第80話 『天空図書館クエル・ストラスファ』
「まず、どうやって『赤の孤島』に行くのかだけど。」
ソラ・ルデ・ビアスの書架の店長にして当人が、これから向かう島への行き方について説明をし始めようとする。
今回は、ルキソミュフィアから銀狼族を避難させると言う目的を遂行させるために必要不可欠の隠れ家の下見に行く訳だが、問題はこの場所をソルフゲイルに追跡されてはならないと言う点が鍵になっている。
基本的にこの書架は、そこいらの普通の書架とは違って禁書と呼ばれる魔導書も所蔵していると言う事から、常々ソルフゲイルに目を付けられて付け狙われていると言う事情があるので、書架の外に出かける時の対策は万全を期す必要があった。
「またニーアーライルや郵便局長さんを呼んできて一緒に行ってもらうとかは、ちょっと現段階では難しそうだしなぁ~。」
そう言ってセレスは頭を抱える。
これから確認しに行くと言う状況であるのもあるが、現時点でのルキソミュフィアの状況が分からないので、迂闊に誰かを呼んで現地確認させるのが難しい。
ソフィアステイルの『慟哭の門』で行くにしても、『門』の方でその場所を認識していないと飛ぶことは難しいので、ソフィアステイルはこの『赤の孤島』探索班に同行する事は決定事項となりそうだった。
「向こうで一気に銀狼族を避難させるにしても、『門』に数百人単位の銀狼族を乗せるのは不可能だよ?もっと効率が良くて具体性のある方法を模索しないと、ルキソミュフィアに我々が行っても無駄足になるのは明白じゃないか?」
『赤の孤島』に同行するのは構わないけど、将来的に『門』に銀狼族を乗せて運ぶのはゴメンだと、ソフィアステイルは首を横に振る。
「確かになぁ~、『門』はどちらかと言うと魔力の高い人を数人程度乗せて、『門』自体の魔力と乗っている人との魔力バランスが安定する事で上手い事行きたい所に行けるようになる・・・・って感じの乗り物だよな~。いくら高魔力の銀狼族がたくさん乗り込んだからって、『門』がその魔力と対等に渡り合えるとは限らないんだよな~。」
意外と結構『門』のシステムの事を把握しているベルフォリスが呟く。
何だかんだで銀狼族を救いたい!と言う願望だけで動いてきたセレス達だったが、肝心要の銀狼族を救い出す手立てに関してはサッパリ解決策が見いだせていない状態だった。
「オヤジが来ていなかったら、アタシは一体どうやって彼等を救い出そうとしていたのか、今更見当も付かなくなっているよ。」
溜息混じりにセレスは肩を落とした。
ソラ・ルデ・ビアスが話し始める前に、書架メンバーが銀狼族を救う手段を持ち合わせていなかった事を知った当の本人は、ますます自身の自信を過剰に高めていったのは言うまでもない。
やたらと自信有り気な雰囲気を漂わせてきた夫にレオルステイルは、
「そんなに自信満々のネタがあるなら、出し惜しみしないでサッサと皆に話したらどうかの?」
と言って背中をかなり強く叩いた。
ゴホンゴホン!とむせ気味になったソラ・ルデ・ビアスは、
「では、まずは拙者の案を聞いてもらいたい!!」
何やら、かなり偉そうに上から目線で話し始めようとした。
自信満々で偉そうなオッサンにしか感じなかった面々は、書架の主に対してガッカリを通り越して残念な人を見る目でその話に耳を傾け始めたのは言うまでも無く・・・・・
(あれ?何か皆の反応が冷たい・・・・)
書架の主は、心の中で泣いていた。
「まず、この書架の2階にある扉の間から赤い月に行きます。」
どうやって『赤の孤島』に行くのかの道順を話し始めたソラ・ルデ・ビアスに残念な視線を向けながら、いつもの面々が耳を傾ける。
まず最初の一歩は皆が想像していた通りの出だしだった。
「次に、赤の月のあの平原の先に昔拙者が作っておいた第二の扉の間に向かいます。」
この第二段階だけはセレスもソフィアステイルにも初耳だった。
レオルステイルだけは何度か利用した経験がある様で、首を縦に何度か振っている。
「第二扉の間には7つの扉があるんだが、その中の右から2番目の青く塗ってある扉に入る。すると白壁の大陸の第二都市である『スウィスルフェト・ラルム』に着く。」
何と!?
赤い月までは書架メンバーもアリエルシアの弓作戦で足を踏み入れた経験はあったが、更にこの蒼壁の大陸外の別の大陸にまで行く事になろうとは、想像などしている者は居なかった。
ここまで聞いていて首を縦に振っているのはレオルステイルだけだったが。
「なるほど・・・・母さんが簡単に白壁の大陸に行けていたのは、この扉を何度も使っていたからだったのか!」
セレスが納得していると、
「そうじゃ!と言いたい所じゃが、実は儂が白壁の大陸に行きたい!と言った時にソラ殿が作ってくれたのがキッカケなのじゃよ。」
と、首を縦に振りながら真実をセレスに伝えた。
「はは~、なるほどなるほど。」
セレスは一度にたくさんの情報が入って来るとパニックになりやすい体質だったが、これ位の速度で時々確認しながら理解を深めていけば、パニックになる事無く自身の知識の一部に組み込むことは容易く出来ていた。
他の面々も、特にベルフォリスは蒼壁の大陸以外の他の所にも行ってみたい願望があったので、
「師匠!色々やるゴタゴタが終わったら、この扉使って諸国漫遊の旅に行ってもイイっすかね?!」
と、意気揚々に尋ねる。
弟子?の質問にソラ・ルデ・ビアスは、
「勿論!!使ってイイぞ!!ただし、節度を守って使うべし!」
何だか偉そうに許可を出した。
そんなやり取りを生暖かく見ていたソフィアステイルは、
「はいはい皆!オッサンの話の続き聞いた方が良いのではないですかね?」
もはやオッサン呼ばわりに格下げされていた書架の主だったが、話をしたい欲求の方が高かったのか、ソフィアステイルの暴言を気にも留めず続きを話し始める事にした。
「そうだ!皆、更に続きがあるんだ!聞いてくれ。」
言いながら、少し咳払いをした後に続きを話し始めた。
「『スウィスルフェト・ラルム』に着いた後、拙者の昔なじみの仲間の居る酒場に行く。街の中心から離れた所にある店なんだが、そこにいる仲間は赤い月から移住してきたヤツなので、気心も状況も把握しているので信頼してイイ。その店に入ったら3階にある屋根裏部屋に案内される。そこに第三の扉の間がある。」
このオヤジは・・・・意外と用意周到と言うか、オヤジもソルフゲイルに対してはかなりの警戒を抱いているんだな・・・・ああ、昔オヤジ所有の禁書をソルフゲイルに奪われているから、だからこれだけの警戒をして行く程の場所なんだろうな・・・・と、セレスはついさっきまで父を蔑みたくなるような気分で満載だった気持ちが、少し青空を見るような感覚になって来ていた。
意外と色々と考えている父親なのだと、少し見直し始めていた。
「酒場の屋根裏部屋の扉を超えると、『赤の孤島』に行くために通る最後の通過点である『天空図書館クエル・ストラスファ』に辿り着く。」
『天空図書館クエル・ストラスファ』
この場に居る、ソラ・ルデ・ビアス以外の全員が初めて耳にする言葉である。
かつて、ソラ・ルデ・ビアスの趣味の一つであった未知なる魔導書を収集すると言う趣味の過程で見つけた禁書。
それを最初に所蔵していたのがこの『天空図書館クエル・ストラスファ』だった。
最終的には迂闊にこのメルヴィ・メルヴィレッジの裏通りの書架に、無防備なまでに保管していた事からソルフゲイルに奪われ、その禁書に書かれていた禁術によって黒竜族と言う悪しき種族が生み出されてしまったので、ある意味今起きている危機の大部分はこの、ソラ・ルデ・ビアスの所為?と言っても過言では無さそうだが。
そんな経緯のある、強い因縁があると言っても過言では無いであろう『天空図書館クエル・ストラスファ』に行くと言う事は、ソラ・ルデ・ビアスにとっては断罪されても何を言われてもオカシく無い場所だとセレスは考えていたのだが。
「『天空図書館クエル・ストラスファ』に着いたら、実は皆にやって欲しい事がある。因みにこの図書館の現在の管理人であるクエル・ストラスファは、昔拙者がまだ若輩者の魔導士だった頃の師匠だったりするのだ。」
と、意外な真実を口にした。




