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【百合】最推しが同級生だった挙句、弱みを握られ抵抗虚しく性的にタコ殴りにされるまでのお話。  作者: 中毒のRemi
第一章 出会い編

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第33話 しばらくのお別れです

 店を出て適当に街を散策しながら、帰宅するためにゆっくりと駅まで歩く。

 夏の湿った熱気が、冷房で冷えた肌にまとわりつく。

 

「……最悪」

 

 彼女は前を向いたまま低く毒づいた。

 

「せっかくの旅行最後の時間だったのに! こんなのありえない!! 全部台無しじゃん!!!」

「あはは……でもあのままだと身バレの可能性がありましたから……」

「そんなのどうでもよかったのに!」


 よくないです!――って口にしたかったけど、平気でぶいフェス期間中に控室から抜け出すような人にそれを言っても、焼石に水というものだろう。


「私は明日から東京に行くんだよ?…………もっと茜ちゃんとゆっくりしてたかった」


 子供のような癇癪だ。

 でも、その声が僅かに震えていることに気づいて、私は言葉を詰まらせた。


 そして東京の話。

 

 今回の旅行、私たちの帰着先は分かれている。

 私は家へと帰るが、彼女はこの足で東京へ飛び、一ヶ月間東京に缶詰めで大型案件の収録やダンスレッスン、ライブのリハーサルなどの色々な業務をこなさなければならない。


 つまり、ここで私達はお別れなのだ。

 次に会えるのは夏休みが終わってから。

 その事実が彼女を焦らせている。

 

「月宮さん……」

「本当にふざけないで。……これで私が満足すると思ってるの? こんなにお金を賭けてるんだよ???」


 月宮さんは再び私の手を掴むと、今度はそこに爪を食い込ませてきた。

 痛い。

 でも、振りほどくほどでもない。


 ……というか、もう私を楽しませるという事から、完全に自分が楽しむという目標にシフトしているようだ。

 まぁ彼女のお金だから、全然それでいいと思うんだけど。


「私と茜ちゃんは帰宅先が違うから、一緒に帰れないし、ここでお別れになるんだよ。……こんなので旅行を締めるなんて絶対に嫌ッ!」

「そ、そんなこと私に言われても、いまから新幹線の時間を変えるっていうのはちょっと……」

 

 私が困り果てて言うと、月宮さんはピタリと動きを止めた。

 繋いだ手を通して、彼女の思考が高速で回転しているのが伝わってくるようだ。

 そして彼女はゆっくりと顔を上げ、私の全身をじろじろと眺め始めた。

 まるで値踏みするような粘着質な視線だった。

 

「……ねぇ、旅行中ずっと言おうとしてた事、今言っていい?」

「どうぞ。今更何を言われても驚きませんよ」

「じゃあ言うけど、その服本当に最悪。私の隣で歩いてて良い姿じゃないでしょ」


 彼女が指差したのは、私が着ているいつもの黒いオーバーサイズのパーカー。

 フードを目深に被り、体型を隠すようなこの服は私の鎧であり、外界から身を守るシェルターだ。

 

「わぁ……それ本当に今更すぎますよ。逆になんで今の今まで指摘されなかったのか、聞きたいくらいです」

「…………」


 彼女は黙って俯いてしまった。


 ……これはアレだ。

 たぶん初日から言ってやりたかったのだろうけど、1日目はあまりにトラブルだらけで言う暇が無く、流れのままに任せてたら今日になってしまった――と言ったところだろう。

 彼女は初日の失敗を持ち出されたくないため、下を向いている。


「も、もう察しましたから、その顔やめて下さい!私が悪かったです!!」


 流石に最終日に空気をこれ以上お通夜にしたくない。

 私は若干顔を青くしながら対応した。


 すると……


「ふふっ、引っかかった~」

 

 月宮さんが悪戯っぽく笑う。


「別にもう何とも思ってないよ! あれ含めて良い旅行だったって今なら言えるからね!」


 紛らわしい!!

 ……って言ってやりたいけど彼女の――というか、こういう時の女の子の『何とも思ってない』は全部嘘だ。

 ここまで一緒にいれば、アレを何とも思ってないで流せるほど、月宮さんのメンタルは強くないのは、流石に見ていてわかる。

 まぁ、わざわざそれをつつくような事はしない。

 

「はぁ……で、結局なんでその指摘をいまさらしたんですか? まさか今から服を買いに行くとか言いませんよね? もう時間もそんなに――」

「そのまさか。当然行くでしょ」

「え、絶対に嫌です。それにこれ以外の服とか着たくないですし」


 即座に拒否した。

 この黒パーカー以外の服なんて着たくもない。

 私が他の服を着て外を歩くなんて、カラスがペンギンの真似をするようなものだ。

 絶対に似合わない。


 中学から外に出る時はパーカーなので、もはや私の服の選択肢はこれしかありえないのだ。


「なので…………い、一旦マックにでも寄っていきましょうよ! 久しぶりにポテトとか食べたくなってきました!!」


 必死に話題を逸らそうと、近くの赤い看板を指差した、その時。

 月宮さんは私の耳元に唇を寄せ、悪魔的呪文を唱えた。

 

「50万」

「…………」

 

 その言葉に私の足が、コンクリートに縫い付けられたように止まった。


「う、ううう嘘ですよね? こう言ってなんですけど旅行費用全額負担を切り出したの、月宮さんの方ですよ? 私が頼んだわけじゃ……」

「じゃあついでに服も全部私持ちで良いから、早く行こうね」

 

 彼女はニコニコと笑いながら、私の腕をグイグイと引っ張る。

 

 ……残念ながら五十万という圧倒的な『借り』の前では、私の意思など路傍の石ころ同然。

 

 私は「飼い犬」のごとく、大人しく彼女に従うしかなかった。



 ---


 

 連行されたのは、駅ビルに入っている若者向けのプチプラブランドの店だった。

 煌びやかな照明、流行の音楽、そしてマネキンが着ている布面積の少ない服たち。

 

 私にとっては別世界そのものだ。


「いらっしゃいませ~!」

「わ、わぁ……」

 

 店員さんの明るい声に怯えながら、私は月宮さんの背後に隠れる。

 しかし彼女は容赦なかった。

 

「これとこれ、あとあれもかな」

 

 月宮さんは手慣れた様子で服をピックアップし、私を試着室へと押し込んだ。

 

「着替えるまで出てこないでね」

「そ、そんな……」

 

 カーテンが閉められ、私は観念して渡された服を手に取る。

 黒パーカーという殻を脱ぎ捨て、渡された薄い布切れを身に纏う。

 鏡に映った自分を見て、私は頭を抱えたくなった。

 

 ……これが本当に私の姿なのか?


「まだ〜?」


 そして時間がほんの少し経ち。

 私は死刑台に向かう囚人のような足取りで、試着室から出た。


「ど、どうですか……?」

 

 今回着せられたのは、白のハイネックノースリーブに、淡い色のデニムロングスカート。

 いつものダボダボの服とは真逆の、身体のラインが出る服装だ。

 二の腕は丸出しだしで、胸の形も結構強調されている気がする。

 

 足元もいつもの汚れたスニーカーではなく、少し厚底のサンダルに履き替えさせられていた。

 月宮さんは私を見るなり、目を輝かせた。

 

「良い、良いよ茜ちゃん! めちゃめちゃにカッコ可愛い!!」

「……恥ずかしいとかを超えて、この場から消えたいくらいです」


 私は腕で自分の体を隠すように縮こまる。

 肌が空気に触れている面積が広すぎて、落ち着かないことこの上ない。

 まるで裸で街中に放り出されたような気分だ。

 

「なんで隠すの! 似合ってるってば! 茜ちゃんは素材が良いんだから、隠すなんてもったいないよ」

「素材とかどうでもいいです……。早くパーカー返してください……」

「だーめ。このまま帰るの」


 月宮さんは満足げに頷くと、レジで会計を済ませてしまった。

 私の黒パーカーは、無惨にもショップ袋の底へと封印された。


 店を出て、私は人目を気にしながら俯いて歩く。

 すれ違う人が全員私を見て笑っているような被害妄想に襲われる。

 

「ほら、シャキッとして。隣歩くなら堂々としててよ」

「無理です……。やっぱり恥ずかしい……」

「はぁ? それを言ったら、旅行中毎日のように子守唄で眠らされる私の方が、100万倍恥ずかしかったと思うけどね」

「……確かに。私だったら、屈辱で二度と顔を合わせられません」


 自嘲気味に呟いた瞬間、月宮さんの鋭いボディブローが私の脇腹を抉った。


「ぐへっ.......」


 いつも着ていた黒のパーカーより生地が薄いせいか、拳の硬さが直接内臓に響く。


「ほらっ、もう行くよ」


 


 ---



 

 月宮さんに手を引かれ、私は雑多な土産物屋やコンコースを巡り、新幹線の改札を抜けた。

 あんなに嫌がっていた白いノースリーブとロングスカートも、人混みの中では私の存在を希薄にしてくれる気がして、少しだけ慣れてきた頃だった。

 

 ホームにはまだ熱気が重く淀んでいた。

 夏休みのせいか、夜21時を過ぎているというのに、帰路を急ぐ人々で溢れかえっている。


『まもなく12番線に、のぞみ東京行きがまいります。黄色い点字ブロックの内側までお下がりください』

 

 無機質なアナウンスが、終わりの時を告げる。

 その瞬間、ホームで待っている間ずっと私の手首をきつく握りしめていた月宮さんの指が、名残惜しそうに、ゆっくりと解かれた。

 

 体温が離れる。

 たったそれだけのことで、私の腕は鉛のように重く感じられた。

 

 月宮さんはキャリーケースのハンドルを握り直し、私に背を向けて三歩進む。

 そして、一度だけ振り返った。

 

「じゃあ……夏休み終わりにまた会おうね」

「はい。月宮さんもお仕事頑張ってください! 東京から応援してますから!!」

「……ん」

 

 彼女の返事に覇気はない。

 視線は私の目ではなく、私の首元あたりを彷徨っている。

 

 ……分かっている。

 月宮さんはおそらくまだ何かを求めている。

 彼女自身も理解していない、何か。


 だけど私はこれ以上何かしてあげることはできない。

 もうここでしばらくのお別れになるのだ。

 私にできる事など何もない。


 ここで綺麗にお別れをして私は私の日常へ、彼女は彼女の輝かしいステージへと戻る。

 それが普通なのだ。


 でもここで終わってしまえば――今の温度感のまま背を向けてしまえば、私たちの未来は二度と修復できない方向へ折れ曲がってしまう。

 言語化できないちっぽけな勘が、私の背中を突き動かした。

 

 思考が正解を導き出すより早く、身体が動いていた。


 「あ…………」


 私は彼女との距離をゼロにし、その華奢な背中にしがみつくように抱きしめた。

 薄い白の生地越しに、月宮さんの体温と、微かに震える鼓動が伝わってくる。

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