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恋架け橋で約束を  作者: 桜坂ゆかり
第四章 七月四日
21/45

お出かけ

 その後、孝宏君の帰宅まで、私は部屋で過ごすことにした。

 おばあさんのお孫さんが置いていったという小説をお借りして。




 お昼を過ぎ、気温がぐんと上がったように感じられる。

 まさに「夏」って感じだなぁ。

 なので、外に出る気にはなかなかなれなかった。

 孝宏君となら、どんなに暑くても平気だけど。


 孝宏君、まだかなぁ。

 今日もどこかに連れてってくれるのかな。

 孝宏君の帰りが待ち遠しくて、あまり本に集中することができなかった……。




 しばらくして、孝宏君が帰ってくる音がして、私は読んでいた本を閉じた。

 今日はどこへ連れてってくれるのかな。

 そういえば、今日はお天気もいいから、あの秘密の場所へまた行けたらいいな。

 私から提案してみよう。


 素早く読んでいた本を閉じ、孝宏君のノックを静かに待つ私。

 数分後、私の部屋のドアをノックする音が聞こえたので、私はすぐにドアを開けた。


「ただいま! 今日はどうだった?」

「おかえりなさい」

 私は、今日も特に何も進展しなかったことを伝えた。

 今日、孝宏君と美麗さんを見たことは、すごく気にはなっていたけど、言いにくくてどうしても言えず………。

 そして、この場で孝宏君に思いを伝える勇気も、私にはなかった。




「そっか……。佐那ちゃんの気持ちがよく分かって、僕もつらいけど……でもいつかきっと記憶が戻って、身元もはっきりするって、僕は信じてるからね」

 おばあさんと同じように、励ましてくれる孝宏君。

 昼間見た光景を思い出すと悲しいのに、こうして孝宏君の優しさに触れるたびに、私の心は躍った。

「ありがとう」

「それじゃ、今日も出かけようよ。今日はね、とっておきのいいものを見せてあげるから」

 孝宏君が明るい表情で言った。

 とっておきのいいものって、まさか……秘密の場所で?

「今日は天気もいいし、秘密の場所へ行ってみない?」

「はい! よろしく!」

 やった!

 行き先が私の期待通りだったので、また声が少し大きくなってしまう。

 ちょっと心がうきうきしてきた。

 我ながら単純……。

 美麗さんとのことも気になっているはずなんだけど……。


 でも、くよくよしない!

 今日、伝えるって決めたんだから。

 そうだ……あの秘密の場所で伝えよう!

 あそこでなら二人っきりだし、告白するのにちょうどいいかも!


「でも、今からだと、暗くなるまでまだかなり時間があるね。それまでは、どこか違うところへ行かない?」

「どこがいいでしょう?」

「うーん」

 孝宏君は考え込んだ。


「今日は本当に暑いよね」

「え、あ、ほんとですね」

「こうも暑いと、泳ぎたくなるなぁ。一緒に室内プールで涼まない? あ、そうだった。佐那ちゃんは泳げるかどうか、覚えてない?」

「残念ながら、記憶にないです……。それに、まず……そもそも水着を持ってないです」

 何となく、水への恐怖心は全くないことが分かっているけど、泳げるかどうかは実際に水に入ってみないと分からなかった。

「だったら買おっか」

「ええっ、申し訳ないですよ~。水着って、そんなに安いものでもなさそうですし」

 ただでさえ、初日に色々と買ってもらっているのに、まだ買ってもらうだなんて、あまりに申し訳ないと思った。


「気にしなくていいよ。あ……もしかして……僕に水着を見せたくない、とか? 気がつかなくてごめんね……」

「ううん、そういうわけじゃなくて!」

 慌てて否定する私。

 そんなこと思ってないのに、誤解されちゃ嫌だ。

「ほんとに申し訳ないからって理由だけです」

「それはほんとに気にしなくていいから。本当に嫌じゃない?」

 孝宏君は顔を真っ赤にして聞いてくれる。

「はい。その……おばあさんに伺って、了解をいただけるのであれば……行ってみたいです」

「それは心配いらないよ。じゃあ、まずモールで買い物をしてから、室内プールへ行こっか」

「はい、お願いします」

 私たちは出発の準備を始めることにした。


 私は今日もまた、初日に買ってもらった帽子をかぶっていくことにした。

 ネイビー(濃紺)のキャスケット帽で、ワンピースと色を合わせている。

 ネイビーは汚れが目立ちにくいので、ありがたいかも。

 準備が済むと、孝宏君と共に、階下へ降りた。




「もちろん、いいよ。可愛いのを買ってあげてね。佐那ちゃんが気に入るのを好きなだけ、ね」

 おばあさんは二つ返事で、水着を買うことにオーケーを出してくれた。

「ありがとうございます!」

「気にしなくていいよ。気をつけていってきてね」

 おばあさんは優しく言ってくれた。

 そして私に意味ありげなウインクを、そっと送ってくれる。

 これって、「頑張れ」ってことかな。

 私もそっと、おばあさんにだけ分かるように、会釈をした。

「今日は少し帰りが遅くなるから」

 孝宏君が、星を見に行くことをおばあさんに伝えてくれた。

「夜道、くれぐれも気をつけるんだよ」

 ちょっと心配そうに念を押すおばあさん。

 孝宏君は「大丈夫」と言ってうなずく。


 そして、私たちは「行ってきます」の挨拶の後、モールへと向かった。




 いつの間にか、空はすっかり晴れ渡っている。

 あれだけ空を覆いつくしていた雲が、今では数えるほどしか浮かんでいなかった。

 雨の心配もなさそう。


 どういう結果になっても、気持ちを伝えないと。

 私は再び、心の中でそう誓った。

 この気持ちをもう抑えることはできないと、自分でも分かってたから。


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