第43話 氷炎竜グレアリー・ニーゼンヴォルフ
そして、間近に見える世界樹の梢を望みながら、
「まずは、『門』を使わずに儂の力で世界樹の所に行こうかの。ミカゲも待ちくたびれて・・・居ないかも知れないけどな。ソフィアも付いておくれよ?久しぶりに~っと我が夫殿が居ないが、それ以外の家族が全員揃うんじゃからの。」
レオルステイルはソフィアステイルに、勝手に居なくならない様に釘を刺した。
「はいはい分かっているよ姉さん。確かに我らが一堂に会すのは随分久しぶりの事だからね、ミカゲにも顔を見せたいし行くよ私は。」
ソフィアステイルは姉の提案に特に意義は無かった様で、背後でぽっかり展開していた『門』を閉じて収束させ、『門』の影響力を完全に沈黙させた。
それを確認したレオルステイルは、
「二人とも、儂に捕まるのじゃ。儂と世界樹の間にある繋がりを利用して飛ぶからの!」
言われたセレスとソフィアステイルは、小柄な体のレオルステイルに掴まった。
二人がしっかりと自身の身体を掴んだのを確認すると、レオルステイルは繋がりの力を使って世界樹の目の前まで移動した。
そこには、暇を持て余して眠りこける大きな竜が横たわっていた。
「ミカゲ~!」
セレスは眠りこけるミカゲの目の前に立つと、寝ぼけ眼でミカゲが返答する。
「あれ~?セレス早いちね~。出かけてからまだ3時間も経ってないお?あ、ソフィアさんお久しぶりだち~あ、レオルさんも!」
ミカゲは、まさか薄っすら開けた視線の先に旧知の人が2人も来ている事に、驚いたり喜んだりした。
その度にドでかい竜の身体が揺れて、寝そべっている地面に振動が走った。
それを見たレオルステイルは、
「うんうん、これなら大丈夫じゃろう。それにミカゲの竜の種族は『氷炎竜グレアリー・ニーゼンヴォルフ』種だから、もしかしたら儂よりも世界樹との親和性は高いやも知れぬ。それに何より『氷炎竜』は100年位は何も食べなくても生命活動を維持できる程の魔力を溜め込めたりするからの。世界樹の守護者にはミカゲの方が適任やも知れんな。」
そう言って、ミカゲの鼻先を撫でた。
何の話をしているのか分かっていないミカゲは、鼻先を撫でられていい気分になっている。
この提案?の様な話を聞いたセレスは、ようやく自分に課せられていた大きな荷物を降ろせそうな事に安堵したが、ミカゲに世界樹の守護者は務まるのか?の不安も募った。
「母さん、もしミカゲが世界樹の守護者になった場合、アタシの様にやっぱり守護している世界樹のある土地に縛られたりするのか?それとも竜の場合は縛られずにどこへなりとも移動は可能なのか?」
セレスは、一番危惧しているミカゲの行動範囲について問いかけた。
レオルステイルは、少しの間逡巡した後何かを思い出して口を開いた。
「多分大丈夫じゃろう。確かこの世界樹の最初の守護者は竜で、その竜もまた『氷炎竜グレアリー・ニーゼンヴォルフ』だった筈だからの。と言うか、『氷炎竜の始祖』である『グレアリー・ニーゼンヴォルフ』その者だった筈だから、儂よりも親和性は高い筈じゃよ。更に、儂の所蔵する古文書には、儂よりも前の世界樹の守護者をやってた竜族は、世界の危機とも言える『暗黒竜』が現れた大戦の時には微力ながらと言って大戦に加勢して、見事暗黒竜を討ち取った!と言う記載があるのでな、むしろ儂やセレスなんかより全然守護者向きの竜だと言えるだろうよ。」
そう言って、セレスを勇気づけた。
これでセレスの、100年に渡る長い世界樹の守護者としての任期を終え、ようやく解放される事になるのだが、まさかのミカゲが世界樹の守護者に適任の竜族だった事に、かなり驚いたのは言うまでも無かった。
「と言う訳なのじゃが、ミカゲ、お主はこの提案に賛同してくれるじゃろうか?」
レオルステイルは、ミカゲの鼻先に手を置いて、ミカゲに問いかけた。
ミカゲは、
「あちしは、セレスが楽になって助かるんなら良いちよ!でも、セレスがまた泣いたり苦しんだりするのは嫌だち!レオルは長い間セレスを苦しめたんだから、あちし的ににはしばらく娘孝行して欲しいんだち!」
と、少しレオルステイルに怒りながらも同意した。
これで、今日からこのメルヴィレッジの世界樹の守護者はミカゲが担当する事となるのだ。
ミカゲの言葉にレオルステイルは、
「分かった。約束しよう。以降もうセレスを悲しませたりする事は無い。儂は今まで100年もの間罪を犯してきた。だから、これからの人生はセレスの為に使う事にしようぞ。」
そう、誓いの言葉を述べた。
この言葉を聞いたミカゲは安心して、
「なら良いち!あちしは凄い安心したち!それなら善は急げだち、早くあちしを守護者とかにしておくれだち!」
ミカゲは、かなり急かしてレオルステイルに願った。
その言葉を聞き遂げたレオルステイルは、世界樹の幹のあの、セレスがミカゲに仮守護者設定する時に使っていた操作箱を引き出して何やら良く分からない操作をし始めた。
程なくして、ミカゲがこの世界樹の守護者になる設定が終わり、セレスに課せられていた守護者の拘束やエネルギーを世界樹に吸収されていた繋がりなどが、一気に外れて行った。
セレスは、世界樹からの拘束とも言えるモノが身体から離れると、スッキリと爽快な気分になった。
今まで、ついさっきまでは特に何をしていなくても、徐々に体力が削られて行くような感覚をずっと感じていたのだ。更に、何かしらの魔法を行使しようものなら(この間の錬成魔法とか)、急激に足元から何かが崩れ落ちる様な、そんな妙な恐怖感のようなモノも感じていたのだ。
「これで、ようやくアタシは、何者かの制限もなくオバサンの『門』の力を借りなくとも、世界の隅々まで行ける!!」
セレスの、ここ100年の願いがやっと今叶った。
空は綺麗に青く、雲一つ無かった。




