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ウィザー・ブラックウォーターは加わる④

続きです。相変わらず続きます。

おかしい、プロットではもっとシュッと終わるはずだったのに。

まとまりがないかもしれないです。

時を遡ること数刻・・・。

荷馬車が急発進した後の散発的な魔法や弓矢による攻撃は、効果的にジュードの足を止めることに成功していた。彼が荷馬車を追いかけ、走り出したところをウィザーは街道の真ん中に陣取り、彼と対峙した。


◇◇◇◇


彼の駆る馬は速度を緩めることなく、こちらに突進をしてくる。


迷いがない、ウィザーは、敵を蹂躙し打ち滅ぼす騎士の圧力を全身に浴びながら、久方振りに精神が高揚していくのを感じていた。うちの子たちでも、迷いなく突き進むことが出来る。しかし、人を目の前にしては、迷いや逡巡が生じ、さらに突然、目の前に現れた時には、何事かと制動をしてしまうことであろう。

しかし、彼にそんな迷いは一切無かった。すでに攻撃は仕掛けられ、姿を見せた者は当然、敵対者だと彼は正確に認識をしている。まだ彼は貴族というより騎士にまだ近い存在のように思えた。


彼の目は、獲物を捉えた猛禽類のように鋭く、馬上での取り回しの良い長さの長剣は、煌めくと、一瞬のところで突進を回避した私の首を正確に流れるように払い上げようとしていた。


とても精錬されている、騎馬の早さ、重さは一切死んでいない。正確に、無慈悲に。身体強化のために練られた魔力も、これまで見たこともないほどに、彼の体躯を余すことなく高密度で覆いつくしていた。並の騎士であれば、例え、魔法適正を持つ魔導騎士であっても、彼の一撃を躱すことは困難だろう。


しかし、ウィザーも、小国故に数々の侵攻を受けた故国を守護してきた騎士だ。

故国を追われ、流れ流れて、騎士としての実戦からはずいぶんと離れてしまったが、それでもたった一撃で屠られてしまう程、衰えたつもりもなかった。


ウィザーは、身体をすっぽりと覆う外套を脱ぎ捨てると、露わとなった幅広の長剣を体の捻りを加えながら振り回すように高く掲げた。彼の長剣へ迎え撃つように、一気に振り下ろす。

剣と剣が打ち合わさり、互いに魔法により身体強化と武器強化が施されている以上のその明暗を分けるのが、得物のそのものの性質だ。

彼の長剣は、馬上で使うのに適した長剣で、切れ味を増すために細身の拵えとなっている一方で、ウィザーの振るう長剣は幅広で、切れ味よりも頑強さを増すような拵えをしており、馬上の敵と打ち合うのには相性が良すぎた。ウィザーが外套で得物を隠したのは、このためでもあった。


このまま、剣を折らせてもらう、打ち合いの瞬間に力を籠める。一瞬を凌げば、あとは相手の勢いで勝手に剣が折れるか、折れずとも馬上から叩き落とせるはずだった。しかし、押し込んだ剣は妙な感触を覚え、ウィザーは、ハッとして両手で握っていった剣の柄から右手を離し、右側面からの衝撃に備える。みしり、と手甲が軋む音がすると、まるで軽業師のように馬上からヒラリと降りながらの見事な膝の一撃、そこから弐撃、参撃と続けざまに剣、徒手による攻撃の応酬が、雨のあられのように互いに降り注いでいった。


身軽な身のこなしをする上に、一撃がこうも重いとは、ウィザーは突きを繰り出しながら、一瞬の隙を突き、距離を取る。

間近で見る彼は、うちのフィオナと同じくらいのどこにでも居る青年のように思えた。しかし、その内に秘めた魔力量やこちらに注意を払いつつも周囲の警戒を怠らない様、抜剣した状態からすぐ斬りかかれるだけの余地を残しているところを見ると、若さ以上に多くの実戦経験を得た手練れの騎士の佇まいを見せていた。


一拍を置いて、再び切り合いが始まる、かというところで、彼は、訝しむように、何かを思い出すような仕草をしながら目を凝らすようにこちらを眺めると、目を見開き、恐る恐るといった様子で口を開く。

「貴殿は、メキア皇国の“聖騎士”ウィザー・ブラックウォーター殿ではないか」


その名で呼ばれるのは、懐かしいことだった。聖騎士というのは、古い渾名だ。その昔、皇国で地方の小さな山村を収奪者から救った際に村の子どもがおとぎ話に出てくる、聖なる騎士のようだと褒めたたえてくれたのを、同僚が面白がって吹聴したのが始まりだった。その後は、騎士として立身する度に持て囃され、その内に定着したというものだ。


「いかにも、私の名はウィザー・ブラックウォーターだ。貴公は、ジュード・ミュゼレム卿でお間違いないか」

本来なら騎士同士の戦いでは、名乗りを上げてから切り合うものだが、こうして切り合った後に名乗り合うのは、なんとも不思議な感じだ。彼は、なぜか慌てた様子で、年長者への敬意を示す、騎士の礼を取りながら、「この度、シャルロッテ様よりクラレント領を拝領し、ジュード・ミュゼレム・クラレントとなりました。男爵の位を賜っております」といって、深々と丁寧に自己紹介をしてくれた。

今の彼からは先ほどまでのピリピリとした背筋が凍るような殺気が一瞬にして失われ、と同一の人物と思えないほど脱力した気配を流していた。


「クラレント卿、私はそのような礼を取られるような者ではありません」

それは自分には過分な礼の取り方だ。そういっても彼は首を横に振った。

「いえ、あなた、いやウィザー様は、あのスチュアート殿下が一目を置く騎士のお一人、自分にも他人にも厳しいあの方が手放しで人を褒めていたのは、あなた様だけです」

そういうと、彼は、かつて参加したメギア皇国との合同演習の際に、かの第三王子が私を高く評価していてくれたことや、彼の方から私のような騎士になるように常々言含められていたことなど、なんともこそばゆい話を聞かされた後に、「そうか、そういうことか」と何か得心がいったように、クラレント卿は、うんうんと、仕切りにうなづいていた。


先ほどまでは、歴戦の騎士としての姿だったが、今の彼は年相応の若い騎士らしい溌剌さが前面に出ていた。お互い抜剣をし、しのぎを削った、というと言い過ぎかもしれないが、剣を向き合わせていたはずが、妙なことになってしまった。


「クラレント卿、申し訳ない。あなたは私のことを覚えていてくれたのに・・・」というと彼は「いえいえいえ!そんな、そんな!」と畏まる。


「私は従者見習いでしたから、当然のことですよ」と顔の前で手をぶんぶんと振る様は、うちの子どもたちとあまり変わらないような気がした。

お互いがお互いを固辞し合いながら、ふと先ほどまでの切り合いを思い出す。正直、あのまま続けていたら耐えられたか、どうか自信が無かった。

あの一瞬の攻防も、私は精一杯だが、クラレント卿は、()()()()()()のようなものが感じられた。勝敗はすでに決していたと、考えてもおかしくはなかった。


ウィザーの本来の目的を達成するには、彼の足止めや場合によっては命を奪うことも選択肢の一つであったが、それが叶わないとなれば、自ずと選べる手段は刻一刻と少なくなってきていた。

それに、彼ほどの力を持つ騎士ならば、いや彼だからこそ、あの事を託すことができるかもしれない。


ウィザーは、ひとつ決心をついて、膝を付き、頭を垂れた。

「クラレント卿、このような狼藉を働いた上で物を頼めるわけがないことは、十分承知をしているが・・・・」

クラレント卿は、「やめてください」「私は、そんな頭を下げてもらうような身分では」と固辞をしていたところで。


「先生から離れろ!ジュード・ミュゼレム!!」

フィオナが決死の形相で、この場に飛び込んできた。

まだまだちっとだけ続くんじゃ。

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