第2話 魔王の継承
『余命一年の娘が「パパは英雄なんでしょ?」と言った日、俺は世界最強の魔王を継承した』
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父「……は?」
俺は思わず聞き返した。
だが影は答えない。
ただ笑っていた。
人間の笑みじゃない。
もっと深く。
もっと不気味な何か。
父「誰だお前」
影「質問が違う」
父「……」
影「お前は知りたくないのか?」
父「何をだ」
影はゆっくりと手を伸ばした。
真っ黒な指先。
まるで闇そのものだった。
影「娘を救う方法を」
その瞬間。
俺の心臓が止まりそうになった。
父「なんだと……?」
影「魔力崩壊症」
影「治療法なし」
影「余命一年」
影「可哀想だな」
父「……ッ!」
影の胸ぐらを掴もうとする。
だが手はすり抜けた。
まるで霧だ。
父「ふざけるな」
影「ふざけているのは人間だ」
父「何?」
影「治療法がない?」
影「違う」
影「作れないだけだ」
影の瞳が赤く光る。
影「魔王なら救える」
父「魔王……」
影「そうだ」
影は一歩近づいた。
圧力が増す。
空気が重い。
呼吸が苦しい。
本能が叫んでいた。
逃げろ、と。
だが。
俺は逃げなかった。
娘を救える。
その言葉だけが頭を支配していた。
父「救えるのか」
影「救える」
父「本当に」
影「当然だ」
影は笑う。
影「なにせ魔王とは」
影「世界の理そのものだからな」
⸻
父「……代償は」
影が少し驚いた顔をした。
影「ほう」
父「そんな都合のいい話があるわけない」
父「何が必要だ」
影は嬉しそうに笑う。
影「気に入った」
影「歴代の候補者は皆そこを聞かなかった」
父「答えろ」
影「簡単だ」
影は言った。
影「お前が魔王になるだけだ」
⸻
沈黙。
数秒。
いや。
もっと長かったかもしれない。
父「それだけか?」
影「それだけだ」
父「娘が助かるなら安いもんだ」
影は目を丸くした。
影「お前……」
父「なんだ」
影「もっと悩まないのか?」
父「悩む時間があると思うか?」
俺は拳を握る。
娘の顔が浮かぶ。
笑顔。
泣き顔。
わがまま。
全部。
全部失いたくない。
父「一年しかないんだぞ」
父「一秒だって無駄にできるか」
影はしばらく黙っていた。
そして。
初めて真面目な顔になった。
影「そうか」
影「なら契約成立だ」
⸻
その瞬間だった。
世界がひっくり返る。
父「ッ!?」
激痛。
頭の中に何かが流れ込んでくる。
膨大な知識。
記憶。
戦い。
破壊。
絶望。
無数の感情。
知らない人生。
知らない死。
知らない世界。
父「ぐああああああああああ!!」
膝をつく。
血が口から溢れる。
耐えられない。
脳が壊れる。
だが。
影の声が聞こえた。
影「耐えろ」
影「娘を救いたいのだろう」
⸻
気付けば。
俺は立っていた。
息が荒い。
全身汗だくだ。
だが。
さっきまでとは違う。
景色が見える。
空気が見える。
人の魔力が見える。
世界が違って見えた。
父「なんだ……これ……」
影は満足そうに頷いた。
影「成功か」
父「成功?」
影「歴代最速だ」
影「普通なら死ぬ」
父「……」
影「おめでとう」
影は笑った。
そして告げる。
影「今日からお前は」
影「第七十二代魔王だ」
⸻
その時だった。
ピコン。
どこからともなく音が鳴る。
父「?」
視界に文字が浮かんだ。
【魔王継承完了】
【固有能力《魔王の書庫》を獲得しました】
【固有能力《支配者の魔眼》を獲得しました】
【固有能力《魂喰らい》を獲得しました】
【現在の魔力量:12】
【歴代魔王平均:1,500,000】
父「……」
父「弱くね?」
影「弱いな」
父「めちゃくちゃ弱くね?」
影「歴代最弱だ」
父「おい」
影は肩を震わせた。
笑っている。
影「安心しろ」
父「どこに安心要素がある」
影「だが――」
影の赤い瞳が細くなる。
影「成長速度だけは歴代最強だ」
⸻
その瞬間。
病院の方角から悲鳴が響いた。
「きゃああああああああ!!」
父「!?」
看護師の声だった。
俺は反射的に振り向く。
病院の上空。
そこには。
巨大な黒い穴が開いていた。
影「始まったな」
父「何がだ」
影は静かに言った。
影「お前の娘を狙う連中が来た」
父「……は?」
影「魔力崩壊症だと思っていたか?」
父「違うのか」
影の表情が消える。
そして。
魔王ですら警戒するような声で告げた。
影「その病気はな」
影「神に殺される者だけが発症する」
父「―――」
次の瞬間。
病院の窓ガラスが一斉に砕け散った。
【第2話時点ステータス】
高瀬 直人
職業:工場勤務
力:90
守:75
魔力:12
スキル:
魔王の書庫
支配者の魔眼
魂喰らい
称号:
第七十二代魔王
評価:
歴代最弱の魔王。




