9 それでも、生きる。
体調が少しは落ち着いてきたので、再び旅に出る事にした。周りからはΓ懲りない奴」と思われるかも知れないが、病院に縛られたまま息絶えるのだけは御免だ。それで寿命が短くなる方が、よっぽど受け入れられる。
ただし、旅先で倒れると家族に多大な迷惑をかけてしまうので、そこは重々気をつけないといけない。
まぁ、その辺はパセリが上手くやってくれるだろう。
そのパセリはというと……
Γもごもご、コレ美味しいね。なんていうの?」
Γいきなりだんご。熊本名物で、あんことさつまいもを、小麦粉の皮で包んで蒸した郷土菓子だな」
隣の席に座ってパクついていた。
Γどーしてもあれが食べたい!」と言って聞かないので買い与えることにしたのだが……「人前で食べ物がどんどん消えてくのは不自然だから」という理由で、実体化してしまった。今、目の前にいるのは小学校を抜けたあたりの少女だ。
……髪が緑色の。
アニメならその髪色でも目立たないのだろうが、現実はそうもいかない。どう見ても周りから異質なものを見る目が向けられているが……仕方ない。
行ってみたかったのは、阿蘇神社。豊肥線を通る九州横断特急に乗って、大分に向かっているところだ。
途中立野駅からスイッチバック方式で山を駆け登り、外輪山を越えていく。このような山間部を通る鉄道や高速道路に乗っていると、なんでこんなところに道を通そうと思ったのか、不思議に思えてくるのと同時に、先人の苦労が偲ばれる。
右手に新阿蘇大橋が見えてきた。その先に、熊本地震で崩落した旧阿蘇大橋が見えている。峡谷に垂れ下がっている大きな橋の一部が、いまだに被害の大きさを物語っている。ここで亡くなった学生がいたことを思い出し、そっと手を合す。
電車が進むにつれ、阿蘇山の内輪山がなだらかな稜線を見せる。そして内側から見た外輪山は、至る所で地滑りの跡が見られ、地震の爪痕を残している。
ここは大昔の噴火口で、人が安定した生活を営んでいる例は世界でも珍しいらしい。
目の前に広がる広大な田畑。いったいいつから住み着くようになったのかはわからないが、現在のような交通機関もなかったころから、その営みをずっと継承してきたのだと思うと、人間はなんと逞しいのかと思う。
宮野駅で電車を降り、阿蘇神社まで歩く。
もう人の住んでいない古い家も多く、地震後に取り壊されたのだろう空地もある。阿蘇神社も楼門も社殿もつぶれてしまったが、見事に復旧を遂げていた。
「噴火や地震が、いままでどれくらいあったんだろね?」
一緒に歩いていたパセリが、ぽつりと呟いた。
はるか昔から、何度もあっただろう。それでも、人は生きている。継承している。何度打ちのめされても、めげずに。
ふと、自分を振り返る。
自分は、簡単に自分の「生」を、自分の勝手だと言って簡単に投げ出そうとしていないか?という考えが頭をよぎる。「苦しむくらいなら、他の人に迷惑をかけるくらいなら、潔く抵抗せず死を受け入れよう」「どうせ未練もないし」という考えは、果たして本当に自分の本心なのか?
「ねぇ、『あか牛どん』だって!私食べたい!」
「……また食べるのか?街でも食べれるだろう?」
「地元のものをそこで食べるのがいいんじゃん!ほら行くよー!」
「……ちがいない。ハイハイ、わかったわかった」
私は先ほど浮かんだ考えを一旦押し込めて、幟の立った店へ駆けていくパセリの後を追った。




