青龍、林間学校。⑤
「ん〜都会の味がする〜っ」
「はぁ?!お前、地元男子とやりあったのかよ、あれほど気をつけろと」
私がいちごあめを頬張っていると、横から朱雀に話を聞いたシオンが心配しだして慌てている。
「大丈夫よ、私を何だと思ってるのよ。あれ、私の心配してくれたの〜?」
「いや、それもだけど一番はその男子高校生に対する哀れみだな」
本当に哀れだと思うような顔をするシオンのすねを私は強かに蹴りつけた。
「もう良いわよ。ほら、ホテルに行きましょうよ」
私はシオンに呆れて、少し離れたところでいる芹澤先生のところに歩き出す。
皆んなも着いてくるかはわかんないけれど、どうせなら先生をいじろうかな、と思った。
「心配した、当たり前だろセイ」
けど、少し歩くと、シオンは後ろから私の手を握って本当に心配したかのように呟いた。
本当に小さな声で。
「わかってるわよ、シオンを一番わかってるのは私だもの」
私の手を握っている私よりも一回り大きい手を握り返して、私は歩いた。
「起きろ、青龍!」
「んー、おはよ…」
私たちは昨日は東京観光を大いに楽しみ、先生が予約しておいてくれたホテルの部屋で一泊して、今私たちは潜入場所に向かう車の中で揺れていた。
今回の任務内容は、こうだ。
『東京〇〇区地下シェルターで行われる人身売買オークションの主催者5名の暗殺を任じる。
・オークションに客として参加している者の生死は問わない。
・オークションに客として参加している者で生存者が出た場合は警察へ速やかに引き渡すこと。
・オークションに出品された者たちのなかで生きている者の救助を任じる。
・学生6名、付き添いの教師1名、そしてプロ暗殺者1名が任務へ向かうが、命の危険でない限り、付き添いの教師とプロ暗殺者は前線に出てはならない。』
殺すのは5名。客も手っ取り早く殺したほうが良いと思うけれど、できる限り拘束しておいたほうが良いかもしれない。
私たちは何故か地下にあるらしいお店に行くことになっていた。
「すみません、遅れましたか」
私たちが地下に下る階段の前で待っていると、後ろから久しぶりに聞いた懐かしい声がした。
「マスター?!」
「久しぶりだね、青龍。元気にしてたかい」
振り向くと、元NO.1兼私たちの里親である、マスターがいつものように微笑んで立っていた。
「ご足労いただきありがとうございます」
「いやいや、引き受けたのは僕だ。子どもたちの成長も見たかったからね」
芹澤先生がマスターの前へ出て、挨拶をする。
大人が話し終わったのを見て、私は芹澤先生に話しかけた。
「ねぇセンセー」
「どうした、青龍」
「ずっと思ってたんだけれど何でここなの?私たち今から潜入するのよね」
私が聞いたことで皆んなもこちらを向く。うん、わからなかったのは私だけじゃないみたい。
「中に入ってから、潜入内容にも絡めて話す」
芹澤先生は少し濁して、階段を下っていった。
私たちも芹澤先生について階段を下ると、地下にあったのは、結婚式に参列するときなどの服を一式揃えられるようなブティックだった。
芹澤先生は何の抵抗もなく、その扉を開けて、中に入った。
私たちも全員芹澤先生と一緒にお店に入る。
綺麗なワンピースやスーツが並べ置かれている明るい店内で、私たちは場違いな感じがしてキョロキョロしてしまう。
芹澤先生はカウンターに店員がいないことを不思議に思ったのかカウンターに歩いていき、口を開いた。
「いんのか、加南!」
「せり、早くない?」
芹澤先生が叫ぶと、奥の方から黒髪のきれいな女性が出てきた。
「わ、この子たちがせりの生徒ちゃんたち〜?可愛い〜」
「加南…?」
「ごめんってぇ、せりの同期で元パートナーの加南菊でーす」
見た目のおしとやかさに合わず、明るくハイテンションな彼女は私たちの方に来て、女子3人の腕を掴んだ。
「ねえ、せり。私から説明するから早くセットアップしちゃって良い?」
「おー、行って来い」
やったー、と私たちの手を引いて奥へ行こうとする加南さん。
元殺し屋らしく、腕の力が強いので抵抗できない…。
「今回は地下シェルターのオークション、言わば悪人どものパーティーという認識なの。だから、せりは朱雀ちゃんとヤタちゃんは客側で、
青龍ちゃんは売り物側で潜入させようとしているわ」
加南さんは朱雀とヤタちゃんに似合うワンピースを選びながら口を開いた。
「それで、ブティックですか」
「うん、あとここはブティックってだけじゃないのよ。ここ近辺の任務に向かう殺し屋の宿泊施設の手配や、任務のための情報を提供したりもしている、言わば殺し屋の事務ってところかな」
加南さんは2人にワンピースの入った袋を手渡し、着替えてくるように言った後、私のものも選び出した。
「え、何か嗜好がさっきと違いますよね」
「だって、青龍ちゃんは売り物側だもん。どんな感じにしようかな」
いや、この人めっちゃ楽しんでる?!るんるんと擬音がつくほどのご機嫌な様子で私のドレスを選んでいた。
「青龍ちゃん」
「は、はいっ」
加南さんは雰囲気を変えて、私に背を向けたまま、私に語りかけた。
「不安、だよね。敵の手の内に入るって」
「…そう、ですね。不安です。けど、きっと皆んなが私の居ないところで頑張ってくれるって信じてるので、そこまで疑ってないです」
私は加南さんの方を見て、話すと、加南さんはスッと背筋を伸ばして、私の方を向いて微笑んだ。
「これとかどうかな、青龍ちゃんに似合うと思うよ」
朱雀はマーメイドラインでえんじ色の大人っぽいワンピースを、
ヤタちゃんは、膝丈で薄桃色のフェミニンなワンピースを纏っていた。
「わ、朱雀とヤタちゃん、可愛いね」
「ヤタさん、すごく可愛らしいですよね。お化粧もしてもらったんですよ。私たち、女っ気なさすぎて化粧とかしたことなかったもので」
「いやいや、朱雀さんも可愛いですっ」
2人がお互いを褒め合っているのをにこやかに見守っていると、2人と加南さんは一斉に私の方を向いた。
「青龍は白いロングワンピースですか。青龍、あまりワンピースを着ないので新鮮ですね、可愛いです」
「うん、青龍ちゃんの青髪が良く映えて綺麗だね」
「…いやぁ、ここまで化けるとは」
3人が必要以上に褒めてくれて、私は何だか照れてしまった。
「じゃあ、男子どもも準備が終わってると思うから、行くわよ」
加南さんに連れられて、奥から出ると、そこには色違いのスーツを身にまとった男子たちがいた。
玄武は黒色のシャツにえんじ色ネクタイを巻いていて、上着は手に持っている。
白虎は紺色のスーツで、薄暗い青色のシャツに白色のネクタイをしている。
シオンは、白色のスーツで、黒色のシャツに薄紫色のネクタイをしていた。
玄武は、いつもより大人っぽい朱雀に見惚れて、少し目を見開き固まっていた。
きっとアイラインをしっかりと引いて、大人っぽい口紅もさしたからかな。
シオンはどうかな、とドキドキしながら見ると、顔を見る前に薄紫色のネクタイが曲がっていることに気がついた。
私はシオンの方に向かい、ネクタイを直すためにネクタイに触れた。
「ネクタイ、曲がってるわよ。制服で使ったこともないから仕方ないけれど」
「ありがとう、セイ」
私たちを見て、芹澤先生とマスターが優しい大人の目をしていた。
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