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恋架け橋で約束を  作者: 桜坂ゆかり
第五章 七月五日
28/45

孝宏君とお出かけ

 雪乃さんと別れ、さて秘密の場所へ向けて出発、ってところで、往来から誰かが駆けてくるのが見えた。


 それは、智君だった。

 すぐに会釈を交わすと、智君が言う。

「二人とも、おめでとう!」

「えっ?」

 お付き合い開始のことかな?

「うん、今日学校で、智や崎山には話したんだ。僕たちが付き合うことになったってことを」

「結局、俺の恋は叶わなかったけど、もう気にするのはやめた。これからは二人を全力で応援するよ」

 智君はさばさばとした態度で言った。

 あ……そういえば……。

 私、告白されたのに、お返事していない!

 そして、孝宏君とお付き合いを始めちゃってる……。

 なんて酷いことを……。


「ご、ごめんなさい! 一緒に出かけたとき、告白してもらったのに、お返事もしないままで……」

 頭を下げる私に、「気にしないで」と手を振る智君。

「いいってば。佐那ちゃんは最初から、孝宏のことを気に入ってたんでしょ。俺はそれに薄々感づきつつ、ダメモトで告白しただけだからさ。結局駄目だったけどね」

 自嘲気味に言う智君。

 私のせいで、何人もの人が傷ついてるんじゃ……?

 雪乃さん、美麗さんもそうだし……。

 私は、自己嫌悪にさいなまれつつあった。

「佐那ちゃんは何も悪くないから、そんなにしょげるなって」

 明るく言ってくれる智君。

「それに、俺はもう次の恋に取り掛かろうとしてるから」

「えっ? 誰と?」

 孝宏君が聞く。

 私も気になった。

「まぁまぁ、うまくいってから話すよ。何度ふられても俺はめげないからな。ああ、そうそう。夏祭りのときはごめん。二人に謝らないとな」

 何のことだろう……?

 智君は続けて言った。

「美麗ちゃんと利害関係が一致して、作戦を決行してたんだぜ。俺は佐那ちゃんが好き、美麗ちゃんは孝宏が好き……ってことだから、夏祭りでそれぞれ急接近しようという計画。今思えば、佐那ちゃんと孝宏にとっては、いい迷惑だったなって思って、深く反省中」

 肩を落とす智君。

 こんな様子の智君、珍しいな。

「気にするなって。僕はこうして、佐那ちゃんと付き合い始めて、今すごく幸せだし」

「孝宏……佐那ちゃんを泣かせたら、いくらお前でも許さないからな!」

 急に真面目な顔で智君が言う。

 孝宏君も真剣な表情になった。

「もちろん。そんなこと、絶対にしないから」

「それを聞いて安心した。おっと、これからデートだったんだな、邪魔してごめんな。じゃあ、俺はこれで………あ、そうだ! その前に!」

 会釈をして立ち去ろうとした智君が、回れ右をする。

「はい、これ!」

 智君は、長方形の形をした、小さな紙切れのようなモノを、私たちの前に差し出した。

 孝宏君が「何これ?」と言って、受け取る。

 孝宏君の手にあるそれを見ると、「ライブハウス『とこぎり』定期ライブ・チケット 7月6日(日)」と書かれていた。


「ああ、明日のライブに、シンギング・ケバブも出るのか。そういえば、そんな話を崎山がしてたな」

 たしかに、聞いたかも。

 智君がボーカル、崎山君がベースだったっけ。

「二枚あるから。二人とも、是非是非、見にきてよ」

「うん、分かった! 崎山にもよろしく伝えておいて」

「智君、ありがとう!」

「それじゃ、俺はこのへんで。二人とも、デート楽しんでくるんだぞ。そして、明日、絶対ライブを見にきてね」

 智君はウインクをした。

「うん、もちろん。あ、そうだった! 智と崎山は、夕方から何か予定はある? もしなければ、うちでバーベキューするんだけど、どうだ? 午後五時ごろから準備する予定だから、もしよかったらな」

「これから、明日のライブのリハと打ち合わせだけど、どんなに時間がかかったとしても、午後三時までには終わってるはずだし、参加させてもらうよ。崎山もそうだけど、他にも誰か誘ってもいい? もちろん、孝宏もよく知ってる人を」

「佐那ちゃん、いいかな?」

「うん、私は大丈夫。人数は多いほうが、楽しそうだし」

 私の答えを聞いた智君が、苦笑しながら言った。

「佐那ちゃんやっぱりいい子だなぁ。くっそ~、孝宏に持ってかれちまった……」

 私はどう言えばいいのか分からなかったので、黙っていた。

 すると孝宏君が言う。

「僕の自慢の彼女だから。いくら智でも、絶対に渡さないよ」

「分かってるって。俺はまた新たな恋に生きるからな!」

 力強く宣言する智君。

「それじゃ、また後でな」

 智君はそう言うと、孝宏君と私に向かって、軽く手を挙げた。

 私たちは会釈を交わす。

 そして、智君は元来た道を引き返していった。


「なるほど、このチケットによると、シンギング・ケバブの出番は午前中だね。楽しみ」

「うん、すごく楽しみ!」

 ライブと聞くだけで、私は待ちきれないほど楽しみになった。

 私って、そういうにぎやかな場所も好きかも。

 やっと、少しずつだけど、自分を取り戻してきているの……かな。


「それにしても、あいつの新たな恋のほうも、気になるね」

「智君って、モテてらっしゃるんでしょ?」

「まぁ、学校でもかなりの人気者だね。男女問わずに」

 やっぱり、そっか……。

 でも、智君には申し訳ないけど、私はどうしても孝宏君のことが好き。

「じゃあ、そろそろ僕らも出発しよう」

「うん、よろしく!」

 私たちは秘密の場所へ向けて、静かに歩き出した。


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