんだろう――なんて考えていると、また新たにメッセージが送られてきた。

 そこに書かれているのは、少し懐かしくもあり、またちょっとだけ恥ずかしくもある一文だった。



 ――死んじゃえ、ばーか!!!――



 私は思わず笑みが溢れてきた。


「……懐かしいですね。まだ2ヶ月しか経ってないのに」


 この言葉は月宮さんと初めて出会い、ぶいフェス期間の終了とともに、これが人生最初で最後の友達との別れだと、私が勘違いして泣きじゃくった時に言った台詞だ。

 結局その後、月宮さんの最悪なカミングアウトと、私から彼女を押し倒して無理やりキスしたせいで、色々と変な方向に進む事になってしまったのだった。

 ……思えば月宮さんと出会ってからのとても短い時間で、私は大きく変わってしまった感じる。


「やっぱり……好きだなぁ」


 誰に聞かせるでもなく呟き、スマホを顔に押し当てるようにして俯く。

 しばらくして私は指を動かした。


 ――帰ったら子守唄を録音して送るので、ちゃんと夜更かしせず寝て下さいね――

 ――気持ち悪い、嫌だ。……それなら通話しながら寝た方が100倍マシ――

 ――じゃあそうしましょう。1時間半後に電話をかけてきてください――

 ――だから、茜ちゃんの方からかけてk――


 私は最後に送られてきた全文を読む前に、スマホの電源を落とした。




 ---



 

 家に帰宅すると、何故かまだ起きてた明日菜とお母さんにいつもと服装が違うことを指摘されると同時に、しっかり帰りが遅かった事に対するお叱りもみっちり受けた。

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