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11 つながりの、意味。

 




 肥薩線──熊本県八代駅から鹿児島県隼人駅までをつなぐこの路線は、今豪雨災害の為に全線運休している。


 全線開業当初の明治42年、日本は日露戦争後で韓国併合を翌年に控えていたような緊迫した国際情勢を抱えていた。その為、海外から攻め込まれた時を考慮して内陸地(というかループ橋とスイッチバックを使わないと登れないくらい山奥を通る)に敷設されたこちらが「鹿児島本線」として開通された。


 その路線も、今や復旧が見込めず、廃線の色が濃い。私が国見駅からレンタカーで向かった先は、明治36年から築100年を超えて現存している嘉例川駅かれいがわえきだ。




 緑が濃く茂る霧島連山の山中を進むと、曲がりくねった道の途中にささやかな表示板が立っている。そこを曲がると決して小さくはない木造の駅舎が立っていた。



 100年の時を経たこの駅舎は、一体何人の人生を見送ってきたのだろうか。


 黒い板壁の、今は無人の駅舎は何も語らない。だが、この駅の100周年記念事業(JR九州は当時何もせず、元駅員有志で行なったらしいが)では1300人もの人間が集まったとのこと。きっとそれよりもはるかに多くの人間がこの駅舎を通り、様々な歴史を刻んできたに違いない。



「あんた、栗食べていかんね?」


 辺りを散歩していると、不意にガレージに座っているお婆さんから声をかけられた。


「私、ですか?」


「今むいちゃる。ほら、そっちの嬢ちゃんにも」


「わ。ありがとう!」


 栗を貰ったパセリは喜んでそれを頬張る。


「あま~い!おばあちゃん、おいしいよ!」


「そうじゃろお?」


「すみません、ありがとうございます」


「いいて。ほれ、あんたも」


「いただきます」


 手渡された栗を口に入れる。確かに甘い。茹でてあるためか、少ししっとりしているのが、また食べやすかった。


「美味しかったです。ありがとうございました」


「なんの。ここらも駅に電車が止まらなくなって、ただでさえ人が少ないのに、余計さみしいんだわ。観光客はバスで時々来るくらいでなあ。ほれ、皮付きの、何個か持っていき」


 そう言ってお婆さんは、ほんの少しさみしそうに笑い、節くれだった指でまた一つ一つ、栗を剥き始めた。





 霧島温泉のホテルについて、荷物を整理していてポケットに突っ込んでいた栗を思い出してテーブルの上に転がした。


 どさりと椅子に座って、それをもう一度手に取って先程のお婆さんを思い出す。


 あれは、損得勘定や見返りなど何もなかった。ただただ、ごく自然に出てきた言葉と振る舞いだろう。知人であるとか、隣人であるとか、そういったものではない。自分がいて、目の前に私がいて。ただ、それだけだった。


 それに比べて、私が長年いた場所は、常に評価がつきまとうところだった。そして評価の高低によって、人付き合いの幅が変わり、その多少がまた評価の元となる世界。自分が「こうありたい」と思う前に、自分のポジションを確立させるために、常に評価に振り回される、そんな世界だった。


 そんな世界に、生き方に飽き飽きして、投げ出そうとしていた自分に差し出された、あの手。 


「……そんな生き方を望むなら、自分で動けばよかったのに」


 パセリがぽつりと漏らした言葉が刺さる。


「……俺だって……いや、言い訳だな。俺は、臆病だった。仕方ないと言って、周りのせいにして逃げていたんだな」 


 窓の外では、雨に打たれた新緑の若葉が揺れている。遠くに霞がかった桜島を眺めながら、私は手に持った栗を剥き、口に放り込んだ。








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