↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/22

フィオナ・ブラックウォーターは暴走する

もうちょっと切のよいところまで行きたかったですが、詰まったので、投稿です。


身体強化を足に集中させながら、フィオナは風のように山を駆け降りていた。

迫り出した崖から跳躍すると、横に張り出した太い枝を選んで飛び移っていく。

怒られるかな、フィオナは固い枝を弓のようにしならせがら、初めて先生の指示に従わなかったことを少しだけ後悔をしていた。


本当は、彼女のグループ、弓や魔法により遠距離からの攻撃を担うグループは、最初の一撃を加えた後は馬車を追い、そこから積荷を奪って逃げる手伝いをするはずだったが、その指示を破り、一人で行動をしてしまっていた。


フィオナは、最初の一撃を加えた時に拭い去れない不安を感じていた。矢を番え、弓を引き絞り、狙いを付ける、いつもと変わらない体に染み込んだ動作だ。だが、そこで、目が合った。

普通、目の見える範囲ではなく、フィオナのように遠見の魔法を使っているわけでもないのに、あのジュード・ミュゼレムは、()()()()()()()()()


気のせいかもしれない、勘違いかもしれない。だが嫌な予感は、時間が経つほどにじわじわと心を蝕ばみ、もし、本当に見ていたら、気づかれていたら、こちらの作戦がバレていたら、先生の身に何かあったら、と不安な気持ちの高まりとともに、グループの子に先導を引き継ぐと、自然と森を駆け抜けていた。


無事な姿を確認できれば、そこで終わるはずだった。先生が、あの貴族を手玉に取って、制していることがわかれば、それだけで良かった。

しかし、そんな思いとは裏腹に、悪い予感は的中する。

フィオナが駆けつけた時、先生は膝を付き、そこにジュード・ミュゼレムが止めを刺そうと斬りかかる瞬間だった。


ふと脳裏に、両親が目の前で無残に殺された幼いころの記憶が蘇る。

ズン、と心の奥底から暗い澱のようなモノが染み出してくる。


あの時は、ただ震えて見ていることしか出来なかった。

でも、今は違う。先生が膝を付くような相手では、到底勝ち目は無いだろうが、それでも!

それでも、先生が逃げる一瞬の隙だけでも作ることが出来れば! !


迷いも逡巡も無かった。

流れるように、身体に染み付いた一連の動作が、自分の体を動かしていく。


矢を番え、弓を引き、狙いを定める、そして・・・。


「先生から離れろ!ジュード・ミュゼレム!!」


矢を放つ・・・。

至近距離で放たれた矢は、まっすぐにミュゼレムに向かい、そして、『()()』の胸に刺さった。


◇◇◇◇


油断をしていたつもりはなかった。

いや、今回の相手の正体が、あのウィザー殿であることがわかって、安堵してしまっていたし、接近してくる人間も、彼の仲間であろうことは、理解していたので、油断をしていたのかもしれない。


「先生から離れろ!ジュード・ミュゼレム!!」


そういって舞い降りた彼女は、飛来しながら見事な手際で矢を放った。

激した感情を溢れさせつつも、流麗なその手さばきは、彼女が弓兵として並々ならぬ鍛錬を積んできた証でもあった。

油断もあり、構えを解いた状態から瞬時に放たれた矢を迎撃することは難しく、回避するにも距離が短すぎた。

これは自分の体の内側に常に張っている魔法障壁でなんとか耐えるしかなさそうだ、と障壁の強度を上げたところで、体をドンと押しのけられる。

先ほどまで膝を付いていたウィザー殿が自分を庇うように押しのけたのだ。


「いかん!フィオナ!・・・・グッ!? 」


フィオナ、そう呼ばれた彼女の放った矢は、ウィザーの胸部に()()()()()()()()()()()()()して彼の体に吸い込まれていった。

ウィザーは、その場に倒れ込む。

「ウィザー殿!!」

慌てて、ウィザーの上体を起こす。息はあるようだが、当たりどころはかなり悪いように思えた。彼は、ひゅーひゅーと荒い息づかいの後に、ゴボッと激しく吐血する。


「じゅ、ジュ・・・ドどの」

「ダメです!喋ってはいけない!」


ウィザーは、震える指で、放心して、へたりと座り込んでいるフィオナを指指す。

「が、ゴボッ・・・ふぃ、フィオナを、がのじょだちを、だのみまず」

彼女たちを頼む、そう言うと、彼の腕は力なく地面に落ちていった。


「う・・・そ・・・」


フィオナは、手にした弓矢をカシャリと落とす。

わなわなと震える手で、驚愕に見開かれた両目から飛び込んでくる現実を遮るように覆う。よく見ると、彼女の顔や手、首筋に走った痛々しい傷跡からゆらゆらと陽炎が滲み始めていた。

「あああ・・・・あああぁぁぁぁーーー!!」

絶叫。そして、同時に大気を震わせるほどの激しい魔力の奔流が生まれ、フィオナを中心に、枯れた枝葉、青々とした樹々まで、あらゆるものが突然と発火し始め、全てを飲み込むような巨大な火柱が立ち上がった。


「これは、魔力暴走!?そうか、彼女は!」


魔力暴走は、魔法適性者の中でより高い適性を持つ、いわゆる魔法使いと呼ばれる者が陥る現象のことだ。元々魔法は体の内側からの放出と空気中の魔素を吸収し、それらを制御することでより強力な魔法となっていく。

それが放出と吸収のバランスが崩れると、際限なく魔素を吸収し続け、制御不能、すなわち暴走状態となってしまう。


しかし、ジュードたちには別の意味合いがあった。曰く、それは『()()』なのだそうだ。()()()()()()()()()()()から大きく外れそうになる、そんな時に、強引に元の道筋に戻ろうと作用する力、それがジュードたちの言う魔力暴走だった。


「くっ・・・・!!」

魔力の奔流は、容赦なくジュードや彼が抱えた死に体のウィザーを襲い、その中心にいる彼女自身さえもジリジリと燃やし始めていた。


なんとかするしかない、しかし、ウィザーを放って行くこともできない。おそらく、彼の死が、戻るべき道筋なのだろう。

であるなら、彼女の魔力暴走もウィザーの死を確定するために起きたと見て、間違いないだろう。


「ジュード!!」

奔流の影響の少ない遠くから声が聞こえる、フランだ。メイド服の裾は汚れ、所々枝葉が付いている。

ジュードはウィザーを抱えると、フランの元へと一気に跳躍をする。

フランは、魔力暴走を起こすフィオナと矢を受け、瀕死のウィザーの姿を確認すると、憎々しげに「公式め」と呟いた。

時たま彼女が呟く、こうしき、というのが何を指すのかは、ジュードは未だに理解出来ていなかった。


「トリシア様!彼女は、フィオナ!この方はウィザー殿です!!」


魔法の奔流中心から離れてもの、火炎流は呼吸すらも困難にさせ、荒れ狂う暴風雨のように熱い風の中では、声を出すのも精一杯だ。


「わかっている!! ()()()()()()()()()()()

そういうと、彼女は懐から水晶細工を出し、それが光り砕けると同時に淡い燐光が彼女を覆っていく。

「ジュード!矢を抜いて!治療の邪魔になる」

ジュードは、言われたとおりにウィザーの胸に刺さった矢を強引に抜き取る、こんなことをすれば、裂傷は酷くなり、矢が栓の代わりとなって抑えていた血液も大量に零れ落ちることになる。しかし、フランがウィザーの傷口に手を翳すと、体を覆う燐光が、ウィザーをも包むと、血は止まり、血の気が引いた顔にも生気が蘇る。

ほっと息を撫で下ろすも、事態はまだまだ緊迫している。

「ジュード・ミュゼレム・クラレント!! 何を呆けているの!! あなたが成すべきを成しなさい!」

そう発破を掛けられ、気持ちに喝を入れる。


「彼女たちを助けるのよ、絶対に!」


ジュードとフランは、彼女がトリシア・ミゼラル侯爵令嬢であった頃からの付き合いだ。

生まれてまもない、ジュードに名を与え、実の弟のように愛し、全てを与えてくれた彼女は、どのような立場、状況であっても、仕えるべき主人だ。ジュードは、彼女の言うバットエンド、避けるべき未来を回避するために与えられた力を振るうことに迷いは一切なかった。


「は!御心のままに!!」


ジュードは改めて、巨大な火の柱とその中心で真っ黒となったフィオナに向かい合う。彼女を救う、その主命を果たすために。


◇◇◇◇


この世は、地獄だ。


家族を殺され、連れ去られてから今まで心休まる日など一度も無かった。

体を切り刻まれる恐怖も、鞭で打たれる痛みも、だんだんと麻痺して、自分の心が死んでいくことだけが、わかった。


監視の隙を付いて、逃げ出した時も、どちらかと言えば、他の3人に引っ張られるようにして逃げただけだった。

逃げた後も地獄は続く、体の痛みが増えないだけマシだったかもしれないが、命を脅かすものが、冷たい雨や凍える寒さ、空腹に代わっただけだった。


私たちを守ろうとしてくれた人たちもいた、得体の知れない私たち話を信じ、匿ってくれた心優しい人たちも次々と命を奪われていった。そんな心優しい人たちを盾に、逃げ出していく私たちも、奴らと変わらない極悪人かもしれない。


そんなある日、ついに奴らに追い詰められた私たちを助けてくれたのが、先生だった。


人目の付かない裏路地、もう慣れきってしまったカビと腐ったゴミの匂い、手を付いた濡れた石畳。

どれも不快な思い出のはずなのに、炎のように揺らめく夕焼けを背に、幾度なく命を脅かしてきた絶対的強者をいとも簡単に追い払った

彼は、お伽話に出てくる王子様のよりも、酒場の裏で漏れ聞いた吟遊詩人が語る英雄譚の主人公のよりも、輝いて、フィオナの心を奪い去っていた。


先生は、私に数えきれないほどの明日(きぼう)をくれた。


でも、やっぱり世の中は地獄なのだ。

これだけ頑張っても、どれだけ頑張っても、ここから逃げることなど誰もできない。

先生を、仲間を、守るために修練を積んだ弓も、こうやって容易く私の大切なものを奪っていく。


全部、燃えてしまえ――――。

私の過去、今も、未来も、全部、全部、全部、全部。

モエテ、キエテ、ナクナッテ、シマエ。


私の視界は、あの日の夕焼けのように真っ赤に染まっていた。

この後は、ギャグのように振り切りたいですが、流れが唐突なので、ちょっと時間が掛かるかもしれません。1週間に1回、更新を目標に頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。