第50話 世界樹のお茶
触媒と依代のそれぞれに、しっかりと魔力が込められた。
ソフィアステイルとレオルステイルは、基本的に魔力の量が無尽蔵レベルなのである一定の量までと言う規定が成されたが、それ以外のメンバーは出来るだけ目いっぱいの魔力を触媒と依代に注ぎ込んだ。
「お陰であちし、近年稀に見る魔力枯渇疲労に見舞われてるんだち!」
一番最初にテーブルに突っ伏し始めていたミカゲを見ながらセレスは、
「本当、アタシの発案とは言え、『アリエルシアの弓』制作に尽力してくれて助かるよミカゲ。他の皆も、ベルフォリスもコレットもお疲れ様。この、世界樹の葉を使ったお茶を飲んで魔力回復して欲しい。」
と、今度はセレスが淹れたお茶が各メンバーのティーカップに注がれる。
世界樹の葉の爽やかな緑色の水面が、部屋の照明に照らされてキラキラと輝いた。
「んん~~!イイ香り!知らなかったぞ?世界樹の葉のお茶が存在しているなど。そもそも世界樹の葉を採取するには守護者と守護管轄地域の管理者の許可を貰う必要があるからな。」
ティーカップに鼻を近づけて深呼吸しているソフィアステイルを見てセレスは、
「まだアタシが世界樹の守護者だった時に採取した葉で作ったんだよ。何せ守護者だからね、世界樹の葉の10枚や20枚位は特に問題無く採取出来たのさ。流石に100枚単位になると世界樹が機嫌を損ねるから、時々世界樹を見に行く度に葉を少しずつ採取して在庫を増やして行ったワケ。」
と言って、世界樹の葉を採取した種明かしをした。
とりわけレオルステイルが世界樹の葉茶をお気に召した様で、先程までのミカゲの淹れていたお茶以上の飲みっぷりだった。
「これは良いな!儂の体質に合っておる!何と言うか、儂の身体の中の世界樹の因子のバランスを調整してくれるような感覚を齎してくれている気がするぞ!」
何やらかなり興奮気味にお茶を絶賛していた。
「お!何か母さんに気に入ってもらえて嬉しいよ!多分世界樹に繋がっていた経験のある人には効果が大きく出やすいのかも知れないな。」
お茶に対する反応の良い人を観察しながらセレスは、今後も世界樹の葉は採取しに行って、世界樹茶をこのソラ・ルデ・ビアスの書架の目玉商品の一つにしてやろう?と目論んでいた。
そうして、しばらくお茶で魔力を回復させた後、いよいよ『アリエルシアの弓』の錬成に入る事となった。
錬成には少し広い所が必要と言う事で、中2階の吹き抜けのスペースの奥にある、謎の扉がいくつも並んだ空間に皆が移動する。
セレスは、1階で一人取り残されているグレアラシルに声をかけるも、「自分は錬成に参加していないので留守番している」と言って付いては来なかった。
この場合、本当に魔力が少ないと言うか、肉弾戦タイプの仲間には寂しい思いをさせてしまう度にセレスは毎回申し訳無い気持ちでいっぱいになるのだが、気持ちが一杯になった所で何も解決しない問題なので、それ以上は考えない様にしていた。
「じゃあ、仕方が無いな、ちょっと広い所に行ってくる。グレ、留守番頼んだよ。」
セレスはそうグレアラシルに告げて、2階の、とある扉の前に立った。
「この扉、母さんとオバさんは知っていると思うけど、実は魔界に通じている。」
セレスは、結構物凄い事をサラっと告げる。
この言葉に一番驚いたのはコレットで、思わず
「えええええええーーーー?!」
と、叫んでいた位だ。
同様に驚いてコレットの驚愕の声にハモっていたのがベルフォリスで、
「ええ?ナニソレ?こんな人間住んでる街の中の建物の中に、うっかりって言う位に魔界に通じる扉置いておいてイイの?いや、オヤジさんが出入りする為?とか言うんだとは思うんだけどでも、こんな街中に置かなくても、アルルス山脈の所に昔オヤジさんが見つけた正規の出入り口あるじゃない?あれから出入りすればイイんじゃない?」
ベルフォリスは、セレスにまくしたてながら何か色々と、興奮と驚愕と焦りとが入り混じり過ぎの感情で暴走しそうになっていたので、
「これ、ベル。何をそんなに慌てる必要がある。魔界生まれのお前らしくないぞ?魔界の者はこう~もっと堂々と構えているべきだと思うんだが?」
見兼ねたソフィアステイルが圧力のある声をかけてきた。
しかし、そんなソフィアステイルの圧力を物ともせず、ベルフォリスは更にまくし立てる。
「って言うかさ、セレスもミカゲも長年この街の片隅に住み続けているから感覚が麻痺しちゃってるのかも知れないよ?何て言うかさ~、この街の人って皆親切だから全然安心!とか思っているんじゃないの?僕?僕なんてトレイルトッカに住み続けてもう200年にもなろうとしているのに、未だに近隣の住民に受け入れてもらえないんだよ?この悲しみはセレスには分からないだろうけど!」
と、最後はベルフォリス自身の愚痴になって行ったので、何だかんだんで結局この環境が羨ましかったのだろう。
「落ち着いたかな?ベルフォリス。やっぱりお前、近隣の住民と言うか人間とあまり交流を深めないまま時間だけ無駄に過ごしてきたんだな。はぁ・・・・お前が鞄に入れている、オヤジが書いた人間との付き合い方の本ばかり読んでいるから進歩が無いんだ。」
セレスは、ベルフォリスの言い分を聞き終えた後、ベルフォリス愛読の書を批判した。
その、セレスの父の書いた本の中では最も信用に値しない本だと言う認識を、コレット以外のメンバーは誰しも思っていたので、ベルフォリスを説得するかの様に皆は、首を縦に何度も振っていた。




