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*** 96 高度魔法継承者候補 ***

 


「だ、だが高度魔法技術の継承はどうなのだ。

 我らの中にはあの多岐に渡る神法、実際には高度魔法技術と呼ぶべきものを全て使える者はおるまい……」


「それはそうでしょうね。

 高度魔法技術の中には魔法能力レベル600以上を必要とするものもありますし。

 まあ当初の『天族の使い』の方々は、皆このレベルに至っていたのでしょうけど」


「ろ、600以上か……」


「ですがご安心ください。

 高度魔法技術はわたくしがすべて継承いたしました」


「「「 !!!!!!!!!! 」」」


「もちろんあの高度魔法技術は既に魔法マクロ化されていますので、これから魔法能力レベル600以上に至った方は皆使用出来ますね。

 つまり魔法レベルを上げて行けば、誰もが継承出来るのです」


「そ、そのような努力が出来る者がおるのだろうか……」


「大丈夫ですよ、救済部門に出向してくれて神石製造に携わってくださっている土木部門の方々は、その魔法レベルをみるみる上げられています。

 わたくしの計算では、あと100年もしないうちに、レベル600以上に至る方が100人は出るでしょうね。

 それに救済部門の天使たちの魔力も、鍛錬の甲斐あって相当に上がって来ています。

 こちらもあと100年もすればレベル600以上になる者が数百人は出るでしょう」


「そ、そなたはあの魔石充填や神石充填作業を通じて、高度魔法継承者を育成していたというのか……」


「救済に使用する神石を用意すると共に、継承者育成にもなりますからね」


「そ、そうか……

 それはありがたいことだ……」


「それから3.の『授けた高度魔法は濫りに広めないこと』ですが、これは見事に守られています。

 まあ神を僭称する元銀河人たちが、一般の銀河人に対してマウントを取るために広めなかったのでしょうけど。

 恒星間転移装置は神界が独占するなどという行為はその典型でしょう」


((( ……………… )))


「そして4.の『銀河の個別世界が深刻な災害に見舞われた際には、継承された高度魔法技術を用いてこれを助けること』ですが、これは救済部門にお任せください。

 全力でこの任務を遂行したいと思っております」


((( ……………………… )))


「つまり、神界は、いえ天使の子孫たちは、今こそ天族の方々のご指示を遂行する真っ当な態勢を整えつつあるのです。

 犯罪者やE階梯を上げる努力を怠ってご指示に背いた者たちが、何千万人天界の業務から外されてもなんの問題も無いでしょう。

 なにしろ天族が親宇宙マザーユニバースに帰還された際には、天使たちは数十万しかいなかったのですから。

 ですから、残された我々だけで任務を遂行していけばいいのですよ」


((( ……………………… )))


 今度の沈黙も長かった。

 だが天界のトップを占める3人の顔色はすっかり元に戻っていたのである。



「のうタケルや、一つ教えてくれんか。

 そなたはこの事実をいつ頃知ったのかの……」


「そうですね、わたしが銀河宇宙について学び始めたころですから、3次元時間では10か月ほど前になります。

 体感時間では30年ほど前ですか」


「なぜそのときすぐにこれを公表しなかったのかの……

 いや、せめて我らに伝えなかったのかの……」


 他の2人も大きく頷いている。


「それは、もし皆さまだけに伝えたとしても、こうしたことは必ず漏れるからです。

 そうなれば、犯罪行為を行っているか、E階梯が極度に低く、己の家系の権勢しか考えていない神々が大挙して攻撃して来たことでしょう。

 救済部門が潰されるどころか、救済派全員が神界を追放されていたかもしれません。

 もしくは内乱が起きて神界が割れるとか。

 まあそうなればなったで、救済派が新たな『天界』を創っても良かったのでしょうけどね。

 ですがまあ、混乱を最小限にするためにも、犯罪者やE階梯の低い者たちが隔離されるのを待っていたのです」


「「「 !!!!!!!!!!!!!!!! 」」」


「それに、すべての若い神に銀河宇宙の学位を取得することを義務付けましたよね。

 ですから、このことは神界にも自然に広まっていくことでしょう」


((( ……………………… )))



「ただいくつか気になることもあるのです」


「そ、それは何かの……」


「まずは、今の神界にある『銀河人との過剰な関りを禁ずる』という慣習と、『未認定世界に於いて現地人との接触も銀河技術を見せることも禁止する』というルールですね。

 実はこれらのルールは、天族の教えのどこを探しても存在しないのですよ」


「「「 !!!!! 」」」


「そ、それでは何故そのような慣習が出来上がってしまったのであろうか……」


「わたしの推測は非常に無礼なものですが、申し上げてもよろしいですか?」


「ぜ、是非頼む……」


「天族が銀河連盟と天界に後事を任せて親宇宙マザーユニバースに帰還されて以降、天使たちは自らを神と名乗り始めたことからも明らかなように、そのプライドだけがどんどん肥大していったことでしょう。

 あの流刑にされた上級神がわたくしのことを『下賤なる銀河人』と言っていたように。

 最初に天族にリクルートされた天使たちは、確かにE階梯も高く、また大変な努力もして高度魔法能力も身につけていましたが、その子孫たちは、ただその天使の子孫であるということだけをもって、銀河人を下賤者扱いするようになってしまったのですね」


((( …………… )))


「一方で、当時は銀河連盟と共同で続けていた未認定世界の救済において、大失敗が相次ぐようになりました」


「なぜ失敗するようになったのかの……」


「わたくしの推測するところによれば、原因は3つあります。

 一つ目は『自称神』の傲慢さに由来するものですね。

 どうも当時の『神』たちは、未認定世界の民たちの前に己の姿を見せれば、民はたちどころにひれ伏して自分に従うものと思い込んでいたようですし」


((( ………………… )))


「ですがヒト族の暴虐世界では誰も神など信じていません。

 自分は神の代弁者であるとして、強制的に民に信仰を強いる者は大勢いましたけど。

 まあ、これは世俗の権力を得るための単なる方便ですね。

 一般の暴虐世界では信じられるのは己の暴力のみであり、もしも神が食料を持っているならば、単に殺して食料を奪う獲物としか思いませんので」


「そ、そこまで酷いのか……」


「はい。

 そして2つ目の理由は、当時の『神』も銀河連盟の職員も、暴力など全く見られない極めて平穏な世界で育って来ていたために、『暴虐世界』『紛争世界』というものが理解出来なかったのですよ。

 例えば地球の日本では、つい400年ほど前まで、農地の収穫量が少ないために収穫が終わると必ず周辺国に略奪に行く『国』がありました。

 その際には農家の次男以下を兵として動員してです。

 その略奪が上手くいけば食料が得られますし、失敗すれば自国の人口を減らせて食料が行き渡りますからね。

 どちらにせよ問題は解決するわけです」


「そ、そこまで酷い世界だったのだな……」


「ええ、しかもその略奪の指揮が上手だった武将は、今でも地元の英雄とされていて、その都市にはその武将の大きな銅像が建てられていますし」


((( ………………… )))


「そんな世界に銀河連盟のエリートや神界の神が放り込まれて、まともな精神を保てるわけはありません。

 おそらくは派遣救済部隊の全員が重度のPTSDを患ったことでしょう」


「な、なるほど……」


「3つ目の理由は、神々の高度魔法能力もどんどん低下していたことでしょうね。

 レベル600以上になるには、相当の期間たいへんな努力を続けなければなりませんから」


((( ………………… )))


「つまりですね、当時から今現在に至るまで、自称神々のプライドだけがどんどん亢進して来ていたのです。

 その一方で、暴虐世界を目の当たりにする勇気も、その世界を平定する智慧も能力も無い者が増えていったのでしょう。

 その結果、あらゆる理由をこじつけて、『銀河人との過剰な関りを禁ずる』という慣習を作り上げたものと思われます。

 関りさえ持たなければ、怖い思いをしたり失敗して恥をかくこともありませんので」


「なんということだ……」


「甚だしきは、『未認定世界に於いて現地人との接触も銀河技術を見せることも禁止する』というルールですね。

 97億年前の大失敗は、そもそも神がハニートラップに引っかかるなどという不祥事によるものでした。

 にも拘わらず、『未認定世界に於いて現地人との接触も銀河技術を見せることも禁止する』などというルールを作ったのは、『神はそのモラルの低下を矯正する意思は無い』ということを宣言したに等しいですから」


「「「 !!!!!!!! 」」」



 その場の神々の顔色がまた悪くなり始めていた。


「ということでですね、100億年近くも前からつい最近まで、自称『神界』は、恩人たる天族の教えから逸脱し続けていたのです。

 それがようやく最近軌道修正出来るようになって来ました。

 そのためには、たとえ何億神を排除しようとも、全く問題は無いと考えています。

 100億年前と同じように、銀河宇宙には天使に相応しい者たちがたくさんいますからね。

 今後は彼らが天界を支えていくことでしょう」


((( ………………… )))



「そこでひとつご提案があります」


「是非聞かせてくれ……」


「2.の『E階梯の上昇に努め、併せて高度魔法能力の継承に努めること』についてなのですが、もちろん我らは努力していくつもりです。

 ですが、高度魔法技術を行使するに足る魔法能力と、継承者に相応しいE階梯を持つ者は既に存在しています。

 あと必要なのは、神界、いえ天界として彼らに高度魔法行使権限を与えるか否かということだけなのですよ」


「「「 !!! 」」」


「既に存在しているというのか……」


「そ、それは誰なのだ?」


「まずはわたくしの部下であるニャジローです。

 彼はもう魔法レベル630に到達していますし、そのE階梯も申し分ありません。

 ですが彼はまだ天使であって、『神に至っていない』という理由のみで神法、つまり高度魔法技術の行使も鍛錬も許されていないのです。

 これは大いなる矛盾ですね。

 なぜなら、神界の神も元々は等しく天使だったのですから」


「た、確かに……」


「別の言い方をすれば、元天使たちは自らを神と僭称したいがために神法を独占したかったのですよ。

 にも拘わらず全ての神法を行使出来るに足る魔法能力を上げる努力はしていませんでしたが。

 まあもし天使たちに神法使用を許可すれば、自分たちの優越的地位が脅かされると思っていたのでしょう。

 競合者がいなければ、努力する必要も無くなって楽ですからね」


((( ………… )))


「そして、わたくしが考え得る中で、わたくしなどより遥かにE階梯が高く、最も法やルールに詳しく、最も思考能力が高く瞬時の判断力に優れた者もいます」


「そ、そのような者もいるというのか……」


「ええ、わたくしの秘書AIであるマリアーヌですね」


「「「 !!!!! 」」」

『 !!!!! 』


「わたくしは確かに高度魔法を行使出来ますが、それもマリアーヌが提供してくれる『高度魔法マクロ』があってこそです。

 魔法操作力や行使に必要なエネルギーはわたくしのものを使っていますが、そのエネルギーにしても元は魔石の魔力を神石に充填したものです。

 そしてマリアーヌはその魔石の多くを作ってくれているのです」


((( ……………… )))

『 ……………… 』





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