第64話 電光石火
コレットが追われていた真実は何だったのか。
今の今まで考えない様にしてきたのか、それとも考えが及ばなかったのかはセレスにも分からない。
ただ、今、ミカゲが深層心理の世界でコレットに呼びかけていて、傍らに居るセレスには何も出来ないこの状況の中では、考え事をするしか無かったが、それがかえって色々と思考を巡らせるのには十分な時間を得られていた。
あの時、たまたま偶然コレットはソラ・ルデ・ビアスの書架に駆け込んできた。
当時は~と言っても、実際の所はほんの数日前の話なのに、もう結構昔の事の様に感じる。
その後、グレアラシルと戦闘?になり、結局2人とは友達関係になった。ある意味不思議な出来事である。
セレスもミカゲも、アズワルド商店街の面々以外の友人が出来たのは久しぶりだった。
トトアトエ戦役後、国の運営をメルヴィに引き渡してからは、トトアトエ・テルニア国王と言う名は文書の中だけの存在で、殆どの日々を書架の建物の中で過ごして来た。
そんな中で得た、新たな友人。
人間とライカンスロープの友人と言う、長い人生を歩むセレス達にとっては一瞬の儚い人生しか送れない人間の友人が出来た事が不思議だった。
コレットが追われていたのは嵌められていたからと言う前に、まず『ファタルの子』と言う前提を置いて考えてみると、もしかしたら謎が解ける気がした。
まず、コレットが追われていたのは最終的に『アリエルシアの弓』を得るためだった事は間違いなさそうだが、そもそも『アリエルシアの弓』の存在をソルフゲイルがどこで知ったのか?と言う点が疑問だった。
100年前のトトアトエ戦役の頃には知らなかった筈なので、それ以降に知った事になるだろう。
それ以降に知る事が出来たとなると、このメルヴィ・メルヴィレッジに潜伏していた可能性が高かった。
「トトアトエ・テルニアの内情に詳しく、かつコレットの家にも出入り出来る様な立ち位置の存在・・・・」
セレスは、記憶しているだけの官僚や貴族などの顔を思い出す。
今の国政を動かしているメンバーの殆どがメルヴィ人なので、メルヴィの顔しか思い出せなかったが、その中に思考にちょっと引っかかる人物の存在があった。
「メルヴィ行政官・・・・」
名前は~・・・・と思い出そうとすると、どうしても彼の名前だけが脳内に無かった。
顔は覚えているのに名前が出ない?
他の官僚や貴族の顔と名前は割と多い出せるのに、行政官の名前だけはハッキリと思い出せない。
と言うか、顔の上に偽名が被されている様な、そんな感じの記憶だった。
「もしかすると・・・・・」
呟いた言葉に、レオルステイルが反応する。
「何じゃ?長い事試行していた様じゃが、何か思い当たる事でも見つかったかの?」
そう言ってセレスの顔を覗き込む。
セレスは、
「一人だけ、メルヴィ行政官の顔と名前が一致しないヤツが居るんだよ。今はアルセア・ティアードって名乗ってるけど、本当の名前は別にあるんだ。」
と言いながら首を傾げた。
その名を聞いたレオルステイルは、急に親の仇でも見たような顔になり、周囲の空気を一変させる。
周囲の空気は、これから嵐が来るかのような天候に変化していき、近くに佇む世界樹の葉を揺らす。
横たわるコレットには何の変化も無かったが、今世界樹とつながっているミカゲの表情が若干曇ったのをセレスは見逃さなかった。
「母さん!一体どうしたんだよ!?」
声を荒げてセレスは、レオルステイルに問いかける。
ハっとなった瞬間、レオルステイルは元の表情になり、天候も元の晴れの状態に戻った。
そして、懐から布を取り出し汗を拭うと、コホンと一つ咳ばらいをして何事もなかったかの様に取り繕った。
「す、済まぬ。儂が追い求めてきた仇敵の存在を知ったのでな、つい気分が高揚してしまった。」
言いながら苦笑いをしていたが、内心はすぐにでもメルヴィ行政区に飛んでいきそうな状態になっていた。
「いきなり過ぎだろ母さん?アルセア・ティアードに一体何をそんなに怒り心頭なんだ?まさか昔盗まれた!とか言っていた魔道触媒盗んだのヤツなのか?」
と、理由があって怒っているのだろう?その理由を昔の記憶と結び付けようとしていたセレスだったが、
「いや、違う。それは前に解決している。」
そう言ってレオルステイルは制止した。
だよな~そうだよな?と呟きながらセレスは、元の考えに戻ろうとした。
『ファタルの子』前提でコレットを追いかけて『アリエルシアの弓』を得て、ソルフゲイルは一体何をしようとしていたのか?を考えていた。
だが、行政官の名前で詰まって考えは振り出しに戻ろうとしている。
「多分じゃが、お前の思考能力ではその答えに辿りつくまでに10年は要しそうじゃぞ?」
長きに渡りそうなセレスの思考を遮って、レオルステイルが口を開いた。
「もし、コレットが追いかけられていたのが『ファタルの子』前提だと仮定して、『アリエルシアの弓』を得ようと画策していた人物に、儂は心当たりがあるのじゃ。」
と、セレスが10年かかって捻り出す予定だった?可能性がある答えを、レオルステイルは十数秒で割り出した。
「え??今、何と?!」
思考力が絶賛低下中のセレスは、レオルステイルの言葉を二度聞きしようとする。
「だから、儂は今回のこのコレットの家惨殺事件(仮)の真犯人であろう男の素性を知っていると言っているのじゃ!!」
思考力がとっちらかっているセレスにも分かるように、レオルステイルは自身の言いたい事を今、ブチまけた。
「え?ええ?ええええ??どゆ事?」
更に思考がとっ散らかったセレスは、レオルステイルに疑問符しか投げかけられなかった。
電光石火の如くに話が急展開していく様をミカゲが見たら何と言うだろう?と思いながら、これから難解な説明を子供にもわかるように説明しなければならない事に頭を少し悩ませながら、レオルステイルは事の発端から話し始めた。




