ジュードは悩む。
昏倒したレイナが目覚める約二週間前に遡る。
ジュードの部屋には、ミュラー、フラン、そしてジュードの三人が集まり、秘密の会合が開かれていた。
「消音魔法は?」
ミュラーが静かに尋ねると、フランは小さな魔法石を取り出し、二言、三言呟いた。
魔法の発動とともに、魔法石は粉々に砕ける。
フラン自身は魔力を持たないが、魔法を発明する才覚に恵まれていた。もしかすると、彼女の前世の知識によるものかもしれない。単純に炎や水、風、土を生み出すよりも、遥かに高度な魔法を扱うことができるのだ。彼女だけが使える「治癒魔法」も、その一つだった。
「さて、今後のことだ。レイナ嬢の容態は?」
ミュラーの問いかけに、ジュードは少しだけ身構える。
彼は、レイナの輿入れが「誰かからの攻撃」であると考えていた。
確かに、遥かに上位の貴族である「辺境伯令嬢」が嫁いだ先の「男爵家」で何かが起これば、それは大問題となる。
しかし、それが「誰の仕業」なのか、凡人の自分には皆目見当もつかなかった。
「彼女の中では、四属性の魔力がせめぎ合っているわ。それが身体を傷つけ、修復を繰り返している。そのせいで、魔力を通す管がぐちゃぐちゃになってる。よくここまで生きてこられたわねって感じよ」
「……もって、あと一週間」
フランがそう言うなら、おそらくその通りなのだろう。
言葉が途絶え、静寂が訪れる。
ふと顔を上げると、ミュラーとフランが揃ってこちらを見つめていた。
「で、どうするのだ、ご当主」
「そうよ。自分の奥さんになる人のことなんだから、しっかり考えなさい」
てっきり二人が決めてくれるものと思っていたジュードは、不意を突かれる。
改めて、これまでのことに考えを巡らせると、レイナとの結婚はすでに決まっている。
辺境伯家は末娘を男爵家に嫁がせるつもりで送り出しており、こちら側に断る理由はない。
ならば、今のレイナを治癒するべきなのか。
そこが問題だった。
彼女の状態を改善させるには、相応の魔力が必要になる。
それこそ、暴走したフィオナの魔力を吸い出した「大魔法石」を使う必要があるかもしれない。
だが、仮に治癒をしたとしても、彼女が完全な健康体まで回復するとは限らない。
それに、別の理由で命を落とせば、どちらにせよ男爵家が被る損害は計り知れない。
――であるならば、彼女にそこまでする価値はあるのだろうか?
そう考えた瞬間――
「ぶぶ~。私は、ジュード君をそんな子に育てた覚えはありませーん」
フランが唐突に言い放つと、ジュードの眉間をバシンと弾いた。
「お前には、少し先のことを気にさせすぎたかもしれんな」
ミュラーは呆れたように首を横に振る。
「誰かの謀略であろうと、覚悟を持ってお前に嫁いだ女だ」
「お前以外に誰が守ってやれるのだ、ということだ」
ジュードは二人にそう言われ、どこか腑に落ちない気持ちをほんの少しだけ抱いた。




