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Blood Spare of Secret : The story of Creeds  作者: 千導翼
第六章 ユーフォリア前編~暗殺教育学校~

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進級試験Ⅲ

 冷たい風と星空に照らされた静寂の空間で2つの影が衝突する。


 「!」


 「...。」


 多角的な攻撃も決めたはずの不意打ちも防いでくるバンバにクリードは動揺することなく、同じように気配を消してバンバの前から姿を消す。


 「クリード。お前のその、存在を全く感じられなくなる技術は素直に感嘆するよ。その技術さえあれば、血鎖狩人ブラッティソル異能力者スペアネルも容易くほふれるだろう。カメラの映像も赤外線によるセンサーも、感知系の魔法も全てがその技術を使用しているお前の事を無視する。何度か実務を共にしたが、未だにその正体がわからないから参考にしようもないが...よく観察しているうちに...お前自身の致命的な欠点に気付いたよ。」


 クリードが襲い掛かると、またもバンバはそれを防いだ。


 「欠点...。」


 「お前には...感情がない。」


 「感情がないのが欠点? 感情があれば暗殺の任務に支障をきたす。依頼された任務に邪魔な心はいらない。」


 暗殺に感情は必要ないと語るクリードの言葉に同意しながらもバンバは話を続ける。


 「それは確かにそうだ...。だがな、心があるからこそ、思考や戦闘の幅を広げられる。お前の場合は1人で戦闘や思考を全て最適化してるのだろうが...。だがそれ故に、お前は相手に手の内をある程度知られていると、行動を操作できてしまう。」


 「行動を操作?」


 「お前は1つの行動をした後、何百何千と言った幾通りのパターンを一瞬のうちに思考しているだろう。その中で最も成功率の高い確実なものを選択して、同時にリカバリーが効くように動いている。それに慣れてるのか...それしかできないのかはわからないが、明らかな隙と全く警戒をしていない状態を見せ続けると、お前は俺の予測通りに動いてくる。まぁそれでも予測が外れれば殺されてしまう。お前が殺しに来ていないことが、まだ俺が戦えている理由だ。それで言うと、これも欠点だな。全ての戦闘技法が殺しに特化しすぎていて、あるいは殺すことが当たり前すぎて...殺さない程度に力を抜くのが下手だ。」


 クリードとバンバはまた同じように一定の間合いを取って、同じようにクリードは姿を消す。


 「(だが、あくまでも対応策だ。攻撃してこない限り俺はクリードを感知できない。俺から仕掛けることはできない。俺の勝ち筋は1つ。攻撃を仕掛けてきたタイミングでクリードの持っているカードを取る事。だがもし奴がカードをどこかに隠していたら...ほぼ詰みだ。あいつの存在を感知できない俺は下手にこの空間から出ることはできない。それどころか、今立っているこの場所が俺の行動範囲内。奴の姿が見えている一瞬しか移動はできない。)」


 木々のざわめき、立っているのはバンバただ一人に見える。しかし、先ほどとは違いクリードがすぐに襲ってこない。バンバは静かに起爆性の投げナイフを取り出し、四方八方にでたらめに投げ始める。


 「?」


 周りで起こる爆発による地形変化と爆風によって舞う土煙を見てクリードは一瞬で数えきれないほどの手段を見つけ、バンバの言われたことと青葉に頼まれている殺すなという命令、それによってバンバの目を掻い潜りカードを抜き取って勝利しなければならないという条件が加わり、多くの手段が消え限られた手段の中で最適解を選択する。


 「...。」


 その瞬間、クリードは腰のあたりに違和感を感じた。


 「(景色に同化するほど細いワイヤーが繋がれている。)」


 それに気づいた瞬間、バンバはワイヤーを伝ってクリードの前に現れる。


 「...!!」


 それに対応しようとするクリードの動きを捉え、ワイヤーを互いの片手を固定するように絡みつける。


 「捕まえた。流石ここから動くのは難しいだろう。」


 「あの時、話している間にワイヤーを引っかけておいたのか。だが...なぜ気づかなかった...。」


 クリードの疑問にバンバは冷静に答える。


 「これは言ってなかったが、お前にもう一つ欠点がある。それは最適解を見つけ出す時に途中で情報が挟まれてしまうとリセットされてしまうという事だ。そこに俺の言葉による動きの修正と警戒、殺さないという女条件が加わればその分思考もする時間も増える。爆発する投げナイフを投げたのも、それによる地形変化も、土煙もお前の思考速度とワイヤーに気付く速度をコンマ一秒でも遅らせるための無駄な情報だ。作戦は成功した。俺の片手も塞がるが、お前も片手を防がれ、同時に機動力も落ちる。お互いにこの近距離で交戦するという悪条件はあるが、まぁ気配を消されて一向に決着がつかないよりかはマシだ。」


 「カードを抜き取られる危険性があるとは考えなかったのか。別にこの距離でもお前の視界から消えることはできる。」


 「カードを抜き取られる危険性も考えてある。カードは...元の位置に置いてきた。そうすると、消えたとして何をする? 俺を殺せない今のお前じゃその脅しに効果はない。」


 クリードの反論にもバンバは動揺することなく答える。


 「なるほど...少々甘く見ていたようだ。」


 クリードはそう言って、空いている片手でバンバを攻撃するが、バンバも応戦する。しかし、無駄が全くない動きで的確に攻撃を加えるクリードに対して、クリードと比べると僅かに無駄がある動きで攻撃を行うバンバには明確な差があった。そうして、攻防を続けていくとバンバが見せた一瞬の隙を突いてクリードは互いを繋いでいたワイヤーを切って、バンバを蹴り飛ばす。


 「うっ...!」


 そのまま気配を消して、元の場所に戻ってバンバが置いてきたカードを探し出す。


 「これか。...いや(材質が違う...。ブラフか...。) ...。」


 「!」


 気づいたときには遅く背後から迫っていたバンバに気付き、クリードとバンバは互いのカードを抜き取られる。


 「...。」


 「俺の勝ちだ。」


 バンバがそう言った瞬間、クリードもバンバから抜き取ったカードも材質が違う事に気付いた。


 「これもか...。では本物は...。」


 クリードはそう言いながら気づいた。


 「戦い始まった時にクローヴンを守ると同時にポーチの中にカードを入れたのか。」


 「そうだ。」


 「つまり、負けなくとも勝てる勝負じゃなかったというわけか。だが負けは負けだ。青葉に連絡した後私は帰る。」


 そう言ってクリードは姿を消した。バンバはクローヴンに連絡を入れる。


 「クリードのカードを抜き取った。ちなみに俺のカードはお前のポーチに入ってる。」


 「え!? クリード!? 大金星じゃん...。ん? お前のカード...? おいマジかよ! 何してんだよ! でも勝ってるからなんも言えねえ!!」


 「じゃあ今から合流する。その間に2枚とも失うなよ。任せろよ!」


 バンバが連絡を終えてクローヴンの方に合流を始める。


 同時に移動しながらクリードは青葉に連絡を入れていた。


 「敗けた。」


 「え? マジか...。誰にだ?」


 「バンバだ。クローヴンがそっちに向かっている。フェブルに漁夫の利を狙われる危険性もある。充分に注意しろ。」


 「わかっ...。もう切れてるし...。バンバが勝ったのかクリードに...。ってか俺は何やってんだ...。クリードの事を最初警戒してたのに...あっさり言うこと聞いて、目を離してるじゃねえか。」


 青葉はそう言いながら向かってきているクローヴンに警戒するように鎖鎌を構える。


 周りの空気感の変化に目を覚ましたフェブルが下を見ると、クローヴンと青葉が対峙している現場を見た。


 「マジかよ...。」


 急いで戦闘準備を整えて銃を組み合わせてスナイパーライフルを作り出す。


 「(足元を狙って動きを止めればカードを抜き取るだけだ!)」


 フェブルはそう考えながらスコープを覗く。そんなことを考えていることを知らない2人はそれぞれ武器を持ったまますぐに仕掛けずに話している。


 「どうやら残り少ないみたいだぜ。もうじゃんけんで決めねぇ?」


 「それが許されるんだったらな。後から説教確定な案だすんじゃねえ。」


 「いいじゃんかよ? 俺とお前の仲だろ?」


 「お~前なぁ...。」


 そんな会話をしてしばらく互いの間合いを見極めた。


 「...暗殺者なのに...こんな正々堂々と戦いを始めていいのか?」


 「逆にフェイクになって...ちょうどいいかもしれないぞ?」


 「そう言われりゃあ確かに...。」


 お互いが動きを止めた瞬間、静かだが素早く戦闘が始まる。青葉はクリードから受けたクローヴンの説明を思い出す。


 ―――クローヴン・ドーン。2本の短剣...双剣使いの血鎖狩人ブラッティソルのNo.2だ。普通の目では追えない圧倒的な速度と機動力、言ってしまえば小回りの利く小さな電車だ。地形を縦横無尽に疾走し、相手の肉も骨も流れるように両断する。動きの基本は防御主体で敵の動きを徐々に鈍くしていく逆手持ちと攻撃主体の力を込めやすい順手持ちで切り替える動きをしている。逆手持ちの動きを鈍くしていくというものは力を込め辛い逆手持ちで少しずつ切り傷を増やすことによる出血の痛みで思考能力を低下させ、その間に切り傷を増やしていき体の動きを徐々に奪っていくことで鈍くするというもの。順手持ちは力が込めやすいから基本的には確実に攻撃を当てられる時に切り替えている。順手持ちの攻撃は一撃で死に至る可能性がある。逆手持ちの攻撃は何度も受けると死に至るという違いなだけだ。


 情報通りに高速で動きまくるクローヴンだが、同じ血鎖狩人ブラッティソルの青葉はその動きを正確に捉えていた。攻撃を仕掛けてきたクローヴンに合わせてカウンターを決めるように分銅で殴打した。しかし受け身を取ってすぐに動き回る。


 「(下手に仕掛けらんねえな。カードが2枚あるってこと気づかれたらまずいし...そもそもランク的に力負けする可能性がある。身を潜めて不意打ちしようにも...あいつ俺の動きを目で追えてるからあの視線をまず切らねえと...。)」


 「(思ったより攻めてこねえ...。ランク的に一応は俺が上だと言ってももう少し攻めてきてもいいはずだ...。経験値はあっちが圧倒的に上だし...妙に警戒されてる感じだ...。俺から目を離さないようにしている気がする。だが、バンバが勝ったという連絡はあいつは聞いてるはず...2対1で俺を倒そうって算段か? それだとまずフェブルを潰した方が早い。だが、まだあいつがどこにいるかわからない。)」


 青葉とクローヴンの高速だが互いに仕掛けない戦闘にフェブルは引き金を引く。連続で放たれた3つの銃弾が跳弾してクローヴンと青葉に襲い掛かる。


 「「!?」」


 それを避けるために体勢を崩した2人は近くにフェブルがいることを悟る。ほぼ同時にフェブルは荷物を全て持って飛び降りながら、動きを止めた2人に拳銃の引き金を引いて跳弾で襲う。その銃弾の群れをクローヴンと青葉は弾くがそれによる跳弾が互いを撃ち抜く。


 「(マジかあいつ...! 近くにいたのか!)」


 「(弾くことを前提で撃ってたのか。にしては狙いが正確だったな。)」


 2人はそう思考しながら、クローヴンは跳弾の角度から大まかなフェブルの位置を予測して動き始める。青葉は目を瞑って耳を澄まして走る音を聞きとってフェブルの位置を特定した。


 「!?」


 フェブルは2人とも近くに接近していることを感じ取って、拳銃の引き金を引いて障害物と弾同士で跳弾させる。同時にその音を聞きとったバンバとクローヴンは別々の方向から襲い来る銃弾を感じ取って避けるが跳弾した銃弾は正確に2人を撃ち抜いた。しかし、クローヴンは即座に動いて逃げ回るフェブルに追いついて押さえつける。


 「やってくれたなマジで! 痛かったぞこの野郎!」


 「でも死ななかったろぉ...!?」


 その瞬間に事前に撃っていた跳弾の雨がクローヴンと押さえつけられているフェブルに降り注ぐ。クローヴンはすぐにその場から離れて避け、フェブルもギリギリで避けながら拳銃の引き金を引いて跳弾でクローヴンを撃ち抜く。しかし、その間に近づいてきていた青葉に捉えられて木々に思いっきりぶつけられる。


 「ぐぉっ...!」


 怯んだところでカードを抜き取ろうとすると、その隙を突いてクローヴンも抜き取ろうとする。それを見てフェブルは何とか撃って邪魔をし、怯んだところで青葉のカードを抜き取ろうとするがあっさりと反撃を受ける。その中で撃った弾がクローヴンのポーチを撃ち抜いてカードを地面に落とさせることに成功した。


 「あっ!」


 「カード2枚!」


 2枚のカードを見た瞬間にフェブルは青葉より早くを取ろうとするが、簡単に押さえつけられて、青葉が鎖鎌でカードを1枚取る。


 「取った!」


 「あっ!」


 「ああっ!!」


 フェブルよりも大きな声でやってしまったと顔に出ている青葉が取ったカードはクローヴンのカード。そして、クローヴンの持っているカードはバンバのカード。何とか動こうとするフェブルのポーチからカードを抜き取る。


 「ああ...勝負急いだぁ...くっそぉ~...。」


 「俺は負けたから...このカードも渡さないとかぁ...悪いバンバ...。」


 悔しがるフェブルと申し訳なさそうにするクローヴンを一瞥して青葉が勝利を宣言しようとした瞬間、クローヴンは空中に向かってカードを投げた。


 「おい!」


 青葉が止めようとしたが間に合わずそのカードはバンバが受け取った。


 「クローヴンとフェブルは負けだ。後は、お前と俺だ。」


 クローヴンが無言で頷きながら手を合わせて謝り、フェブルは映像を撮ってるカメラに向かって手を合わせる凍燐リンジエに向かってだろう。2人はその場から離れ、クローヴンがバンバに一言。


 「ごめんな! あと任せた!」


 ギリギリで現れたバンバに驚きながらも青葉は鎖鎌を構えながらクリードからバンバの情報を聞いている時を思い出す。


 ―――バンバ・キルラエル。複数の道具を携行し、双剣を使って敵の動きや戦闘技能をものにしながら戦うスタイルだ。毒攻撃や精神攻撃も可能ならしてくるだろう。罠を張ったりすることも正直搦め手だと俺より使い手かもしれない。だがフィジカルでは血鎖狩人ブラッティソルのNo.1である青葉に軍配が上がる。どのように戦ってくるかは一番法則性も規則性もない。戦闘の癖もな。一番読みづらいと言っても過言ではない。


 「(バンバともクリードとほぼ同回数実務で一緒だ。だからこそわかる。実務の回数をこなすごとに技術や戦い方の幅を大きく広げてる。この戦いの間にも...幅を広げてる可能性は高い。だが...クリードと戦っているなら携行している道具はある程度使い切ってるはずだ。)」


 「(クリードとの戦いでほとんどの道具は使い切ってしまった。まぁあったところで青葉に通用するかはわからなかったが、クローヴンのカードが抜きとられるのは運が悪い...戦闘力で言えばクローヴンしか青葉に対抗できなかった...。さてここからの勝ち筋は...。)」


 バンバと青葉の一定の間合いを保ちながら、お互いがいつ動くかを警戒していた。そして、先に仕掛けたのはバンバだった。


 「!」


 案の定バンバの攻撃は簡単に青葉に防がれ、そのまま押し返されて蹴り飛ばされる。その際に引っかけられたワイヤーに引っ張られ青葉も吹っ飛ぶ。


 「...!!」


 青葉はすぐさまワイヤーを鎌で斬って着地したと同時に先に着地していたバンバに踵おとしされて地面に押さえつけられるが、力尽くで起き上がり、近くの木にバンバをぶつける。


 「...!」


 バンバはすぐに締め落としも動けなくすることも無理だと悟り、後ろに勢いよく倒れこむようにバク宙して青葉を持ち上げて脳天を勢いよく地面に叩きつけて距離を取る。しかし、青葉は平然と起き上がる。それを見たバンバはため息を吐きながら今の攻撃が無駄だったと悟る。


 「俺が血鎖狩人ブラッティソルだからって容赦ねえな。」


 「自分より強い相手に加減してられる程余裕を持ってない。」


 もう日の出の時刻、寝ていた生徒たちも起きる頃合だ。今度は青葉が仕掛ける。


 「ぐっ...!!」


 何とか青葉の攻撃を防いだバンバだが、もうバンバの携行している道具はないと踏んだ青葉は容赦なく攻撃の連撃を叩きこみながらクローヴンから受け取ったカードを抜き取ろうとするが、それはできなかった。


 「(バンバも逆手持ち...今は防御...。? もう一本の短剣はどこに...。)」


 その瞬間、手首にズキッとした痛みが走る。バンバが青葉の連撃を防御している最中に生じたほんの僅かな隙を突いて短剣を投げたのだ。神流を昏倒させた睡眠薬を塗った短剣をそれに手首を切られた青葉は強烈な睡魔に襲われて動きを鈍らせる。その隙を突いてバンバは青葉に攻撃を仕掛けるが、強烈な睡魔に襲われながらも意識を保っている青葉に防がれ、反撃されそうになった。


 「強烈な睡魔で今にも昏倒しそうなお前と、初めからフィジカルで勝てない俺...これでようやく...五分と言ったところだ。」


 「にしては...賭けだったな。俺に気付かれてたらお終いだった...。」


 「気づかれてたらな。だが結果としてお前は強烈な睡魔に襲われている。さて...効力が切れるまで起きてられるか? そもそもカードを抜き取られず、俺の攻撃に対応することができるのか?」


 バンバの言葉に青葉はニヤリと笑って鎖鎌を回し始める。


 「(できそうなのが本当に質が悪い...。血鎖狩人ブラッティソル...ここまで面倒とは...。)」


 そうしてバンバは双剣を構え直して青葉に攻撃を仕掛ける。青葉の動きは鈍いものの鎖鎌で的確に対応してカードを奪わせないどころか、バンバのカードを奪う余裕を見せている。さっきより確実に戦いやすくはなったもののバンバは中々青葉に攻め切れない。


 「っ!!」


 バンバが順手持ちに切り替えて短剣の切っ先を向けて攻撃を仕掛けてきた刹那、青葉の分銅がバンバの腹部に直撃した。


 「ぐっっ...!!」


 そのまま吹っ飛ばされたバンバは木々を貫いて地面に転がった。その映像を見ていたほぼ全員が同じことを思った。


 「流石に青葉勝ったか~。」


 「...。」


 「そうね。」


 強烈な睡魔に襲われながらも何とか意識を保っている青葉は気絶してるかもしれないバンバの元に歩いていくと、仰向けに倒れていたバンバは平然と立ち上がって青葉を見据える。


 「すげぇな...今ので気絶しなかったのか...何なら強く打ちすぎたと思ってちょいビビってたんだが...。」


 「いいや? お前より俺の方が驚いているさ...。さっきまであった疲れや痛みが今はほとんどないんだ...。」


 「は?」


 映像を黙って見つめていたクリードが生徒たちに微かに聞こえる音量で呟いた。


 「血鎖狩人ブラッティソルに...なったのか...。」


 「「「!?」」」


 全員はその言葉に驚愕しながら映像を真剣に見始める。


 「感覚が妙に研ぎ澄まされている感じ...変な気分だが...さっきよりは...勝ち目があるかもな。」


 それを肌で感じ取った青葉は驚きのあまり睡魔が吹き飛ぶ。初めて自身と同じ、血鎖狩人ブラッティソルのNo.1と戦う事への恐れと僅かな楽しみに笑いながら青葉は構える。


 「暗殺者が正々堂々と戦うのは...らしくないだろうが...この感覚が本物かを...確かめておく必要がある。」


 バンバは青葉でも捉えられなかった速度で斬りかかる。


 「!?」


 しかし、青葉は後ろに倒れながらバンバを蹴り飛ばして受け身を取る。バンバは片方の短剣を受け身を取りながら投げる。青葉はその短剣を弾く、投げた衝撃と弾かれた衝撃で小さな衝撃波が起こるが、2人は気づいていない。弾かれた短剣をバンバは取りながら青葉との間合いを詰めていき、双剣のリーチの短さを有利に生かす為に、鎖鎌のリーチの長さを潰す為に距離を取らずにストーカーのように付きまとって攻撃をするが、青葉も巧みに攻撃を受け流して距離を取りながら鎖鎌で反撃をする。


 「...!!」


 「(ここまで打ち合えているということはやはり体に変化が起きた。血鎖狩人ブラッティソルとなったと見てもいいだろう。だが...なったばかりの今では道具を携行していた時の搦め手は鍛錬し直さなければならないだろう。力の確認は済んだ。このまま戦えば互いに体力が尽きてほぼ相討ちのような状態になる。勝ち筋は変わらない。カードを抜き取る事...。そして運よくこの激しい戦闘で俺もだが、青葉のポーチの紐も壊れかけている。)」


 バンバがそんな事を考えていることなぞ知らない青葉はさっきまで保っていた優位性を失って苦戦を強いられていた。その中でポーチからはみ出したカードを見つける。


 「?」


 それに気づいたバンバはすぐさまカードを抜き取って後方に投げる。それを青葉がキャッチしようとした瞬間にバンバがポーチの紐を切って落ちるときに飛び出したカードを取る。


 「くっ...!」


 青葉もバンバのカードを取っている。判定はどうなるのかと2人が考えていると質問する前に林明の声が響く。


 「コンマ二秒...バンバがカードを取るのが早かった。よって今回の進級試験の最優秀者及び最優秀チームは...バンバとクローヴンチーム!」


 クローヴンやフェブル、カーツェの歓声とグラスハッド、銀狼、神流の拍手、凍燐、冰燎、レゴンの悔しそうな声が入り混じった声が響き渡る。


 「はぁ...はぁ...土壇場で覚醒って...マジかよお前。」


 「どうやら運は俺に味方したようだ。」


 疲れ切った青葉に手を差し伸べたバンバの手を取って2人は固い握手を交わした。


 「お疲れ。」


 「ああ。お疲れ。正直その土壇場のが無ければ...勝つのは絶望的だった。」


 進級試験は終わりを告げ、1年次の最優秀の称号はもちろんバンバとクローヴン、優秀は青葉とクリード、優良はフェブルと凍燐リンジエとなって2年時にどの生徒も欠けることなく進級した。


 そして、進級試験の映像を細かく見ていた林明と花は楽しそうに彼らの未来について話す一方でダリウスはバンバと青葉、クリードとバンバの戦闘をより細かく見ていた。


 「バンバ・キルラエル...。殺さないという条件はあったがクリードに勝った。漆暗青葉...。クリードと最終的には相容れない考えを持っている。...この2人は流石に林明と花が連れてきただけはある...。要警戒対象だ...。」


 ダリウスはそう言いながらバンバと青葉の写真にナイフを突き立てて部屋を出た。

次話「特別任務 前夜」

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