選ばれし人
「……あの時の、あのお言葉……あれは、そういう意味だったのですね」
「……うん。まあ、リリアさんならそれも含め心配ないと思ったんだけど……それでも、万が一にもって思ったら……ごめんね?」
「ふふっ、なんで謝るんですか」
時は戻り、中庭のベンチにて。
そう伝えると、言葉の通り申し訳なさそうに答えるロイ。ふふっ、なんで謝るんでしょうね。
ともあれ、話を戻しますと――つまりは、ロイは自身と同じ思い……その莫大な魔力を制御できず、大切なご両親を殺してしまった自身と同じ思いを私にしてほしくなかったということで。
……まあ、彼自身言ったように、その点においては心配ご無用なのですけどね。一応、これでも神に仕えていた身――魔力の制御など、全く問題なく出来ますし。尤も、流石にそれを彼に言うほど無神経ではないつもりですけど。
さて、些かくどくなるかもしれませんが、当時の私に彼の真意は分かりませんでした。いえ、身も蓋もなく申してしまえば、真意どころか少しも意味が分かりませんでした。……ですが、それでも――
『……あ、その……はい』
あの日、彼の言葉に茫然と呟いた私。意味は分からずとも、それでも分かったのは――彼が、心から私を心配してくれていたこと。妬み嫉みはあれど、誰からも心配などされなかった私を心の底から心配してくれていたことが、この上もないほどに真摯なその表情からひしひしと伝わって。
ですが、そんなことは何でもない――少なくとも、私にとっては取るに足らないはずのこと。なのに……そんな何でもないことに、どうしてか嘗てないほどに胸が熱くなっている自分がいて。
――その日から、彼を追うようになりました。彼のクラスに押し掛けては、彼と同じ時間を共有するようになりました。幸いと言って良いのか、傍から見れば彼はまるで魔法が使えない落ちこぼれ――彼に特別な想いを寄せるような生徒は、少なくとも私の目からは見受けられませんでした。尤も、そういう生徒がいたとしても負ける気などさらさらありませんが。
ともあれ――彼との日々は、それまでにないほどの幸福に包まれていました。楽しくて、心安らぐ幸せな日々――ですが、一方で些かの苛立ちも覚えていました。それは、魔法が使えないことでロイを馬鹿にする皆さんに対してもですが……何より、それに怒るでもなく奮起するでもなく、ただニコニコと笑っている彼自身に対し些か……いえ、それなりの苛立ちを覚えていました。私も協力しますので、皆さんを見返しましょう――幾度そう力説しても、彼は首を縦に振ってくれることはありませんでした。……まあ、事情が判明した今となっては理解する外ありませんが。
……ですが、そうは言っても――
「……まあ、それでも私はこれで良かったなどとは思いませんけどね。今からでも、貴方が魔力を取り戻せるなら何でもするつもりですし」
「……あはは、ありがとうリリアさん」
そう告げると、困ったように微笑み答えるロイ。いいかげんしつこいと自分でも思いますが、これに関して譲る気はありません。事情は理解しますし、彼の気持ちを尊重したい気持ちもありますが……それでも、我慢ならないのです。ロイが馬鹿にされ嘲笑われる続けることなど、私はどうしても我慢ならないのです。
それに……私の我儘をさしおいても、力というものは本来、貴方のような人のためにあると思うのです。誰よりも心が強く、誰よりも優しい貴方のような人のためにあると思うのです。……そう思えば、貴方があれほどの魔力を授かったのは、決して偶然ではないかと。
――きっと、貴方は選ばれたのです。あの莫大な魔力を得るに相応しい人間として、貴方は選ばれたのです。
……ですが、貴方は弱い。皆に馬鹿にされ嘲笑われてしまうほどに、ひどく弱い。
――だから、私が守ってあげます。誰よりも弱い貴方を、私が守ってさしあげます。だから――
「……まあ、そういうわけなので――是非、覚悟してくださいね? ロイ」
――――これからも、そばにいていいですか?




